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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第4章 三分鼎立・輝煌三角・三人致死
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第70話 成長

「やあ皆、ただいま!」


 一週間ぶりに帰ってきたキュアリスはそう言うと、隣にドスンと巨大な物体を置いた。

 折れ曲がった円錐状の物体で、キュアリスの身長の倍ほどもある。

 黒くて禍々しい皺のような筋が数えきれないほど走っている。


 ローアは小さく手を上げて質問した。


「言いたいことは色々ありますが……、なんですか、それ?」

「ああ、これ? お土産。ドラゴンの角」


 キュアリスは『ドラゴンの角』をぽんぽんと叩きながら言った。

 それが角なら、本体はどれだけ大きかったのだろうかとシェイルは考えて戦慄した。闘技場くらいの大きさがあったのではないだろうか。


「黒角竜が近隣の国で暴れているから討伐に行ってきたんだよ。

 でかいし、飛んでるし、頭いいし、戦いづらくて苦労したよ」

「そ、そうなんですね」

「いやー、これ、持って帰ってくるのすごい苦労したんだよね!

 でもがんばってる弟子たちが喜ぶ顔が見たくてね! がんばっちゃった!」


 キュアリスは無邪気に喜びながら角を叩いている。

 マジか。どこまでズレてるんだ、この人。


 キュアリスが角を叩いている隙にシェイル達は素早く顔を見合わせた。

 誰か欲しい奴はいるのか?

 ……。

 いない! 当然だ。


 絶対に欲しくない奴は?

 ……。

 全員! 当然だ。


 視線が飛び交う。

 無言で誰が貧乏くじを引くかの駆け引きが行われる。

 遅々として進まない交渉を終わらせたのはリーダーのシェイルだった。


「……じゃんけんで決めよう」


 全員がつばを飲み込んで無言でうなずいた。

 じりじりと距離を取り、構える。


「「「「「じゃんけん、ぽん! あいこでしょ! しょ! しょ!」」」」」


 勝負は三回で着いた。

 勝ったのはココだった。

 ココは自分の右手のチョキをにらみながらキュアリスに近づいた。


「ココがもらう、ことになった」

「そう! 大事にしてね!」

「ああ……、あり、ありがとう……」


 ココは必死で苦笑いを浮かべて礼を言った。

 そしてその角を見つめて途方に暮れた。

 あの巨大な角はどうすればいいのだろう。

 宿の部屋に置くことになるのだろうか?

 部屋の真ん中どころか空間全てを占領しそうだ。

 いや、そもそもドアを通らないな……。

 どうすればいいんだろう?


 シェイルがそう考えていると、ココがおもむろに角を指さした。


「キュアリス、その……」

「なに?」

「ココではその角を持ち運べない。宿にも置けない。だから……」

「うん」

「今度、ドミナトス様かミケルマ様に会ったら預けてくれ」


 シェイルはその発送は無かったな、と思ったが心の中で首を振った。

 ドミナトス達は魔王の一人だ。勇者であるキュアリスがそんなことを了承するはずが……。


「オッケー。いいよ」


 人類の勇者(キュアリス)はあっさり了承した。

 っる。マジかよ。


「じゃ、これは観客席にでも置いておこう。

 ……さて、君たちの成果を見せてもらおうかな。必殺技はできた?」

「ああ、できたよ」

「いい返事だね。じゃあ、見せてもらおうか。……実戦で」


 キュアリスはそう言うと、地面を思い切り殴った。

 地面に亀裂が走り、そこから土魔法で何本も石が槍のように突き出てくる。


 その攻撃はキュアリスに殺され続けてきたシェイル達にとって慣れたものだった。

 開始時に距離が近い場合、必ずと言っていいほどこの技を使う。


 強力な打撃で威圧し、槍を出すことで相手に距離を取らせる。

 相手との距離が充分に取れたら、自らの機動力で間合いを詰め、意表をついて攻撃する。

 攻撃したらまた間合いを取る。また詰めて攻撃する。

 その繰り返し。


 それがキュアリスの戦闘スタイルだ。

 単純なヒットアンドアウェイ。

 厄介なのは一撃が即死級に重く、動きも素早いことだ。

 防御も固ければ、治癒魔法も強力。

 魔力も潤沢で、二時間戦闘を続けても底は見えない。


 けれど。

 無敵ではない。決して不死ではない。

 一週間前の時点で、アドルモルタの攻撃は一度も当たっていない。

 しかし、魔剣ニルゲイドでの攻撃は何度か防御されている。

 わずかだが、|傷をつけることができる《ダメージを与えられる》とわかっている。


 相手のスタイルはわかっている。

 必殺技もそろえた。

 勝てない相手じゃない。

 勝てる。

 勝てる。


 シェイルはアドルモルタを構え、正面から迫ってきているキュアリスに向かって横薙ぎに払った。


「白炎閃・薄衣うすぎぬ!」

「おっと!」


 キュアリスはシェイルから放たれた炎の斬撃を反射的に跳んで避けた。

 しかし、真下を通過する斬撃を見て顔をしかめた。


「ずいぶんと魔力が少ないな……。

 これは……、ひょっとしてジャブかな?」


 キュアリスが視線をシェイルに戻すと、再び二本の斬撃が飛んできていた。

 彼女は『! げっ!』と叫ぶと、斬撃を手で払うようにガードした。

 斬撃は重く、一本につき片腕ずつ弾かれた。

 両腕の皮手袋が無残にもズタズタになる。


「……」


 キュアリスは無言で眉間にしわを寄せてむき出しになった両腕とシェイルを見ている。

 手袋の下の腕に、肉の腕は無かった。

 あるのはただの石の塊だった。

 キュアリスは皮手袋を引きちぎるようにして外し、地面に投げ捨てた。


「油断したよ。いきなりこれかぁ。やるじゃない、全く……」


 石腕の勇者(キュアリス)は石の指でガリガリと頭をかいた。

 シェイル達は彼女の言葉を黙って聞いていた。


「シェイルは見たことあったっけ、私の腕。

 私、半分しか人間じゃないんだよね。半分は石の塊(ゴーレム)なの。

 腕の立つ魔法使いが誰かを生き返らせようとして作られたのが、私。

 ……あ、いや、別に気にしてるわけじゃなくてね?

 腕以外の見た目は人間だし、不自由は無いから別に大した問題は無いの。

 問題なのは……、手袋が無いと『魔法を使ってしまう』から危ないんだよね」

「魔法って、どんな魔法なんだ?」

「相手の本質を砕く魔法。

 感覚的に発動しちゃうから直接対象に触れるとまずいのよ。

 どーしようかな。仕方ないから明日にしましょうか?」

「その手袋、見てもいいですか?」


 ローアはノイアが担いでいる背負子しょいこから、ぴょんと跳び下りて言った。

 キュアリスはズタズタになった手袋を拾い、近づいてきたローアに投げ渡した。


「いいよ。でも、どうするのそれ?」

「解析して複製します。キューちゃん、お願い」

『キュー……』

「え……、ちょっと待って、なにそれ。なんか知らないのがいるんだけど!?」


 キュアリスは驚いて後ずさった。

 ローアがキューちゃんと呼んだそれを、わなわなと震える指で示した。


「なにそれ!?」

「キューちゃんです。かわいいでしょ? 私がデザインしたんですよ」


 ローアはキューちゃんをよしよしとなでた。


 キューちゃん……。

 それは浮遊する立方体だった。底面には四本の足が生えている。

 ただし、これはローアいわく飾りで地面においても歩くことはおろか立つこともできない。

 立方体の正面には眼窩を模したような穴が二つ空いていて、たまに光る。

 ……ローアは『かわいい』と言っているが正直少し不気味である。


 目の下に平行に立方体をぐるりと一周する線が引かれている。線からは上下に棘のようなものが飛び出ている。

 シェイルには口のように見えるのだが、ローアによるとそれは『茨の首輪』だとのこと。

 首輪……。

 つまりはキューちゃんもシェイル達と同じ。奴隷仲間なのだ。


「まさか……、それ、演算機? 作ったの? 自力で?」

「はい!」

「い、一週間も経ってないよね!?」

「すごいですよね! キュアリスさんならわかってくれると思ってました!」


 ローアは狼狽するキュアリスを見て満足げに胸を張ってシェイル達を振り返った。


「ほらご覧なさい! 言ったでしょうが! この子はすごいのよ!」

「いや、多分すごいのはローアだよ。あと別にすごいのは疑ってなかったよ」

「違うのよ! もっとこう……!

 もっと大げさなリアクションが欲しかったのよ……!

 そう! キュアリスさんみたいな!」

「ローアちゃん! すごいよ、これは!

 こんなことできるの魔王くらいだよ!?」

「ほらね!?」

「なるほどね。……え? 魔王くらい? 

 え? そんなにすごいの?」


 シェイルはここに来て心底驚いた。

 まさか魔王クラスの代物だったとは……。


 さて、『キューちゃん』とは演算機というものらしい。

 演算機カルキュレイターだからキューちゃん。

 演算機とは、元の世界で言うところのパソコンのようなもののようだ。

 魔法を使う時に必要な計算を代わりに行ってくれるものだとか。

 もちろん科学製ではなく、魔法製。ローアが魔法で作ったものだ。

 原理についても説明されたが、かなり高度な理論が飛び出してきて何一つ理解できなかった。


 演算機という名前が既についていたので、てっきりそういう物を作れる魔法使いがいるものだとばかり思っていた。

 きっと一流の魔法使いたちの領域に足を踏み入れたんだろうな、とそれくらいの心づもりでいた。

 頼りになる仲間だと。


 ……そこまでとは思わなかった!

 ちょっと頼りになり過ぎるだろう!

 人間の領域突破してるなんて!


「まあ、正直なところシェイルの魔力が無ければ作れませんでしたから……。

 全部私の手柄っていうのも変ですね」


 ローアが急に謙遜し始めた。

 どうやら褒められすぎて照れくさくなってきたらしい。

 しかし、それで困るのはシェイルだ。

 だって何もしていないのだから。それで手柄を半分渡されても困る。


「いや、すごいのはローアでしょ、どう考えても……」

「あらあら、ありがとう。

 えーっと、あ! もう解析終わってました。複製しますね」


 ローアがそう言うのと同時にキューちゃんの『口』がパカッと開いた。


「首輪じゃなかったの、それ?」

「細かいこと気にしないの」


 開いた口から、プリンターよろしくキュアリスの手袋が出てきた。

 形はやや歪だが、破れていないちゃんとした手袋だった。

 キュアリスはそれを手に取ってまじまじと眺めた後、手にはめた。


「おお……、ちゃんと機能してるよ、これ。

 すごいね。けっこう複雑な魔法が使われてるし、魔力もたくさん必要なのに」

「そのくらいの複雑さなら大丈夫です。魔力はシェイルから拝借していますし」

「え? いつの間に?」

「アンタがボーっとしてる時よ」

「うーむ……、すごいな。ちょっと予想以上だ……」


 キュアリスは皮手袋をキュッとはめ直した。


「本気でかからないとうっかり負けちゃうかもね」



 ***



「じゃあ、再開しようか。準備はいい?

 ……この石が落ちたら開始ね」


 キュアリスはそう言うと、足元の石ころを拾い、真上に放り投げた。

 石は重力に従い、数秒後、地面に衝突した。


「はじめ」


 今回、キュアリスはいつもの地面殴打を使用しなかった。

 代わりに、フェリクスに向かって直線的に突っ込んだ。

 拳を振り上げて言う。


「君はどういう技を覚えたのかな?」

「見よ、我が歩法『尺取虫』を!」

「尺取虫ぃ!?」


 フェリクスは速度を急変させてキュアリスの拳を回避した。

 拳が空を切り、キュアリスの顔に驚愕が広がる。


「面白い技ね!」

「それはどうも。『剃刀の太刀』!」

「……っ! ……くっ!」


 フェリクスは避け様にキュアリスに軽くかすめるように一太刀を浴びせ、すぐに離脱した。

 反撃しようとしたキュアリスの拳が再び空を切る。


「あーもう、細かい戦い方を覚えたわね。ナイスだわ」

「ココも褒めてくれるか?」


 キュアリスが見下ろすと、足元にココが立っていた。

 相変わらず気配が薄く、素早いとキュアリスは感心した。

 ココを認めるや否や、拳を振り切るが、避けられた。


「君も何か変わったのかな?」

「ココは何も。ただ、ローアがこれをくれた」


 ココは掌一杯に飴玉のようなものをいくつも持っていた。

 キュアリスが訝し気に眺めていると、ココはそれをキュアリスの真上に向かって投げた。


「えーと……、『スターマイン』!」

「……どこに投げているの?」

「お前の上に投げろと言われた。見てればわかる」

「じゃあ、見ましょうか……」


 キュアリスは放物線を描いて真上を飛ぶ飴玉を見た。

 それらはちょうど彼女の直上で弾けた。

 少し眉をひそめたものの、キュアリスは真っすぐに見つめたまま観察している。


 弾けた飴玉の中から更に小さな飴玉が落ちてくる。

 それらはキュアリスの周りで破裂し、煙を出した。


「煙幕? でもこれじゃあ、そっちも見えないでしょ? どうやって―――」


 キュアリスは言い切らないうちに少し跳躍した。

 そのすぐ下をシェイルの白炎閃・薄衣の斬撃が通過する。


「なるほどね。横薙ぎなら関係ない、ってこと?」


 キュアリスは空中で土魔法を使用し、手から石柱を出した。

 石柱を地面に突き立て、さらに上へ逃げる。

 キュアリスがさっきまでいた位置を斬撃が通過する。

 彼女は眉をひそめた。


「位置がバレてる……?

 ああ、そうか。ココちゃんか。索敵魔法を持ってたわね。

 ローアちゃんと視界でも共有してるのかな。

 あの子、本当に厄介ね。

 演算機を出せるようになったから、魔法を使いたいように使いたい放題って感じか……」


 キュアリスは次々に飛んでくる斬撃を紙一重でかわしながら、次の手を考えた。


「次はローアちゃんを叩いてみましょうか。

 司令塔の防御はいかがなものかしら?」


 着地した瞬間を狙って飛んでくる斬撃をアクロバティックにかわし、ついでにシェイルに岩つぶてを指ではじいて飛ばした。

 ガン、と硬いものに命中した音がした。


「あっちも硬いわね。強くなってて嬉しいわ」


 キュアリスはシェイルが防御している隙に煙幕から抜け出した。

 案の定、目の前にフェリクスがいた。

 キュアリスはすでに右腕を振り上げている。


「手の内が見えれば、動きを読むのは難しくないわ。

 最適な動きが最善とは限らないのよ」

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