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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第4章 三分鼎立・輝煌三角・三人致死
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第65話 クリア

 五分ほど経って、グレートタートルとオオムラサキアリの足音が聞こえなくなったのを合図に、シェイル達は魔法で作った壁を崩した。

 グレートタートル達は移動していたが、後を追うのは簡単だった。

 踏み潰されたオオムラサキアリの死骸が点々と転がっていたからだ。


 グレートタートルとオオムラサキアリの大群は通路を進んだ先の広場で互いに争っていた。

 グレートタートルがアリを踏み潰し、アリはグレートタートルの身体に這い登り電撃を浴びせハサミで噛みつく。

 甲羅の上の木々の何本かはアリの電撃のせいか燃えていた。


 その様を見てフェリクスは感心したようにうなった。


「壮絶だな。いや、壮観と言った方がいいか」

「どっちでもいいわ。さっさと終わらせましょう」

「決着がつくまで待たなくてもいいのか?」

「必要ないよ。大きな魔法を撃つ準備する時間さえ稼げればそれでよかったから」


 シェイル達はグレートタートルとアリの注意をひかないようにこっそりと広場の中に入った。


 足元のアリを目で追っていたせいか、敏感に物音に反応したのかはわからない。

 ちょうどその瞬間、グレートタートルは向きを変えてシェイル達を見た。


 グレートタートルの瞳の色がアリへの怒りからシェイル達への憎しみに変わったのが、遠くからでもわかった。

 グレートタートルは足元のアリの群れを完全に無視してシェイル達に突進を始めた。

 数百メートルは距離があるが、一分かそこらでここに来て全員を踏み潰すだろう。


「わっ!? きっ、こっちに来ますよ! ににに逃げましょう!」

「そうだ! 逃げるぞ!」

「静かにしろ、二人とも」


 浮足立ったノイアとココにフェリクスが低く言った。


「じっとしていろ」

「でっ、でも、カメが―――」

「通路は広い一本道だ。戻っても踏み潰されるだけだ。意味がない」

「ココは逃げ切れる!」

「そうだな。貴様は逃げ切れる。だが、我々は死ぬ。貴様はそれでいいのか?」

「何が言いたい!?」

「ここで待て。シェイルとローアを信じろ」


 フェリクスはそう言ってシェイルとローアを指さした。

 二人はブツブツと呪文を唱えながら、目を閉じている。

 意識を共有させて魔法を放つ準備をしているのだ。


 しかし、その間にもグレートタートルは徐々にその姿を大きくしていく。


「カメに対抗できる火力があるのは二人だけだ。

 俺達にできるのは二人の集中力をできるだけ削がないように静かに見守ることだ」

「ココはそんなのは嫌だ。自分が生きるか、死ぬかは自分で決める!」

「貴様、勝手だぞ」

「あの、フェリクスさん」

「なんだ? ノイア」

「私はできることはあると思います。お二人に任せきりにするのもいいですが、手助けをする方法を考えるのも―――」

「あの、みんな、ちょっといいかしら? ……シェイルは続けてて」


 ローアは少しやつれた表情でフェリクス達の方を向いた。

 魔法の準備で疲れているのだろう。

 ちらりとグレートタートルを見て言う。


「二人で魔法の構築をしてるけど、少し……ほんの少し時間が足りないわ。十秒くらいかしら。

 だから……どうにかして時間を稼いでちょうだい」

「ふむ……」

「じゃあ、私は構築に戻るわ」

「ああ。己の非を認めよう。十秒を稼ごう」

「どうしましょう……?」

「その程度ならやれることはある」


 フェリクスは素早く兜を脱いだ。さらに、肩、胸と上半身の鎧を次々に脱いでいく。

 いきなりの脱衣にノイアは困惑した。


「な、なにしてるんですか?」

「二人を担いで後退する。鎧を着ていては痛いだろう。きっとタイムロスになる。だから脱いでいる」

「そ、そうなんですね……」

「ノイア、貴様はローアを、俺はシェイルを担ぐ」

「ココは? ココは何をすればいい?」

「ココ、貴様が一番重要だ」


 フェリクスは貴族らしく、いつも通り背筋をピンと伸ばしてココを見下ろした。

 ココもつられたのか、背筋をいくらか伸ばす。

 ココは自分でも無意識に目を輝かせた。


「なにをすればいい!?」

「貴様の一番の長所を生かす。あいつの目の前で走って注意を引け。できるか?」

「できる!」

「よし。気をつけろ、十分に注意を払え!」

「任せろ!」


 ココはニヤリと笑うと、猛スピードでグレートタートル目掛けて飛び出していった。


「よし。

 ノイア、ローアを……」

「はい! 準備はできてます!」


 フェリクスが振り返るとノイアはローアをお姫様抱っこしていた。

 ローアはなんとなく影のある表情で呪文を唱え続けている。


「悪くない……。悪くはない作戦だわ。悪くないのだけれど……」


 フェリクスは目の前の光景になんと言っていいかわからなくなったが、時間が無いのでスルーすることに決めた。


「シェイル、お前はおんぶだ」

「……。ああ……」


 フェリクスとノイアは演算中の魔法使い二人をかかえると、元来た道を戻って走り出した。

 背後からはズシンズシンとグレートタートルの足音が迫っている。

 時々、足音のリズムが狂うのはココの働きによるものだろう。


 足場の悪い洞窟の中を人を一人背負って走るのは、フェリクスにとっても簡単なことではなかった。

 日々鍛錬を積んでいるとはいえ、元々そういう器用なことは得意ではなかった。


「フェリクス……」

「なんだ、シェイル!? 詠唱が完了したのか!?」

「もう少し、静かに、揺らさないで走ってくれないか……」

「……。言葉には気をつけろよ。

 今、この状況でなければ貴様を明後日の方向に放り投げていたぞ」

「今、この状況だから言っているんだ……」

「貴様、さては余裕があるな?」

「無いけど……」

「だったら口を閉じて詠唱に集中しろ!」

「ぐぅ……」


 更に十秒。

 グレートタートルの足音がさらに間近に迫る。

 それの足が地面に着くたびに振動が伝わる。

 甲羅に生えた木が爆ぜる音が、木々の折れる音が、煙の臭いが、つぶれたアリの臭いが否応も無く、教えてくる。

 それが近づいてきていることを。


「おい! 追いついたぞ! まだなのか!?」


 いつの間にか追いついていたココがフェリクス達の前に回り込んできた。

 グレートタートルの足音に負けないように走りながら声を張り上げている。


「まだだ! もう来たのか!?」

「来てるぞ!」


 その時、シェイルとローアの詠唱が同時に止まった。


「……よし」

「……準備ができたわ」

「やっと終わったか!! ノイア!」

「は、はい!」


 フェリクスとノイアは進むのをやめて反転した。

 正面からグレートタートルに向き合う。

 もう、ほんの数歩先まで迫っていた。


 シェイルとローアが声をそろえて最後の呪文を唱えた。


「「火よ。

 渦巻き、射抜き、断ち切れ。

 闇の中より出でて我が敵を滅ぼせ。

 フォンス・ルーティス」」


 シェイルとローアの二人の間に小さな星が出現した。

 それは火だった。丸く、ぐるぐると幾重にも火が渦巻いている。

 シェイルの魔力を取り込んで層を増やし、大きくなっていく。

 両手で包み込めるほどの大きさになると急激にしぼみ、白く細い半直線レーザーになった。

 その線は足元から甲羅の上まででるように動き、グレートタートルを両断した。


 グレートタートルは全ての動きを止めた。

 しかし慣性の法則で、その巨体は止まらずに前進してきた。

 それを見てシェイルとローアは同時に言った。


「「……やべっ」」

「ん、おい! 今のはなんだ!? 止められるんじゃないのか?」

「いやー……、倒した後のことは、考えてなかったなあ……」

「~~ッ! 愚か者がァあああ!」


 フェリクスは勝利した喜びから一転して、怒りで顔を真っ赤にした。

 反転し、すぐに走り出す。


「ノイア、お前も走―――」

「全く、相変わらず間抜けだね。シェイル」


 フェリクスとすれ違いざまに瑠璃のように青い髪がふわりと舞ったのが見えた。

 その髪の色の人物をシェイルは一人しか知らない。


「キュアリス!」

「ハロー」


 キュアリスは左手を上げてシェイル達に手を振った。

 そして直立不動の姿勢のまま、右手で滑り続けているグレートタートルを止めた。

 彼女の足元の地面にビシッと亀裂が入ったがそれだけだ。

 今度こそ、グレートタートルは運動を完全に停止した。


「おめでとう。これで課題はクリアね」


 キュアリスはパチパチと拍手しながら近づいてきた。


「いよいよ、私と修行なんだけど……。みんな、覚悟はできているのかしら?」


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