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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第3章 約束・聖都・石腕
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第60話 圧倒

「魔法ありのタッグ戦だ。基本的に反則は無い。

参った、と宣言した方が負けだ。あるいは戦闘の継続は困難だと私が判断した場合も負けとみなす。

制限時間は30分だ。その時点で勝敗が決していない場合、私の判断で勝者を決める。

両者異論ないか?」


シェイルとローア、フェネラとフェリクスが距離を取って向かい合って立っている。

その丁度、真ん中に立ったルイーズが勝負のルールを説明した。

今回の勝負は彼女が審判をつとめる。

ドットが審判すると不正なジャッジをするとフェネラとフェリクスが主張したからだ。

それなら仕方ないとドットはホクホクした顔で観客席へ消えた。酒を飲みながら観戦を決め込むに違いない。


ローアが手を上げて質問した。


「質問です。なぜ時間制限があるんですか?」

「これは魔法あり、反則無しの真剣勝負だ。致命傷を何度も負い、治癒魔法で治療しながらの戦闘になりうる。

長時間戦えば心身を消耗して治癒が間に合わず死に至るリスクが高くなる。

従って制限時間を設ける」

「なるほど。わかりました」

「他に質問は?

……無ければ試合を開始する。準備はいいか?」

「ああ」

「ええ」

「構いません」

「早くやろう!」

「では……。はじめッ!」


ルイーズは試合開始を告げると、邪魔にならないように大きく跳躍して舞台の端まで移動した。


シェイルはシャボン玉のように大量の水球を吹いた。

それぞれはさほど大きくない。頭より一回り大きい程度だ。密度もそれほどではない。そもそも水魔法なのでダメージは皆無だ。

ローアはブツブツと何か呪文を唱えていたが、目に見えるような効果は表れない。


フェネラは最初何もせずにシェイルとローアの出方をうかがっていたが、シェイルのシャボン水球を見て失笑し、風魔法で水球を吹き飛ばした。

フェリクスは試合開始と同時に剣を肩に担ぎ、シェイルに向かって全速力で突っ込んでいった。

シャボン水球などまるで眼中に無いかのように真っすぐに。

フェネラはフェリクスの道を作るために水球を吹き飛ばしたのだろう。

それでもフェリクスはいくつかのシャボン水球に当たったが、もちろんダメージは無い。


「なんだこりゃあ! コケ脅しにもなんねえぞ!」

「フェリクス! 油断しないの! 魔法は何があるかわからないんだから!」

「わかってるよ、姉上!」


フェネラは顔をしかめ、「わかってないわ」とつぶやき、視線をローアに合わせ、指を鳴らした。

「出でよ、四肢を断つ刃」

彼女の頭上に四つの巨大なハサミが出現する。


「あなた、紅きバラっていう二つ名があるんでしょ? 根元から刈り取ってあげるわね」

「何か勘違いをなさっていませんか?

私は『戦う相手を血まみれのバラの花にする』からその二つ名がついたんです。

ですから、バラを刈り取ると言うならあなたご自身を切り取るのが正しいのですよ?」

「あら、そうでしたの。不勉強でしたわ。

けれど、他人を血まみれにするような手癖の悪い方は手足を切られるのが相応の報いというものではなくて?」

「屁理屈がお上手ですね。素直に非を認めるのも器量と言うものですよ」

「屁理屈? 違いますよ。私は道理を説いているだけです」


そう言うとフェネラは指揮するように両腕を振った。それに合わせてハサミがローアに向かって飛んでいく。

ローアは微動だにせず、その場で指を鳴らした。

「変遷せよ、我がともがらの息吹。壁となれ」

その瞬間、シェイルの吹いたシャボン水球の全てが膨張し、動きを止めた。

ハサミは凍り付いた水球に激突し、停止した。


フェネラはそれを見て顔をしかめた。

シャボンを放ったシェイルではなく、ローアがシャボンを変化させたように見えたからだ。

魔法の主導権は基本的に発動したものの手にある。それを奪うことは可能ではあるが、通常は時間がかかる。ローアのやったそれは通常の範囲を逸脱していた。

つまり、二人の間には極めて強い信頼関係があるということ、主導権の交代を容認しているということだ。


厄介な戦闘になるとフェネラは直観した。

ここまで自由に魔法の主導権を入れ替えながら戦う相手は見たことが無い。

通常は相手それぞれの個性、どんな魔法が得意か苦手かを見極めながら戦っていくのだが、今回はそれが非常に複雑になる。

攻撃が途中で予想外に変化するのだから。


「フェリクス! 止まりなさい!」

「いいや、姉上! こいつ大したことないですよ!

守るばかりで反撃すらしない! 剣に覚えが無いんだ!」

「下がりなさい! 罠にはまっているのがわからないのですか!」

「上等です! 罠も踏み越えてこそ真の騎士と言うものですよ!」

「うちは魔術師の家系です! 下がりなさい!」


フェネラの呼びかけも空しく、フェリクスは突進を止めようとはしなかった。

フェネラは舌打ちした。

「光よ、彼の者の行く手を照らし、敵の目をくらませよ」

フェリクスの頭上、やや後方に強力な光を放つホタルのようなものを配置した。

せめてフェリクスが透明な障壁と化したシャボンに衝突しないようにとの配慮だった。

透明な障壁も強い光を当てれば見えやすい。

ついでにシェイルの目もくらませることができる。


シェイルはローアにシャボンを変化させられてから一切の行動を取っていないようだった。根を張ったように動かない。魔法も使わない。

フェリクスが到着するまでの十秒間、シェイルは動かなかった。

目を閉じてじっとしていた。

ローアは距離を取ってフェネラの攻撃を警戒しつつ、その様子を見ていた。


「怖いのか! 安心しろ! 腹ぁ斬ってやる! 死にはしない!

痛いかもしれんが、すぐに姉上が治癒してくれる!」

「いらない。俺にはローアがいるし、それに―――」


シェイルは目を開けてフェリクスを指さした。


「お前はここまで届かない。

大地よ、我が手足となれ」


地面が絨毯のようにうねってフェリクスの足をすくった。

そのまま幾重にもフェリクスの上に覆いかぶさっていく。

時間をかけて伸ばした魔法の根で大地を掌握した結果だった。


「終わるまで寝てろ」

「バカね、うちのフェリクスはそれくらいで眠るほど行儀良くないわよ」

「え?」

『危険! 引け!』


ローアの警告が脳内で弾ける。

シェイルは即座に後退した。


地面から白い刃が生えるのが見えた。

刃はシェイルが立っていた場所のすぐそばまで伸びている。

シェイルの手足になったはずの地面がコントロールを失い、べきべきと剥がれ落ちていく。

生き埋めにしたはずのフェリクスが白い剣を持って這い上がってきた。



***



シェイルとローアの修行は最初、防御魔法と魔導力、治癒魔法を鍛えることから出発した。

しかし、十日が経過した今、最も成長したのは『共有の魔法』だ。


現状、共有できるのは感覚・魔法・思考だ。

ただし、まだまだローアとの『共有』は完全からほど遠い。


感覚の共有は魔法の習得のために最初だけ役に立ったが、それ以降はとんと出番がない。


魔法の共有はダンジョン攻略ではそれなりに役に立つ。

ローアの魔力はシェイルに比べて少ない。

火力が必要な時、いちいちシェイルが大きな火球を出してローアがそれに触れて魔法を変換して放つという大がかりな手順を踏まなければならなかった。

しかし共有することで、シェイルが大きな火球を出せばそのまま主導権をローアが引き継いで魔法を使用すればよくなった。

つまり、シェイルは適当に大魔法を撃っていればいい。初弾は当たらなくともローアが修正できる。敵も突如として変化する魔法には対応しづらいらしい。

面白いように決まった。

けれど、強すぎてシェイルの訓練にならないのでこれからは使わないことになりそうだ。


しかし、思考の共有は難しい。

そもそも情報を伝達すること自体が難しい(言語化した内容を送ることそのもの)のに、それをさらに受け取る側が理解できるようにしなければならない。

これが異次元に難しい。

まだ数えるほどの単語でしかやり取りはできない。


……ということらしい。

ローアから聞いただけなので詳しいことはよくわからない。

シェイルには思考の共有どころか、共有魔法はいっっっっっさい理解できていないし、再現できない。

完全にローア便りの魔法である。

ローアが気絶すればその時点で崩壊する。


シェイルが上達したのはせいぜい『トランシーバーに上手に出ること』だ。


しかしそれはそれで重要なことだった。

感覚の共有は、魔法の出し方を。

魔法の共有は、魔法の扱い方を。

思考の共有は、何を見るべきかを。

教えてくれるのだ。

それはつまり、ローアの経験をシェイルに共有することに他ならない。

それによってシェイルは未だかつてないスピードで成長することができた。

上手に受け取ることができればそれだけ経験値を稼ぐことができる。



今回の試合で、シェイルとローアが立てた作戦は『共有魔法を使ってかく乱し、相手が慣れる前に決着をつける』だった。

ドットから聞いた前情報だとローアとフェネルはほぼ互角、シェイルは魔法ではフェリクスに勝っているが、剣術では完敗であり、総合的には不利という印象だった。

だからこそ、小手先の技術で混乱させると決めた。

ドットが言っていた『引き算』だ。



***



「ははははは!

見るがいい、これが我がシクアイール家に伝わる魔剣ニルゲイドだ!

あらゆる魔法の道を断つ!

お前たちがちまちま張っている糸などこの剣で斬ってくれるわ!」


土の中から這い出てきたフェリクスは白い魔剣を手に高笑いをしている。


シェイルはとっさにあちこちの地面を大きく隆起させた。

もうフェリクスはかなり近くにいる。

このままボーっと姿をさらしていたら切り刻まれてしまう。


「さあ、出てこい! お前も剣士の端くれだろう!

……おい、腰抜け! さっさと出てこい」


冗談じゃない。

出てもただ斬られるだけだ。

挑発には乗らない。


「はっ、この調子だと師匠の―――。

いや、師匠はドットさんだからいい師匠だな。うむ。

あー……、パートナーの女の程度も知れるな!」


かちん、と来た。

しかし、まだ出ない。


「さぞ気の弱い、意思の無い女なのだろうなあ!」


……今度はまったく腹が立たなかった。

当然だ。全然当てはまらない。

怒るどころか、笑いがこみあげてきた。


「ぷっ、全然合ってねえよ……」

「そこだ!」

「げっ!」

『バカ!』


フェリクスに見つかった瞬間、ローアからも罵声が飛んできた。脳内に。

余裕あるな。

こっちはピンチだよ!

自業自得だけど!


「参ったを言うなら今だぜ?」


フェリクスは肩に魔剣を担ぎ、月を背にしてシェイルの目の前に立った。

シェイルの後ろは自分で作った壁がある。


「誰が? 君が言えばいいんじゃない?」

「ははあ! この期に及んで威勢がいいな!

だが俺は虚勢を張る奴は好きじゃない!

俺は強い奴が好きだからだ!

死ね!」


物騒なセリフを叫ぶとフェリクスは魔剣を振り上げた。

シェイルはこのままだとフェリクスに胸から腹にかけてを袈裟切りにされると直観した。

まず間違いなく戦闘不能だ。

ローアかルイーズのの治癒があれば死ぬことはないと思うが、少し距離がある。

万が一の場合は死ぬかもしれない。

というか、『魔法のつながりを断つ』魔剣の攻撃を治癒できるのか?

できない気がする。


つまり、ここでどうにかしなければかなりの確率で死ぬ。

大丈夫だ。俺の張った根はまだ四本残っている。

最初に張ったのが、三十四本。

魔剣にまず二十本切り落とされ、岩壁を隆起させるときに無理して十本がちぎれてしまった。

俺の魔導力だともうズタボロもいいところだ。一度大地を動かせば一本ちぎれるだろう。

四手でフェリクスを倒す。

いや、倒す必要は無い。俺が間合いの外に出られさえすればいい。

一呼吸分の時間さえあれば、今度こそ封じ込めてみせる。


まず俺の後ろにあった壁を下げた。

隆起をなくすどころか、掘り下げて穴にする。俺はそこへ後ろ向きに倒れこむ。

剣は俺の鼻先をかすめてフェリクスの剣は空を切った。が、一歩踏み込んで再度俺を斬ろうとした。


予想通りだ。その一歩を絡めとる。

体重を込めて踏みしめた地面を落とす。

途中で根がちぎれてしまった。予定の半分程度しか落とせていない。

膝まで地面にめり込む程度か。もっと落としたかったけれど、これでも十分だろう。

さて、次は―――。


「この程度か? 甘く見られたものだ。

それよりも、貴様、剣士だろう? 剣を取れ!

俺と剣を交えるのがそんなに怖いのかっ!」


フェリクスは片足が膝まで埋まった体勢から叫ぶと土を巻き散らしながら突っ込んできた。


防御! 防御を―――!


「遅い!」


どうにか防御しようと伸ばした土壁をフェリクスは文字通り一蹴した。

ただ足で蹴った。

魔剣すら使わなかった。


顔面に土が跳んでくる。思わず目をつぶると、胸と肩、次に背中に衝撃を感じた。

気づけば抑え込まれていた。

剣を喉元に突き付けられている。


「俺と姉上の勝ちだ、平民」

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