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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第3章 約束・聖都・石腕
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第58話 捕り物

 

 十日後。

 シェイル達が宿泊している宿の正面の建物の屋上にて。


「……お前、こんなところで何してるんだ?」

「ひゃわっ!?」


 背後から急に声をかけられて、少女は尻もちをついた。

 丸眼鏡にそばかす、髪形はお団子二つ。

 シェイル達を学園に案内したローアのファン、ノイアだった。


「いてて……。

 えーっと……、あ、あなたこそ、どうしてこんなところに?」

「先に質問したのはココだ。

 どうしてこんなところにいる?」

「うう……」


 三人でいたときは一番バカっぽかったのに、とノイアは心の中でグチをもらした。

 仕方ない。本当のことを話そう。なんだか殺気じみたものを感じるし……。


「えーと……、実は一週間ほど前にみなさんが勇者様に連れられてどこかに行った後、私も探しに行ったんです。でも見つからなくて。

 それでずっと探していたんですが、昨日ついにここを突き止めまして!

 それで、今こうしているわけです」

「……そうか」


 ココは途中から徐々に顔をしかめていった。


「つまり……、ココたちを襲おうとしていたんだな?」

「ち、違いますっ! 全然違いますよっ!」

「……。わかるように……。わかるように言え!」

「あっ、はい! すみません! ごめんなさい!

 えーっと、えーっと……」


 ノイアは手をわたわたと動かしながら口をパクパクさせた。


「その……、ええとそのあの、ローアさんを一目見ようと待っていました!」

「そうか! ローアならいないぞ!」

「ええ!? ローアさんいらっしゃらないんですか?」

「いない。修業に行った」

「そうだったんですね……。

 わかりました。一度帰って出直します」

「そうしろ。ローアにも言っておく」

「え!? それはやめてください!」

「なんでだ? ローアに会いに来たんだろ?」

「いえ、見に来たんです」

「……何が違う?」

「ようやく見つけたぞ、黒いの! 大人しくしろ!」


 ココとノイアが談笑していると屋根の上に男たちがぞろぞろと現れた。

 全員、鎧を着こんでいる。

 ノイアには彼らが聖騎士だとすぐにわかった。


「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! ちょっとした出来心だったんです!

 でもまだ未遂です! 今すぐ帰りますからどうかお許しを―――」


 ものすごい勢いで手をこすりつけて聖騎士たちに謝るノイアを見てココは笑った。


「わはははは! お前、悪いことしたのか! 悪いことしちゃダメだろ!」

「何を笑っている! 不審者はお前だ!」

「ははははは! ははは……は?」

「へ?」

「そこの君、邪魔だから―――じゃない。危ないからどっか行きなさい!」

「私?」


 ノイアは自分を指さした。

 年長の聖騎士は深くうなずいた。

 どうやら彼が聖騎士たちのリーダーらしい。

 ココはあぜんとして口を開けている。


「ココが、不審者……? ふしんしゃってなんだ?

 悪い奴のことじゃなかったか?」

「そうですね。悪い人で合ってると思います」

「何言ってるんだ! ココ、悪いことしてないぞ!

 あ! お前ら、敵か!? 敵だから変なことを言っているのか!?」

「……何を言っているんだ?

 毎日毎日四六時中、街の中……というか屋根の上を走り回り、瓦やら花瓶を壊すわ、人にぶつかるわ……。

 やりたい放題の不審者は貴様だろうが!」

「……。や、ややや、やってない……」


 ココはものすごく目を泳がせ、冷や汗をだらだらと流しながら言った。


「……。おお、そうか。それは悪かったな、お嬢ちゃん」

「ふ、ふん。わかればいい」

「ところで今朝は気持ちのいい朝だったね。

 散歩かジョギングをしたくなるような……」

「ああ! そうだな! とても気持ちのいい朝だった!」

「今日はどの辺を走ったのかな?」

「あっちの方の屋根の上を―――」

「はい。言質げんち取ったぞー。確保しろー」

「なっ! お前ぇ! 騙したな!」

「バカタレ! なにも騙しとらんわ!

 今日一日、牢に入って反省しろ!」


 聖騎士のリーダーがそう叫ぶや、部下たちがじりじりと近づいてきた。

 ココは逃げ出そうとして、服が何かに引っかかっているのに気づいた。

 ノイアだった。

 ノイアがココの服のすそをつかんでいる。


「あなたこそ悪い人だったんですね! 逃がしません!」

「なっ、お前! やめろ!」

「隊長! 彼女はどうしますか!?」

「言動が怪しいかったな! ついでにしょっぴけ!」

「そんなんでいいんですか、隊長!」

「かまわん! 減るもんじゃない!」

「それもそうですね! わかりました!」

「嘘でしょ……!?

 ココさん! 逃げましょう! 一緒に逃がしてください!」

「お前っ!? なんて調子のいい奴だ!!」

「なんでもしますから、どうか助けてください! 足速いんでしょう!?」

「なんでもするって言ったか!?」

「えっ、あっ、いや、えーっと……」

「言ったな? いいだろう、助けてやる!」

「きゃっ」

「うっ」


 ココはノイアをよいしょ、と抱えようとして尻もちをついた。

 ノイア、そして聖騎士たちは無言でじっとココを見つめた。


「お前、思ったより、重いな」

「そんなことないですよぅ! いや、それより! 逃げられないんですかぁ!?」

「任せろ。まだ手はある」

「ホントですか?」

「さあ、お嬢ちゃんたち。漫才はそれくらいにして、そろそろ大人しくしな」

「ふん! やなこった! 大人しくしたっていいことなんかないだろ!」


 ココは叫ぶと踵を返して走り出した。

 つまり、ノイアをおいて逃げていった。

 聖騎士の隊長は顔をゆがめるようにして笑った。


「バカなことを! 追い込め!」


 隊長の合図で部下の何人かがココを追っていく。

 部下は走りながら笛のようなものを短く何度も鳴らした。

 それに呼応するかのようにあちこちの屋根の上に聖騎士が現れた。


 ココは最初から包囲されていたらしい。

 彼女はそれほどのことをしたのだろうか、とノイアは疑問に思った。

 話を聞く限りだと大したことはしていないようだったけれど……。


 ノイアが屋根の上を飛び回るココを見ながら現実逃避して(考えを巡らせて)いると、後ろから肩をポンと叩かれ、飛び上がるほど驚いた。


「どうしてここまでするのか、と思ってるんだろ?

 たかが屋根の上を走るだけの子供に」

「えっ? あー……、ええまあ」

「俺もよくはしらんが、あいつを捕まえてこいとのお達しが来てな。

 こうして必死こいて捕まえようってわけだ。

 ……なあ、アンタ、バカじゃないならこのことは口外するなよ。長生きしたいだろ?」

「し、しませんしません! 長生きしたいです!」

「おお、いいね。若者は素直が一番だ。それでいい」


 聖騎士の隊長はウンウンと満足げにうなずいた。

 そのとき、ダンと一際大きな足音が聞こえた。

 まるで屋根の上を飛んで、着地したような音だ。


 その音を聞いて隊長は振り返りながらねぎらいの言葉をかけた。


「ご苦労さん、早かったな。もう捕まえたのか?」

「ココが捕まるわけないだろ!」


 しかし、そこにいたのは部下ではなく、ココだった。

 仰天して絶句している隊長を前にして、ココは額の汗をぬぐった。


「お前たちの鎧! 重すぎだ!

 蹴落とすだけでも一苦労だ! もっと軽くしろ!」

「蹴落とした、だと……!? どうやって!」

「む……?

 だから、こう、お前たちがココを追って跳ぶだろう。

 そのときにココは振り返って、ジャンプして、蹴る。

 これで落ちる。ココは上手く着地してまた走る」

「バカな……! 聖騎士十人がかりだぞ! そんなあっさり負けるわけないだろうが!」

「嘘じゃないぞ!」

「お前がここにいる時点でそんなことはわかっとるわ! 驚いているだけだ!」


 隊長は剣を鞘ごとゆっくりと引き抜いて構えた。


「仕方ない。手荒なことをするつもりはなかったが、手加減できるような相手ではないらしいな」

「十人がかりで追い回すのは手荒じゃないんですか!?」

「……」

「……あ、すみません。黙ります」


 隊長ににらまれたノイアが視線をそらすのと同時にココは再び逃げ出した。

 が、隊長は微動だにせず、走り去ったココに向けて叫んだ。


「おーい! お前、わざわざ戻ってきたってことは、この女に用があるんじゃないのか!

 さっき約束したもんなあ! 約束をやぶるわけにはいかないってことか?

 殊勝な心掛けだなあ!」

「……お前、忌々しいやつだな!」


 ココは再び隊長の目の前に猫のように四つん這いで着地し、そう吐き捨てた。


「どうやら本当に逃げないらしいなぁ!

 スピードでは勝てないだろうが、これなら俺に有利だ!」

「……」


 ココは無言で他の屋根に飛び移った。

 そのまま次々と動き回っていく。


「ははは! お前の狙いがわかるぞ。俺の後ろに回り込んで攻撃するつもりだろう。

 狭い足場ではお前のスピードはいかせない。

 かといって間合いを広く取れば、俺でもお前が目で追えるぞ。

 さあ、かかってこい! 返り討ちにしてやる!」

「うるさい!」


 ココは隊長の挑発に乗って目の前に現れた。

 隊長が高々と剣をかかげ上げる。


 ココは四つん這いのまま、猫のように腰を左右に軽く振った。


「……」

「……」


 ココは揺れながら相手の目をじっと見ている。

 最後に大きく体を右に振り、ぐっと力をこめるような仕草をした。


「そこだ!」


 隊長はココの左側からえぐりこむように剣を振った。

 剣は見事に屋根瓦を粉々にした。


「ちっ……」

「こっちだ! バカめ!」


 ココは右側から後ろに回り込んで隊長に跳び蹴りをお見舞いした。

 一発ではよろめく程度だったが、止むことのない跳び蹴りに耐えきれずに最後には隊長は地面に落とされた。


「くそぉ! 覚えてろ!」

「誰が覚えるか! バーカ!」


 ココは地面で負け惜しみを言っている隊長に罵倒の言葉を浴びせると、ノイアの目の前で腕を組んで仁王立ちした。


「さあ! 約束は守ったぞ! 今度はお前の番だ!」

「ありがとう! 信じてました!」

「お前、本当に調子のいい奴だな!」

「えーと……、じゃあご飯でも……」

「なんでもするって言ったな」

「……」

「言ったな?」

「……言いましたね」

「ミケルマ様を探すのを手伝ってくれ」

「ミケルマ……様?」

「そうだ。この町に来てからずっと走り回って探しているが、全然見つからない。

 お前も探せ」

「えーと……、聖都のどの辺りに住んでいらっしゃるんでしょうか?」

「わからん」

「……特徴は?」

「特徴?」

「背の高さはどれくらいありますか?」

「これっ、くらい、だ!」


 ココはぴょんぴょんと跳びはね、手で高さを示して見せた。

 しかし、その高さはジャンプするたびに十センチほどズレていた。


「……わかりました。わかんないですけど。

 顔つきは?」

「かっこいい!」


 ココは両腕を一杯に広げて満面の笑みで言った。

 ノイアは引きつった笑顔を浮かべるので精いっぱいだった。

 さらに質問をいくつか投げて、せめて何か特徴らしきものを聞き出そうとしたが、ついぞ役に立ちそうなものを聞き出すことはできなかった。


「よし! これで完璧だな! 二人ならすぐに見つかるだろう!」

「あはははは……。そうですね……」


 ノイアは真っ青な顔で渇いた笑い声を喉の奥から絞り出した。

 明日からの生活のことを思うと、泣きたかった。


「よし、じゃあ早速行くぞ!」

「どこへ?」

「ミケルマ様の捜索だ!」

「い、今からですか!?」

「もちろんだ! さあ行くぞ!」


 ココはそう言って明後日の方向を指さした。

 ここは屋根の上だから当然、道はない。

 ノイアは十メートルほど下の地面を見て言った。

 地上には聖騎士がいて、こちらをじっと見ている。


「私、跳べません……」

「……」


 ココも地上の聖騎士たちに気づいた。

 さっきまで高かったテンションが一気に下がったようだった。


「お前、どうやってここに上ったんだ?」

「後ろに梯子があるんです。それで……」

「……」

「……」

「コ、ココは約束なんかしてない……」

「えっ!? ちょっ、置いて行くつもりですか!? させませんよ!」

「なっ、お前! さっきまで大人しかったくせに!」

「置いてかないでください! 怖い! 聖騎士に捕まるなんて初めてなんです!」

「くそ! ココを巻き込むな!」

「巻き込んでいるのはあなたですよぅ!」


 ココとノイアはもみ合っている間に、聖騎士たちがこっそりと梯子を上ってきていることに気づかず、この後あっさりと捕まった。

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