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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第3章 約束・聖都・石腕
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第51話 試験

「できなきゃ、君には死んでもらう」

「死ん……!? ど、どうして?」


 キュアリスと戦ってダメージを与えられなきゃ死ぬ……?

 めちゃくちゃだ。無理に決まってる!


「意味はないよ。ただの儀式だから。

 君にどれくらいの覚悟があるのか見たいだけ。

 嫌なら帰っていい。好きなところに行くといい。

 君が最初に来た村とやらに、あの巫女と一緒に戻るといいだろう。

 ただし!

 アドルモルタは置いて行ってもらう。

 命よりも大事なものを持たない君には不要な代物だ」

「……」

「じっくり考えたいなら一日あげよう。よく考えるといい」

「……いえ、やります。やらせてください」

「ほう。思ったより早いね。

 死ぬかもしれないよ? いいの?」

「俺は……誰かの役に立ちたい。

 この剣を持つことでようやくそれが叶えられそうなんです。

 カッコいい奴になりたい……。

 だから、この剣は渡せません」

「ふうん、そう」


 キュアリスは露骨に興味を失ったような目になった。


「誰か知らない人間のために命を張れるんだ、君。すごいね」



 ***



「用意は、いい?」

「はい! 大丈夫です!」


 どんな手を使ってもいいと言われたけれど、いつも通りアドルモルタだけ持って戦うことにした。

 他に何も思いつかなかったし。


「あー、ちょっといいかな?」

「なんですか?」

「敬語はやめなさい。相手に飲まれる。

 それじゃあ、私には絶対に勝てないから」

「わかりまし……。わかった」

「うん。いいね!」


 闘技場の真ん中でキュアリスと向き合う。

 何の音もしない。

 観客席には誰もいない。

 ルイーズ、ココ、それにローアさえもいない。

 ドットももちろんいない。

 アルタも、ミルも。


 誰にも見られずに戦うのは久しぶり……でもないか。

 巡礼者の森でグリズリーと戦った時以来だ。


 身体が震える。

 少しでもダメージを与えられなければ死ぬのだ。

 死ぬ……。

 正直、全然実感がわかない。

 崖から飛び降りてしまったような、生ぬるい絶望を感じる。


 大丈夫だ……。

 大丈夫だ、ダメージを与えるだけだ。

 アドルモルタを使えばできるはずだ。

 大丈夫、大丈夫……。


「じゃ、始め」

爆発球エクスプロージョン!」

「ふうん、基礎的な魔法だね。

 小手調べって感じかな?」


 キュアリスは俺の出した火球にほとんど注意を払わなかった。

 かまわずに突っ込んでくる。


「い!?」

「攻撃しないとは言っていない」


 キュアリスは破裂して燃え上がる火球を素通りして、目の前に立った。

 右手を固く握りしめている。


 殴られる、と思った瞬間、腹部に違和感があった。

 殴られた、と思ったときには後ろに吹っ飛んでいた。

 気づけば地面に倒れていた。


「勝てなきゃ死ぬ試験が試験が甘い訳ないでしょう?

 ああ。降参はいつでも受け付けるから、無理はしなくていいよ。

 若気の至りで死ぬ必要は無い。

 見ているのは私だけだ。恥ずかしいこともないからね」


 キュアリスはただ突っ立っている。

 どうやら倒れているうちは攻撃しないようだ。


 爆発球は蒼炎閃を除けば、俺の魔法の中で一番威力がある。

 それがダメだったとなると……。

 いや、待てよ。


「さっき、俺の魔法をモロに食らってたけど、あれはダメージに含めないの?」

「あんなの一日中食らっても、私は死なないよ。

 だからあれはノーダメージ。

 あんなぬるい火じゃダメ」


 クソぉ、言いたい放題言ってくれる……。

 なるほど、これがエリス様とローアが言っていた魔導力が足りないって言う奴か……。

 今更どうにかなるのか?


 あ、一つ思いついた。

 ちょっと人任せ、っていうか勇者任せだけど。


「一つ、質問」

「なに?」

「俺がケガしたら、魔法で治癒してくれる?」

「うん? ああ、えーと……。

 まあ、いいわ。あんまり軽いのはダメだけどね?」

「そ。約束、破らないでね」

「え?」


 俺はアドルモルタを抜いて、火を灯した。

 青い炎が出る。慣れたものだ。

 その炎に俺は左手を突っ込んだ。


「はあ!? 何してるの?」

「ちょっと、知り合いの、やってたことを、真似て、みようかと思って」

「バカねー。ほら、もう手を抜きなさい」

「え、まだ大丈夫……」

「いや、もう指なくなってるでしょ」


 ぎょっとした。本当だった。

 めちゃくちゃ痛い、とは思ったがそんなに燃えているとは思わなかった。


 案外冷たいな、と思ったくらいだ。

 ローアはもっと耐えていた。情けない。


 キュアリスが治癒魔法を使ったのか、指は一瞬で元通りになった。


「で? 何がしたかったの?」

「俺の知り合いはこの炎と同調して、吸収して魔法を撃ったんだ」

「ああそう。君も同じことするの?」

「いや、俺にはそんな繊細なのは無理だ。まだまだ無理。

 今のはちょっとイメージをもらいたくて」

「イメージ?」

「強い炎のイメージ」


 俺は火球を出す時のように腕を突き出した。

 魔法はイメージだとローアは言っていた。

 今欲しいのはぬるい火じゃない。

 アドルモルタの出すような強い炎だ。


「今から新技って訳ね。いいけど早くした方がいいよ。

 あと七分しかないから」

「急かさないで!」

「あと、君もう立ってるから、攻撃するね?」

「えっ!?」


 キュアリスは宣言した後、ワンテンポ遅れて殴りかかってきた。

 俺はすんでのところでそれをかわして……、次のパンチを顔面にもらった。


 ワンテンポ遅らせたのはフェイントだったのだと起き上がるときに気づいた。


「魔法の圧縮は時間をかけても無駄だよ。

 一気に一瞬でやるんだ。そうじゃないとどっちみち戦闘では使えないしね。

 あ、そうだ。手本を見せてあげよう」


 キュアリスはにやっと笑うと両手を広げ、大玉大の火球を一瞬で作った。

 さらにそれをぎゅっと握り潰し、俺に向かってぽいと放り投げた。


「げえっ!」

「ほら! どかーん!」


 俺は背中を向けて全力で走った。

 一秒後、背後で『バァーーン!!!』と、俺の爆発球とは比べ物にならないような音を出して爆発した。

 小さな雷が落ちたような音だ。

 当たったら絶対に死んでた!


「当たったらどうしてくれるんだ!?」

「あはは! 避けられたからいいじゃん!

 ほらほら! あんまりボーっとしてると倒しちゃうよ!」


 キュアリスがスタスタと歩いてくる。

 腕のストレッチをしながら。

 完全にナメている。


 俺は火球を作った。

 いつもより少し色が青い。

 自分でも付け焼刃だと思ったが、少しは効果があったのかもしれない。

 それを圧縮する。

 キュアリスとの言う通り、一瞬で。


 けれど、いつもより火力が上がっていたからか、圧縮を終える前に破裂してしまった。


「がっ!」

「あはははは! 残念!」


 キュアリスは笑いながら俺を治癒すると、即座に顔面を殴ってきた。

 斜め後ろに吹っ飛ばされる。


「くそっ、バカにして!」

「君、弱すぎるもん。

 大層なこと言ってたけど、実力は大したことない。

 滑稽だよ」


 キュアリスはかがんで俺に目線を合わせた。

 笑顔が消えている。


「あと五分。

 ねえ、君、もう一度聞くけど。どうして戦ってるの?

 誰かの役に立ちたいって言ってたけど、君の魔力があればそれを叶えるのは簡単だよ。

 剣は無くていい。

 村に戻って、村人のために魔法を使えばいい。

 世界を救うことはできないかもしれないけど、立派なことよ。

 カッコいい奴になりたいってのもそう。

 剣は要らない。無くたってなれるし、剣が無くてカッコいい人はいくらでもいる。

 どうしてわざわざそんな剣を持っていたいのか、わからない。

 君が見えてこない」

「この剣が好きだから……」

「命を賭けるほど? 本当に?

 私は、君の味方じゃない。友達じゃない。

 その剣を持つ者は資格を問われるべきものだと思ってる。

 君が持っていていいものだとは思えない。思わない」


 俺は観念してため息をついた。


「うんざりだ、この問答」

「へえ。もう答えはありそうだね? 聞かせてよ」

「ローアのためだ」

「……はい?」

「俺がアドルモルタを持って、使いこなして、皆に認められて、自分の意志で誰かを救えるようにならないと、あいつは幸せにならない。

 ずっと罪悪感に縛られたままなんだ。

 俺はあいつに自分自身を許してほしい。

 それが俺がアドルモルタを手放さないと決めた本当の理由だよ」

「へぇ、好きなの? ローアちゃん」

「だ、誰がっ!?」

「あらま、わかりやすいリアクション。

 そっかあ、ふーん……。好きな子のためかぁ……」


 なんだか急におばちゃんみたいな反応をするようになったな。


「わかったよ。納得できた。

 君のことつまらないって思ってたけど撤回するね。

 面白いよ、君」

「褒められてる気がしない……」

「ま、私に一撃入れられなきゃあ、どっちみち死んでもらうんだけどね」


 そこは変わらないのか。

 なんか変わる感じの流れかと思ったけど、そう都合よくは無いか。


「で? 次はどうするの? もうお終い? タネ切れ?」

「安心していいよ。まだもう一つあるから」

「そう、それは楽しみだね」


 地面に手をつく。

 土魔法で地面を隆起させてキュアリスを攻撃した。

 しかし、キュアリスは回避どころか防御すらしなかった。


「……これが次の手? これでダメージになると思ってるの?」

「まさか」

「……?」


 キュアリスは眉をひそめて、俺を殴った。

 吹っ飛ばされる。

 俺は近づいてくるキュアリスを迎撃するためにまた土魔法で地面を隆起させた。

 形状や威力、速度にはこだわっていない。

 ただ、ある程度の大きさにはなるようにした。


 これは隠れ蓑だ。

 障害物でキュアリスの視界を遮るためのものだ。

 残り時間はたぶん四分くらい。

 このまま普通の攻撃をしても永遠にダメージは与えられない。それはわかった。

 かといってアドルモルタの一撃はかわされるに違いない。

 アドルモルタの一撃は一発たりとも無駄にできない。


 なら通常の魔法でどれだけアドルモルタの一撃が入る確率を上げられるかが問題になって来る。

 隠れ蓑作戦はそのための布石なのだ。

 できるだけバレないように慎重に作っていって―――。


 キュアリスは途中で足を止めてまじまじと俺の作った隠れ蓑を見ている。


「もしかして隠れ蓑を作ろうとしてる?」

「……バレた?」

「バレるよ、そりゃ。こんなの基礎中の基礎だもん。

 土魔法の定石の一つだよ」

「知らなかった……」

「もっと練習しなきゃダメだね。やっぱりスピードだよ。

 一気にこの闘技場全体にこれを出せるくらいにならないと私には通用しない」

「なら、これならいいかしら?」


 ローアの声が響いた。

 直後、闘技場全体に俺が出したような地面の隆起がボコボコと出現した。


「来たわよ! シェイル!」

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