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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第3章 約束・聖都・石腕
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第50話 学園

 学園の入口に到着すると、人だかりができていた。

 誰か有名人がいるらしいが、人が多すぎて見えない。


「なにかしらね。誰か来ているようだけど……」

「えーと……。なんでしょう。私はイベントとかあまり詳しくなくて……」

「ふうん。まあいいわ。私も興味ないし。

 ここが混んでるなら庭園は空いてるでしょ」

「俺はちょっと興味あるなあ……」

「ココは?」

「ミケルマ様以外の人間に興味ない」

「三対一よ。多数決でシェイルの意見は却下。庭園に行きましょう」

「行くのは別にいいんだけど……。軽く却下されたのは気になる……」

「ぶつくさ言わない」


 俺たちはローアの隣で学園の説明を聞きながら歩いて行った。

 ローアはとても生き生きとしていた。

 あそこの建物はどういう目的で誰が作ったとか、あそこで受けた魔法の授業が良かったとか、教授は嫌いだったけど、などなど。

 ココはもっと元気いっぱいと言うかほとんどただの子供のようで、さっきの魔法具店街と同じように走り回っていた。

 たまにローアの話を聞きに戻って来るが「つまらない!」と言って走り出すのがパターンになっていた。

 ノイアは俺たちのかなり後ろを付いて来ている。うつむきながら。話にはあまり参加してこない。


 というより、一緒に歩いていない。

 どうしたんだろうか。

 アレかな。ローアのファンって言ってたけど……、憧れの人が近くにいると緊張するとか、遠慮しちゃうタイプなんだろうか。

 それにしても遠すぎる気もするけど……。


 入口から五分ほど歩いて、ローアの言っていた庭園についた。

 巨大で奇妙な幾何学的なオブジェがいくつも置かれている。

 そのオブジェのそれぞれが立体的な花壇になっていた。


 非常に綺麗な花壇だった。

 綺麗と言っても、花がきちんと整理して植えられているから、というわけではない。むしろ整理はされていない。ただ自然に生えるままにしている。

 自然の花畑をそのまま持って来たような綺麗さなのだ。

 どうやって管理しているのか見当もつかない。

 オブジェの真下の地面は対照的に草原のように花が生えていないことから、放置されているわけではなく明らかに区別して世話をされているらしい。

 是非とも春にまた来たいものだ。


「すごいな……」

「すごい!」

「ふふん、そうでしょう」

「どうしてローアが得意げなんだよ……」

「私が連れてこなかったらシェイルもココも来なかったでしょ?

 感謝するといいわ」

「本当だ! ありがとう、ローア!」

「おお、ありがとう!」

「ふふふ……。もっとほめなさい」


 ローアは俺達の賛辞に満足そうにウンウンとうなずいている。


 しかし、これほど見事な庭園なのに人がほとんどいなかった。

 何人か散歩している人がいるくらい。

 さっきローアの言っていた通りだ。

 入口周辺に集中しているのだろう。


「奥にもっとすごいのがあるわよ」

「ホントか!? 行く!」


 ローアとココは奥に歩いて行ったのだが、俺はノイアが付いて来ているかなんとなく気になった。

 やはり近くにはいない。

 人が少ないから見渡すまでもない。

 入口の近くに突っ立っていた。


「ローア達は奥に行きましたよ。あなたも行きましょ?」

「あの……、私はいいです。その、私なんかがローアさんやあなた……達の近くにいるのは……その……」


 それだけ言って黙ってしまった。

 その自信のないさまが自分と重なって見えた。

 

「ローアに……」

「え?」

「ローアにお礼を言いましたか?」

「えっ、あっ、まっ、まだです!」

「言いたいでしょう?」

「はっ、はい! 言いたいです!!」

「じゃ、行きましょう!」

「はい! あ、でも、やっぱり……」


 そう言ってまた固まってしまった。

 これは大変そうだ。



 ***



「うおおおおおお! すごい!」

「そうねー」

「おおおおお!」

「あんまり走らないでね」


 走り回っているココがどっかに行かないように気を付けつつ、ローアは散歩を楽しんでいた。

 秋の涼しい風に花の匂いが乗っている。

 はしゃぎまわるココの声を聞きながら、まるで子供か妹ができたようだと苦笑していると、すぐ隣にココが立っていた。


 なんだか様子がおかしい。

 ついさっきまで元気に走り回っていたのに。


「どうかした、ココ?」

「……なあ、ローア」

「うん? なに?」

「あきた」

「……いきなり?」


 ココはつい十数秒前までの元気がウソだったかのように大人しくなった。


「花ばっかりだと気づいた。

 この花壇も形は面白いが、結局は土の塊だ。

 あきた」

「一体どういう理屈よ……。さっきまではしゃいでたじゃない……?」

「あきたぞー、ローアー」

「あーはいはい、わかったわ……。わかったから、ちょっと待って。

 シェイルと合流してから外に出ましょう。近くにいるはずだから……」

「いないぞ」

「え?」

「シェイルは近くにいない」

「……またはぐれたの!?」

「……また? シェイルは入口のあたりにいる。

 さっきの女と一緒だ」

「女……? ああ、ノイアね……」

「ひっ……。ロ、ローア? だ、大丈夫か?」

「? なにが……?」

「いや、なんでもない……」


 なんだかココが妙におびえた様子だったが、ローアは気にしないことにした。


「そう。行くわよ」

「わかった。

 ……ここまで嫉妬深いとは。ココも気を付けよう……。」

「なんか言った?」

「何も言っていない」


 ローアとココが入口まで戻ると、なぜか人だかりができていた。

 よくよく注意してみると、どうやら例の有名人が庭園に来たようだ。

 少しずつこちらへ移動してきている。


 その時、人垣が少し割れて誰が人だかりの中心なのかがわかった。

 瑠璃色の髪、白い手袋、そして明るい笑顔。

 間違いない。勇者キュアリスだ。


 と、キュアリスが急に足を止めた。

 顔を横に向けて何かを見ている。


 ローアが視線を追うと、そこにシェイルとノイアがいた。

 誰かともめているようだ。

 相手は男が三人だろうか。

 遠いのでよくわからないが、ノイアが責められていてシェイルがかばおうとして口論になっているという感じか?


 シェイルは口論は強くない。弱い。

 絶対に言い負けるだろう。

 急いで加勢に行かないと。


「ココ、シェイル達の所に、早く……」


 ローアが振り返ると、ココは勇者のいる方を凝視していた。

 大きく目を見開いている。

 ローアの声は聞こえなかったようだ。


 次の瞬間、人だかりがどよめく声が聞こえた。

 振り向くと、視界に影が落ちた。

 勇者だ。

 空中にいる勇者が落とした影だった。


 人だかりの中心からジャンプし、シェイルの近くへ降り立ち、仲裁をしようとしている―――。

 と、ローアは跳躍する勇者の後ろ姿を見て思った。



 が。

 勇者は落下してそのまま、あろうことかシェイルを攻撃した。

 石を砕くような轟音が鳴り響き、土煙が舞う。

 それを見てローアは叫んだ。


「いや、なんで!?」



 ***



「―――ということがありました」


 ローアが話し終えると、元老院の面々は困惑と悲嘆のないまぜになったような表情を浮かべた。

 ついでに俺にも憐れみの視線が投げられた。

 エズラは深々と溜息をついてから勇者に尋ねた。


「前半の話は何だったんだ……。

 まあ、それはいい。

 ……どういうことかね? キュアリス」

「どうとは?」

「なぜ何もしていない一般人をいきなり攻撃したのかね?

 君のことだ。ほとんど手加減しなかったんじゃないのか」

「しましたよ。現に生きてるでしょ。

 この子を攻撃したのは、この子が一番危なかったからですよ」


 そう言ってキュアリスは俺の頭をわしわしとなで回した。

 普通なら頭をなでられて嬉しいと感じる。

 が、俺はついさっきこの人の、この手で意識を飛ばされているので単純に、純粋に、シンプルに、ただただ怖かった。


 見上げると、にこにこと笑っている。

 俺からするとその笑顔さえ不気味だった。

 キュアリスは俺が見ているのに気づくと申し訳なさそうに少し表情を変えた。

 つまり、明るい笑顔から苦笑に変わった。


「ごめんね。君、もっと強いかと思ってたの。

 とんでもない魔力の持ち主が学園に来たからビックリして、後を追いかけてきたら、なんか急に魔力がざわつきだしたじゃない?

 誰かを攻撃するつもりかと勘違いしちゃって……。

 人もたくさんいるから、大惨事になるかと思って慌てて止めたんだ。

 本当にごめんね」


 謝られた。

 あれ? 案外いい人なのか?

 と思っていたらローアが横から割り込んできた。


「だからって空からいきなり殴りかかること無いですよね?

 遠かったからよくわからなかったですけど……。

 その……、頭を……砕いたんじゃないですか?」

「うん、そうだよ。生き物の頭蓋を割るのは得意だから」

「……」


 ……え?

 俺、頭を割られたの?

 なるほど。起きたらノイアが吐いて気絶していたわけだ。道理で。

 トラウマにならないといいけれど。

 いや、そうじゃなくて。


「……なんで俺生きてるの?」

「すぐに治癒魔法をかけたからね。

 私、ヒールも得意だから」

「……じゃあ、なぜ頭を割ったの?」

「別に殺すつもりは無かったから。止めたかっただけ」

「あ、そう……。

 ヒールってそんなに強力なの?

 再生とか治癒とかそういうレベルじゃないような気がするんだけど……」

「んん? 何の話?

 君は魔法に限界があると思ってるのかな?」

「無いんですか?」

「無いよ。エリス様に会ったならわかるでしょ?

 そんなことより―――」


 キュアリスは俺から視線を外して元老院たちの方を向いた。

 表情がスッと冷たくなる。


「私にアドルモルタを与える。

 トリビューラから剣を守るために戦闘になる可能性があるから帰って来いって言われたから帰ってきましたけど……」

「ああそうだ。その少年が持っている魔剣はお前に―――」

「イヤです」


 キュアリスはエズラが言い終える前にそう言った。


「嫌、だと?」

「ええ。嫌です。だって私、剣で戦ったことほとんど無いですし。

 拳でずっと戦ってきたのに剣? いまさら?

 いやいやいや、ありがた迷惑もいいとこですよ」

「しかし……」

「しかし?」

「その少年は弱い。彼が持つよりもお前が持つ方が―――」

「ではトリビューラが来るまで残りの二か月を下さい」

「……は?」


 キュアリスはニヤリと歯を見せて不敵に笑った。


「彼は私が鍛えます!」



 ***



「さあ、ここだよ」

「ここって、闘技場ですよね」

「そう。広いし、修業にはうってつけでしょ?」

「そうですね……」


 俺とローア、ココはキュアリスに連れられて聖都の中心部にある闘技場にやってきた。

 ルイーズは残って元老院と話をしている。


 闘技場は外側に門があり、大きな口を開いていた。

 キュアリスはその中に入り、俺を呼んだ。


「さあ、シェイル。おいで」

「はい」


 ローアとココが続こうとすると、キュアリスは『待った』と手を差し出した。


「ごめんね。君たちはここで待っててね。

 ちょっと試験するから」


 キュアリスは差し出した手で指を鳴らした。

 途端にローア達の姿が見えなくなる。


「えっ!? ローア!? 大丈夫か!? ココ!?」

「だいじょぶだいじょぶ。中に入れないようにしただけだから」

「……結界ってやつですか?」

「結界? さあ、それは知らないけど……。

 あー……。アレだよ。中に入れなくするやつだよ」


 キュアリスは手を動かして何かを説明しようとしていたが、諦めて手を下ろした。


「さてと、シェイル君だっけ。

 試験だけど、どうする?

 受けずにこのまま帰ってもいいよ」

「えっ!?」

「あ、外の二人にどう思われるか心配?

 それなら、少し待って受けたふりをして、頃合いで落ちたことにしてあげてもいい」

「いや、そうじゃなくて……」

「元老院のお歴々の手前、ああ言ったけどね。

 私はその剣を持つのもまっぴらだし、君を鍛えるのなんてもっとゴメンなの。

 この二か月は休暇のつもりで帰ってきたから、休みたいのよね」

「じゃ、じゃあ、修業するって言うのは……」

「もちろん嘘よ」


 キュアリスはにこっと微笑んで見せた。


「君を鍛えるつもりなんかさらさら無いわ。

 君はどうなの? 君だって、痛いのとかしんどいのは嫌でしょう?」

「それは、嫌ですけど……」

「ならいいじゃない」


 俺は勇者の笑顔の裏の真意を図りかねた。

 何を考えているのかさっぱりわからない。


「でも、俺が強くなれなかったらトリビューラにアドルモルタを取られるんじゃ……?」

「代打の人を探してるから大丈夫よ。ゲームに勝てばそれでいいんだから。

 負けたらその時はその時よ。

 君がどうがんばっても二か月じゃあ、とてもトリビューラに勝てるようにはならないよ。

 わかってるでしょう?」

「……正直、トリビューラがどれくらい強いのかわからないのでなんとも言えません」

「あはははは! ひょっとして勝つつもりなんだ!? あはははは!」


 キュアリスは俺の返事を聞くなり高笑いした。

 目元に涙をにじませている。


「ははは……。顔に似合わず生意気だね、君……。

 ふふふ、いいよ。気に入った。修業したいなら付き合ってあげる」

「あ、ありがとうございます!」

「ただし」


 キュアリスは急に真面目な顔になって指を一本突き立てた。


「一つ、条件がある。

 今から私と戦ってもらう。

 私に少しでもダメージを与えることができれば、修業を付けてあげよう。

 君は何をしても構わない。どんな手を使ってもいい。

 制限時間は十分。

 それまでにダメージを与えられなければ……」


 キュアリスは指を俺に突きつけた。


「君には死んでもらう」

今回から5日おきに投稿します。

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