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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第3章 約束・聖都・石腕
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第49話 勇者

「石腕の勇者キュアリスです。

 ただいま参上しました。遅れて申し訳ありません。

 ついでにもう三人お客を連れてきました」


 キュアリスが中に入り、少し横にずれた。

 そのおかげで中にいた人たちが見えた。

 ルイーズが俺を見て目を丸くする。


「シェイル!? ローア達も!?」


 ルイーズが立ち上がって叫んだ。

 そんなに驚かれるとは。


「ど、どうもルイーズさん」

「ど、どどどどうしてお前たちがここに、キュアリス様と……?」

「えーと、街でばったり会って……」

「え? 街でばったり……? 初対面ですよね?」

「あはははは! うん、初対面だよ?」


 世界を何度も救ったという勇者は明るい声で笑った。


「いやあ、実に劇的な出会いだったよ!

 面白いから皆も聞いてよ!

 実は―――」



 ***



「さあ、聖都観光に行くわよ!

 二人とも準備はいい!?」

「うーい」

「……」

「テンションひっく……。もう少しやる気だしてよ。

 まるで私が子供みたいじゃない」

「違うの?」

「……。今、なんか言った?」


 ローアにすごい形相でにらまれた。

 慌てて首を振る。


「言っていません! 失礼しました!」

「よろしい。さて、では二人に今日回る場所を伝える」


 ローアは事務的な口調でそう言うとどこからか取り出した地図を広げた。


「行く場所はたくさんあるわ。

 まず、街の入り口のエリス像は……昨日見たからパス……。

 学校! 魔術学校は行きたいわね!

 あの見事な門と庭園を見ない手は無いわ。

 次は……時計塔ね。

 外装も立派なんだけどやっぱり中も見て欲しいわ。

 あの機械的、魔法的な機能美を見て欲しい……! 見に行くわよ。

 大聖堂も見たいわね! それから―――」

「先生!」

「……なにかしら?」

「とりあえず出発しませんか? ココが寝てます!」


 あと、このままだと宿屋の前で日が暮れてしまいそうだし。

 ローアはまだ言い足りなさそうだったが、ため息をついて言った。


「それもそうね。はい、出発」



 ***



 まず最初に魔術学校へ向かった。

 その途中で魔術具の店ばかりが並んでいる通りを横切った。


 前に杖を買いに行ったイルアの街でも思ったけど、魔術具の店は敷居が高い。

 魔法使いが一つ一つ時間をかけて作るからどうしても高価になってしまうのだとローアから聞いた。


 やや場違いな肩身の狭さはあるけれど、それを除けばいい通りだった。

 歩いていて落ち着くし、店の外に置かれたオブジェは見ていて面白い。


 少しずつ色の変わる火を灯したランプ。

 ピタゴラ装置みたいな魔法の工作。

 ローブを着た踊る人形。


 ココはずっと「おおおおお!?」などと大声を出しながら店先のオブジェを走り回って見ていた。

 俺はオブジェを眺めつつ、ローアの魔術学校についての話を聞きながら歩いていた。


「ミュエリス魔術学校はねえ……。

 あ、ミュエリスっていうのはミュア・エリスの短縮でね。

 ミュアは木の下って意味よ。

 だからミュエリスはエリス様の庇護の中とか、エリス様の元で学ぶっていう意味があるのよ」

「へえー。何か……」

「なに?」

「いや、良い名前だね」


 神様の実物を見なければもっと良い名前だと思っただろう、とは言わないで置いた。

 そんな俺をよそにローアは自慢げに胸をそらした。


「そうでしょう? 実は私も昔はここに通ってたのよ」

「へぇ―……。

 ん? えっ!? そうなの!?」


 そう言えばエリス様が学園に戻るとか戻らないとかそんな話をしてたな。

 聖都にある学園のことだったのか。


「ふふん、そうなの」

「いつ?」

「大体三年くらい―――」

「シェイル、すごいぞ! あの店の人形、見たか!?」

「人形?」

「あの! アレだ! 踊ってるやつ!」


 ココが息を切らして俺とローアの前に立った。

 ココは後ろをビッと指をさした。

 しかし、息が切れているせいで指が上下に激しく揺れ、どこをさしているのか全然わからなかった。


「見たか!?」

「あー……、ああ、見たよ。すごいな……」

「な! すごいよな!?」


『もう一回見てくる!』と言ってココは再び走って行った。

 ……何がしたかったんだ?


「子供ねー」

「俺達も子供だけどなー」

「いや、あそこまで幼くはないでしょ」

「まあな。……あいつ、いくつなんだろう?」

「十歳、くらいじゃない? 見た感じでは」

「そうだなあ」


 あんなに小さい子供がどういう経緯でミケルマの手先になったのだろうか。

 子供を洗脳してこき使っていた悪い奴……だったら単純でいいんだけど。

 まあ、いずれにせよ今はわからないな。


「えーと、何の話だったっけ?」

「あー、話がそれたわね。私、ここの学園に通ってたのよ」

「ああそうだった。

 ……えっ、それすごくない? すごいよね?」

「もちろん。聖都の学園よ。

 この国で一番いい学校に決まってるでしょ。

 わかった? 私はすごいのよ。

 しかも入試でトップだったんだから」

「……マジ?」

「ふっふっふ、マジよ!

 ……ま、でも卒業はできなかったんだけどね」

「え? なんで?」

「簡単に言うと……、退学になったの」

「はあ!? いやいやいや、なんで!?」

「……自分で話し始めておいて悪いけど。あんまり言いたくないわ」

「誰にハメられたんだよ!?」

「なんでハメられたの前提なのよ。退学って言ったでしょ?

 普通に私が規則を破ったとか思わないわけ?」

「思わないね」

「まーた適当なことを……」

「適当じゃないよ。

 確かにローアは、まあちょっとした規則くらいなら破るかもしれないけど……」

「フォローになってないわよ?」

「最後まで聞いてよ」

「じゃあ最後まで言いなさいよ」

「ローアは退学になるような規則は破らないだろ?」

「……フォローしているようには聞こえないんだけど?」

「え? そう?」

「はあ、まあいいわ。その通りよ。合ってる。私はそれほど大きな規則は破ってないわ。

 せいぜいエラっそうにしてた身分の高い貴族のボンボンに公衆の面前で恥をかかせたくらいね。

 あれはスッとしたわ」

「やってんじゃん」

「規則は破ってないわ。決闘だったの。私の圧勝だったわ。

 でも審判の先生がソイツとグルで、決闘自体を無かったことにしたの。

 その上、無断で魔法を使ったって私を退学処分にさせたのよ」

「クソだな」

「そう。クソなの。

 だから聖都から立ち去る晩にこっそりあいつらの家を悪臭を放つ泥まみれにしといたわ」

「えげつな……」

「何言ってんのよ。復讐はキッチリしとかないと。

 ……でも、少し後悔してるわ」

「そうそう。復讐はよくないよね」

「泥まみれじゃなくてクソまみれにしてやればよかったって……。

 まあ、その時(・・・)はまだそんな魔法知らなかったから仕方なかったんだけどね」

「どういう後悔してんだよ」


 とんでもない話だった。

 っていうか、当時はまだクソまみれにする魔法を知らなかったって……。

 裏を返せば、今は覚えてるってこと?

 そっちの方がよっぽど衝撃なんだけど。

 ローアを死ぬほど怒らせたらクソまみれになる魔法を食らう可能性があるってことでしょ……?


 怖すぎじゃね?

 とりあえずへりくだっておこう。


「ローアさん……、一生下僕でいいのでどうかクソまみれになる魔法だけは使わないでください……」

「んっ!? げほっ!?

 なっ、なんて!? 今なんて言ったの!?」


 ローアに冗談で命乞いをしたらむせた。

 俺が恐怖に心を蝕まれている間に水を飲んでいたらしい。

 ……悪いことしたかな。


「ごめん。水飲んでるときにクソとか言っちゃって……。

 水飲んでるって知らなくて」

「いや、そこじゃないんだけど。もう少し前のセリフ」

「? なんだっけ?」

「……」


 ローアはしばらくジッと俺の顔を見ていた。

 むせていたからか、顔が赤い気がする。

 十秒ほどして諦めたのか、ローアは深くため息をついた。


「はぁー……。もういいわ。さ、行くわよ―――」

「ローア、顔、赤いぞ? どうした」

「きゃああああ!?」


 ローアは目の前に急にココが現れたので悲鳴を上げた。

 今日のローアはなんだか忙しいな。


「むせたり悲鳴を上げたり忙しいそうだな」

「だ、誰のせいよっ!?」

「ココのせいだろ?」

「ココは何もしてないが!」

「ええい! 二人とも黙りなさい! 行くわよ! 先に!」

「あ、待ってくれよぉ」


 ローアがずんずん先に歩き出したので俺とココも慌ててついていった。

 と、すれ違った同じくらいの年の少女が俺たちを見て驚いて目を見開いた。


「えっ……? 汚泥の魔女……?

 ローアさん? ローアさんですよね?

 あの汚泥の魔女の!」


 少女の呼びかけにローアがぴたりと足を止めた。

 足を止めたが、振り返らない。

 俺にはわかる。これは怒っている。見ればわかる。


「ああ、やっぱりそうだ。あの―――」

「汚泥……? 誰が汚泥ですって……?」

「「「ひっ!?」」」


 振り返ったローアの顔があまりに怖くて少女は尻もちをつき、俺とココまで恐怖ですくみ上った。

 そこに鬼がいた。

 鬼はのしのしと少女に詰め寄り、少女に影を落とした。


「誰が汚泥だって? 誰が? もう一度言ってみなさい?」


 お前を汚泥まみれにしてあげるから、という幻聴が聞こえたのは俺だけだろうか?


「あ、ああ、あの、あの……。う゛っ……」


 少女は恐怖のあまり白目をむいて失神した。

 俺たちは呆然と泡を吹いて倒れた彼女を見ていた。



 ***



「本当にすみませんでした……!」


 少女が失神した後、ビックリした俺たちは彼女を近くにあったベンチに寝かせた。

 少女は丸眼鏡をかけていて、頬にはそばかすが散っている。

 髪は茶髪のショートヘアで、耳の上あたりをお団子にしている。


 しばらくして目が覚めた彼女はこちらが驚くほどの勢いで何度も頭を下げた。

 これにはさすがのローアもかなり罪悪感を覚えたらしい。

 ずっとバツの悪い顔をしている。


「いえ……、いいのよ。私が……悪かったわ……。

 ……怖い顔で、迫ってごめんなさいね」

「顔がひきつってるよ」

「黙りなさい、シェイル」


 たぶん、自分の顔が怖いと認めたくないのだろう。

 顔が怖いと苦労するなあ。


「あんた今、私の顔が怖いって思ったでしょ?」

「そ、そんなわけないだろ」

「ふーん……」


 エスパーかよ。

 ……なんかローアの魔法の才能を考えると人の心を読むくらいできるんじゃないかって気がするからツッコミがツッコミとして機能してないような気がする。

 冗談に聞こえないというか。

 読心なんて使えないと信じたい。

 無限に怒られそうだから。


「……何か私の気に障りそうなこと考えてる?」

「思ってないです。全然。これっぽっちも」

「あの、本当にすみませんでした。まさか本物のおで―――。

 えーと……、紅きバラの魔女様にお会いできるなんて、思ってもみなくて……」

「紅きバラの魔女?」

「……私の二つ名よ」


 ずいぶんときれいな名前だ。

 バラの花吹雪とか出してきそう。

 しかしローアのイメージではない。


「へえ、バラの花を散らす魔法とか得意だったの?」

「あー……。それはねえ……」

「いえ! 魔女様はトゲの生えた鎖で縛りつけるのが得意だったんです!」


 花吹雪じゃなくて血しぶきだった。

 え、なにそれめちゃくちゃ怖い。

 どう考えても悪い魔法使いが使うやつじゃないか。


「なんでそんな魔法を……?」

「別に得意じゃないわよ!

 あの決闘でしか使ってないし。

 相手が嫌な奴だったから懲らしめてやろうと思って……」

「で、トゲの生えた鎖で締め上げたの?」

「そう。優しいでしょ?」

「いや、怖いよ!」

「私は魔女様を尊敬しています!」

「あら、ありがとう。

 あなたファンだったのかしら?」

「はい! 三年前の決闘で助けていただいたものです!」

「……あー、えーっと……。

 ああ、あの子ね。思い出したわ、へえーあなただったのねー……」


 ローアは大げさに手を打ってみせた。

 ああこれは、絶対思い出してないな。

 少し助けてみるか。


「君の名前は?」

「ノイアです。ちなみに専攻は解毒魔法です」

「解毒魔法?」

「毒を治癒する魔法よ。すごく難しいんだから」

「どれくらい難しいの?」

「めちゃくちゃよ」

「すげえ!」

「ええ……? ありがとうございます」

「なー、いつまでしゃべってるんだ? 暇だ! 先行こう!」


 ココが割り込んできた。

 さっきまで店の前を走り回っていたが、もう全部見たのかしばらく前から俺たちのことを少し離れたところからジッと見ていた。おそらくノイアがいて人見知りしていたのだろう。

 しかし退屈さが勝ったのか、ついに俺たちを急かしに来たわけだ。


「あなたもお友達……だったんですね。

 観光されてたんですか?」

「そうよ。今から学園に行くところだったの」

「ご一緒してもいいですか!?」

「え、いいけど……。なんで?」

「ローアさんとご一緒したくて!」

「ああ、そう……。

 ……にらんでごめんね」

「何かおっしゃいましたか?」

「何にも言ってないわ」

「なあ! 暇だ! 早く!」

「はいはい、じゃあ行くわよ」

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