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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第3章 約束・聖都・石腕
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第47話 石の太陽

「教会には、明日私一人で行ってくる」


 私がそう言うとシェイルとローアは困惑した顔をしていた。

 ココもキョトンとしていた。困惑というよりも話が飲み込めていない顔だ。


「あれ? てっきり俺も一緒に行くものだと思ってました。

 アドルモルタ持って教会に行くのかと」

「ああ……。その、なんだ……何事にも順序がある。

 まずが私が行って話を付けてくる。お前たちは来なくていい」

「ああ……、なるほど……」


 シェイルが妙に低い声で納得した。

 おそらく、『俺が行くと話をこじらせると思ってるのかな?』とでも考えているのだろう。


「だから明日は三人で観光でもしてくるといい」

「……いいんですか?」


 ローアが期待を押し隠した風に聞いてきた。

 ローアはよく自分の欲を押し殺そうとする。

 子供なんだから、もっと素直になればいいのだ。


「ああ。思う存分遊んでくるといい」

「……っ! よ、よかったわね、シェイル。観光ですって」

「えー……、最近ずっと旅してて疲れたし、宿屋で一日ゴロゴロしててもいいんじゃないか?」


 雲行きが怪しくなってきた。

 シェイルめ、少しは空気というものが読めないのか?


「え!? あー……、えっと……、ココは? ココはどう?

 行きたいところとか……」

「ミケルマ様のところ! 帰りたい!」

「……それは……難しいわね」


 ココもか。

 よほどミケルマとやらが恋しいらしいな。

 外に出て遊びたいのはローアだけか。

 ローアには日ごろから世話になっている。苦労も掛けた(シェイルの苦労は知らん)。

 仕方ない。私が助け船を出してやろう。仕方ない。


「シェイル、ココ」

「なんですか?」

「なんだ?」

「聖都は名所がたくさんある。余裕のあるうちに行っておけ」

「えー、でも明日じゃなくても……」

「ミケルマ様ちがう! いらん!」

「……。いいから行け……!」

「「ひっ!? い、行きます!!」」

「物分かりが良くてよろしい。

 ……明日は楽しんでくるといい」

「はい!」

「「はい……」」


 ローアは元気よく返事をした。それでいい。

 シェイルとココはもっと元気を出せ。

 どうしてそんなに震えてるんだ?



 ***



 翌朝、シェイル達が寝ているうちに手紙を書いた。

 教会あての手紙だ。

 大した内容じゃない。昼頃に行くというそれだけの内容だ。

 それを宿屋の主人に頼んで教会に送ってもらった。


 今はそれほど忙しい時期ではないはずだから、元老院のお歴々も暇だろう。

 手紙さえ出しておけば門前払いされるようなことはないはずだ。

 予定が合わない可能性はあるが、その時は仕方ないだろう。


 部屋に戻るとローアが起きていた。

 テーブルに座って窓から通りを眺めている。


「おはよう」

「おはようございます。外に出ていたんですか?」

「ああ。教会に手紙を出しただけだ」

「そうでしたか。フィコ飲みます?」

「ああ、頼む」

「わかりました」


 ローアはすくっと立ち上がるとキッチンでお湯を沸かし始めた。

 そう言えば以前、シェイルはフィコを飲んで『塩っぽいコーヒーみたい』と言っていたな。

 ……コーヒーってなんだ?

 どんな味だろうか?


 ルイーズが隣の寝室から漏れてくるシェイルとココの寝息を聞きながら、コーヒーについて考えているとローアが戻ってきた。


「どうぞ」

「ありがとう。……うまい」

「ありがとうございます」


 しばらくの間、黙ってフィコを飲んだ。

 猫が通っていくのを窓から眺めていると、ローアが口を開いた。


「ルイーズさん、後で教会に行くんですよね?」

「ああ、そうだな」

「シェイルのこと、どう報告するんですか?」

「……わからない。だが、できるだけのことはしたい」


 シェイルをどう報告するのか?

 まだ、答えは出ていない。


 今までずっと迷わずに生きてきた。

 聖騎士として、規範となるような道を進んでいればよかったからだ。

 困っている人を助ける。

 魔物や悪人を斬る。


 それだけでよかった。シンプルなものだ。

 迷う必要は無かった。

 やりすぎて叱られることはあっても、方向性が間違っていると感じたことはない。

 聖騎士の仕事は一言で言えば『誰かを守る』ことだからだ。

 魔物の討伐も、悪徳官僚の摘発も、戦争も。


 迷う必要のない正義だった。

 だから迷わずに生きてきた。


 しかし、今回は違う。

 違うと気づいてしまった。

 思えばそれは最初からわかっていたことだ。

 ただ、自分で決めようとしてこなかっただけだ。

 自分では正しい判断ができないから、元老院に判断を下してもらおうと……。

 ただ、ありのままを報告すれば元通り、シンプルな仕事に戻れると思っていた。


 間違っていた。

 私はシェイルと一緒に旅をし過ぎた。

 元老院の決断に納得できなかった場合、私の心は平穏ではいられない。


 たとえば、シェイルが魔王討伐のための勇者として祭り上げられた場合、私はきっと後悔する。

 シェイルが与えられた使命を受け入れたとしても。

 拒んで聖都と敵対関係になったとしても。

 結局、シェイルは自由ではいられない。



 ……と、いうとりとめもない考えをローアに話してみた。

 ローアはずっと黙って聞いていた。

 私が言い終えるとローアは言った。


「……ルイーズさんはどうしたいんですか?」

「私?」

「すみません、失礼を承知で言います。

 ルイーズさんは今までも悩まずに生きてきて、これからもそうでありたかった。

 そう聞こえました」

「ああ……、そうか。そうだな」

「私は悩むことは普通のことだと思ってます。

 悩んで悩んで、最後に自分の進む道を自分で決めればいい。

 結果は二の次。それが私です」

「しかし、失敗したらシェイルがそのツケを払うことになる……」

「いいじゃないですか」

「は?」

「いいじゃないですか。その時はその時です。

 あとはシェイルと私の問題です。

 最悪の場合、二人で聖都を出て……」

「ちょっと待て。色々言いたいことがあったが……。

 ……お前もついていくつもりなのか?」

「ええ」

「……駆け落ちみたいだな」


 そう言うとローアはフィコを思い切り吹き出した。



 ***



 昼から教会に行くなら一緒に観光に行きませんかとシェイル達に誘われたが断った。

 シェイル達を送り出してから、考えをまとめ、本を読み、昼食を食べて部屋を出た。


 ローアと話せて迷いは消えた。

 上手くいくかはわからない。

 けれど、最善は尽くす。


 エリス教が進行されている各都市には聖堂があり、エリス神の像が建てられている。

 そしてそれらはそれぞれの都市の特色、信仰の度合いや豊かさが反映された出来になる。


 街の地下に網の目のように広がり誰でもいつでも立ち寄って祈ることができる聖堂。

 大小様々なエリス像が所狭しと並んでいる聖堂。

 あらゆる装飾が黄金でできている聖堂。


 色々ある。

 どれが優れているという話ではない。


 聖都の大聖堂を除いては。


 聖都には大聖堂と呼ばれる建物が二つある。

 いや正確には偽物の大聖堂があるのだ。

 偽物は昨日シェイルが指さしていた建物だ。

 大きさ、機能美、装飾、様々な点でかなり優れている。

 総合的に一番優れた聖堂だと言っても間違いではないかもしれない。


 しかし、本物には劣る。

 本物の大聖堂は『白き太陽オリエラ』と呼ばれている。

 オリエラは聖都の上空に浮いている。

 常に雲で隠れていて聖都からは見ることができない。

 球体にトゲトゲが何本も生えたような、太陽のような形状をしている。

 色は白い。全てが白い材質でできている。

 聖都の頭上で白く輝くもう一つの太陽だ。



 外観的に、魔法的に、建築技術的に、あらゆる点でオリエラは一級だ。

 これ以上にインパクトがあり優れた聖堂は存在しない。

 ただし、知っている人間はほとんどいない。そもそも隠された聖堂だからだ。


 オリエラに入るにはまず、地上の大聖堂からエントランスに入らなければならない。

 大聖堂の懺悔室から隠し通路を通り、合言葉を伝え、通行証を見せれば入ることができる。


「聖騎士のルイーズだ」

「ルイーズ様ですね。確認いたしました。ゲートへどうぞ」

「ああ」


 エントランスの中央には直径三メートルほどの魔法陣の描かれた台座がある。

 これがゲートだ。


 入場を許可されるとゲートの上に乗り、待機する。

 しばらくすると小さな鐘の音と共に魔法が発動し、ゲートの上の人間を大聖堂へと転送する。


 転送されると、オリエラの塔の一つに到着する。

 もうすでに大聖堂の中……というか上に立っている。

 大聖堂は太陽の形をした直径百メートル程度の球体であり、その中心に向かって重力が発生している。


 出入り口の塔を出る。

 大聖堂の地平線は極めて近い。

 見上げても見下ろしても雲が見える。

 たくさんの塔が生えた林のような道を進んでいった。


 オリエラに生えたトゲは全て同じような塔だ。

 地上から見たときの外見を重視してこれらの塔が建てられたそうだが、セキュリティが厳重なので貴重な資料の保管庫や最新の魔術の研究所が置かれている。


 元老院の方々がいるのは出入口の塔の反対側の塔。

 ではなく、そこから地下に下りたオリエラの中心部だ。


 中心部へ通じている塔は一際大きい。

 ここは聖都の中枢なので厳重なセキュリティが敷かれている。

 再度身分証のチェックが行われ、今度はあらゆる物の持ち込みが禁止されている。

 というよりも全ての装備や服を脱ぎ、指定の礼服に着替える必要がある。

 最後に魔法の使用を制限する魔法具を装着させられる。

 拒否すれば反逆行為とみなされ、即座に大勢の聖騎士が駆け付ける。


「聖騎士のルイーズ・ミラ・ハイレンシアだ。今朝、連絡している」

「身分証を。

 ……本当はもっと早めに連絡してほしいのですがね」


 検査官は身分証をチェックしながら文句を言ってきた。


「いいじゃないか。どうせ暇なのだろう?」

「確かに暇ですが、だからって仕事を増やさないでください」

「そいつは悪いな」

「全くですよ。……問題ありません。どうぞ」

「ああ」


 女性用の部屋に移動する。

 中に女性の係員がいて、手渡されたローブに着替える。

 ローアが前に来ていたような質素なローブだ。

 それを着ると腕輪の魔法具を渡されたので腕に付ける。


 更に奥の部屋に進む。

 狭い部屋だった。

 暗く、静かな部屋の中央に地下へ下りる穴がぽっかりと開いている。

 穴は深く、落ちれば普通は死ぬ。

 階段は無い。

 正面に係員が立っている。

 私が部屋に入ると、片手に持ったハンドベルを鳴らした。


 リーンと共鳴したような音が鳴る。


「しばしお待ちください」


 そう言われてから十秒ほどで円形の足場が音もなく浮上してきた。

 正確には完全な円形ではなく、月のように端が少し欠けている。

 足場の真ん中に椅子が一つ置かれている。


「どうぞ、おかけください」


 私が椅子に座るのを確認すると彼は再びハンドベルを鳴らした。

 足場がゆっくりと下降する。

 数秒で足場は穴の中を下降するのを終えた。次は地下の闇の中を水平に移動し始める。

 揺れはなく、力がかかっている感覚もない。

 ただ座っているだけだ。

 見えるものが変わらなければ動いているとは思えない。


 オリエラの中心部のことはよくわからない。

 夜のように真っ暗で巨大な空間にぼんやりと泡のようなものがいくつか浮かんでいるのが見える。

 それらは小さな部屋で、何らかの仕事をしている人がいる。

 正確な数は知らないが、三十人くらいはいるんじゃないだろうか。


 どういう仕事が行われているのか。

 さっぱりわからない。

 まあ、元老院もここにあるのだから、何か……聖都とエリス教の運営とか、そういうことが行われているのだろう。

 それかものすごい魔法の研究。


 どこかが元老院の方々の住まいになっていると聞いたことがある。

 エリス様も普段はこの中にいるらしい。


 どれがエリス様の部屋だろうか、と考えているとあっという間に目的地についた。

 足場は泡の一つに密着して止まった。欠けた部分が泡にぴたりと一致する。


 泡の表面にはドアがついていた。呼び鈴付きの。

 係員が呼び鈴を鳴らして待つ。

 ドアががちゃりと開いた。

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