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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第3章 約束・聖都・石腕
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第46話 暴れ馬

「ローアを僕の眷属にする。

 今だけね。今だけ。

 そうすれば魔導力がずっと強くなるし、多少のケガなら自動的に治るから。

 どうかな?」

「それは……」

「それで構いません。十分すぎるほどです」


 俺が返事をする前にローアが口をはさんだ。

 正直、嫌だった。

 ローアが痛い目を見るのは変わらないし。


 しかし、ローアの目には有無を言わさない気配があった。

 これ以上はいい、と目が言っている。

 仕方ない。諦めよう。


「俺も構いません」

「よし。じゃあ、決まり。

 ……巫女ローアよ、汝を我が眷属に任ずる」

「謹んで拝命いたします」


 一瞬、何か魔法がかかった気配がした。

 気づけばローブがエリスのものと似たデザインに代わっている。

 全体的にグレードアップした感じだ。


「これは……?」

「少しくらいは演出が無いとね。気に入ってくれた?」

「ええ、すごくカッコいいです」

「そう! よかった。それ記念にあげるね」

「ありがとうございます……!」


 ローアは かみさまのローブ をてにいれた!


 ……ゲームだったらこんなメッセージが表示されそうだ。

 かみさまのローブか。

 強そうだな。絶対終盤の装備だ。ステータスがすげー高そう。


 などと考えているとローアが振り返った。


「さあ、シェイル。やるわよ」

「ああ」


 俺はアドルモルタを構えて、火を灯した。

 できるだけ安定させようと集中する。

 神経をとがらせる。


 魔法の操作は難しいが、それでも自分の『動き』だけで決まるから安定させることはさほど難しくない。

 けれど、アドルモルタを使った場合は少し違う。

 同じ動きでも結果が違うことがあるのだ。

 これくらいの魔力を込めればこれくらいの炎が出る、といった仕組みではないらしい。

 それがこの一か月でわかってきた。


 中々似た例えが思い浮かばなかったけれど、最近ようやく思いついた。

 馬だ。

 馬の扱いに似ているのだ。


 俺が合図を出して、馬が進む。基本的にはそんな感じ。

 馬の機嫌が悪ければ中々進んでくれないし、立ち止まることもある。

 逆にほんの少しの合図で猛スピードで走り出したりする。

 馬の様子をよく見なければならないとルイーズに散々言われた。


 たぶん、アドルモルタにも意思があるんだと思う。

 どれくらいハッキリしたものなのかはわからない。

 人間と同じレベルなのか、動物レベルなのか。

 ひょっとして虫や植物レベルなのか。

 わからない。



 ……話がそれた。

 集中しないと。もっと集中を……。


 ローアが青い炎に手を触れる。

 息をのむ音が聞こえた。

 うっかり火を消してしまいそうになる。

 でもローアは覚悟している。傷つくことを受け入れている。

 なら俺も傷つける覚悟をするべきなんだ。


 そのままローアは痛みに耐え、炎に同調しようと静かに格闘し続けた。


 エリスは石に腰掛けているが、ルイーズとココは座っていない。

 ずっと立って俺たちを見ている。


 ココはずっと拳を握りしめている。

 自分が火に焼かれた痛みを思い出しているのだろうか。

 それともローアの痛みに共感しているのだろうか。


 五分ほど経過した。

 俺は少しずつ眩暈めまいがしてきた。

 アドルモルタの炎は普通の魔法とは比べ物にならないほど魔力を消費する。

 魔力切れを起こし始めていた。


「ローア」

「……」

「ローア」

「……ん? ああ、なに?」

「一旦、休憩してもいいか?」

「あ、そうか。ええ、いいわよ」


 少し休んだくらいでは減った魔力は回復しないが、体調は元に戻る。

 たぶん体力と同じで休めば回復するというか、急激に失わなければいいのだと思う。

 五分ほど休めばまた五分くらいなら火を灯せるだろう。

 何回トライできるかはわからないけど。



 ***



 四度目のトライでローアがアドルモルタの火と同調できるようになった。


 ルイーズとココは疲れ切った笑みを浮かべた。

 更に二回、亡霊が脱走したからだ。

 どういうわけか、亡霊は分裂して数が増えていて捕まえるのが難しくなっていたようだった。

 脱走までの感覚も短くなっていたのでこのままだとまずかっただろう。


 ローアは少し笑みを浮かべてエリスに言った。


「いけます」

「わかった。水槽ごと燃やし尽くしちゃいな!」

「はい!」


 ローアはアドルモルタの火に左手で触れ、右手を亡霊の入った水槽に向けた。


「魔剣の火よ、現れいでて群れを成せ」


 ローアの右手から無秩序に白い炎の塊がフワフワとあふれ出て、彼女の周囲を漂い始めた。

 白い炎で視界が埋まった頃合いで次のステップへ進んだ。


「集え。結べ。渦を為せ」


 火の玉たちが螺旋を描きながらギュルルルと手の前に集まっていく。

 全ての炎が一本の巨大な剣のようになった。


「炎の剣よ、の者を滅ぼせ」


 最後の一言で白い炎の剣は弾けるように飛んで行き、水槽に突き刺さった。


 一瞬だった。


 水槽が砕け散り、剣の熱量が解放される。

 砕けた破片は空中で融け、ボタボタと地面に落ちた。

 亡霊は一秒ほどかけ、虫のようにのたうって蒸発した。


 ……終わった。


 パチパチと拍手する音が聞こえた。

 エリスだった。


「ありがとう。お疲れ様」

「疲れましたぁ……」


 ローアはへなへなと崩れ落ちるように倒れた。

 慌てて肩をつかんで体を支える。


「ありがと……。はは、腰が抜けちゃったわ……」

「無茶するからだよ」


 左手に目をやる。

 エリスの眷属になったおかげなのか、火傷しているようには見えなかった。


「そうね。シェイルもお疲れ様。

 ルイーズさんとココもね」

「私は大したことはない」

「ココは疲れたぞ!」


 ココはここぞとばかりに大声を張り上げた。

 空気を読んで黙っていてくれたのだろうが、ずっとしゃべりたかったのだろう。


「あーはいはい、ごめんねー。もう終わったから、帰ろうねー」

「~っ! 子ども扱いするな!」


 ローアがぐったりしながらなだめるように言ったが、ココは顔を真っ赤にして反抗した。


「はいはい、黙ってような」

「もがっ、うぐぐぐぐ……」


 最終的にルイーズに抱きかかえられるように口をふさがれてココは黙った。


 エリスが苦笑している。

 彼女はローアに近づいてきて言う。


「じゃあ、ローアの眷属化を解くね。そのままでいいよ」


 ローアが立ち上がろうとしたのをエリスは制した。

 ローアの肩に手を触れた。


「汝の眷属の任を解く」


 言い終えるとエリスは微笑んだ。


「じゃあ、みんあ帰ろうか。本当にありがとうね。

 また会おう」


 エリスが指を鳴らした。



 ***



 気づいたときにはさっきの小屋に戻っていた。

 気絶した俺が寝かされていた小屋だ。


 ルイーズがキョロキョロと辺りを見渡す。


「エリス様は……? いらっしゃらないな」

「また会おう、っておっしゃってたから帰ったんじゃないですか?」

「そうだな。そのようだな」


 ルイーズが気を引き締めるように手を叩いた。


「出発だ。聖都に向かおう」

「はい」

「待て、ローア」

「はい?」

「シェイル、ローアを手伝ってやれ。まだフラついている」

「大丈夫ですよ?」

「いいから肩を貸してもらえ。

 ココ、来い。私を手伝ってくれ」

「なんで、ココが……」

「ぶつくさ言うな。ローアに命令してもらうぞ?」

「わかったわかった! わかったからそれはやめろ!」

「わかればいい」


 二人は小屋から出て行った。

 外から二人が言い争う声が聞こえてくる。


「歩ける?」

「それくらいは大丈夫よ」


 ローアに肩を貸す。

 ローアは一瞬ためらったものの、観念したのか大人しく手を上げた。


「荷物は? ここには無いのかな?」

「ここには大したものは置いてないわ。行きましょう」

「うん」

「……」

「……」

「少し、楽になったわ」

「まだそんなに経ってないだろ。このまま行こう」

「違うわ。気分的な……、精神的な話よ」

「……うん?」

「だから、シェイルを巻き込んだかも、とか……そういうことよ。

 言ったらスッキリしたし、さっきみたいに手助けができてよかった。

 本当にずいぶん楽になったわ」

「……そう。でも、少し無茶し過ぎだろ」

「あの場面じゃ仕方ないでしょ? エリス様に頼まれたら断れないわよ」

「そうだけど、もう少しくらい抵抗するべきだろってことだよ」

「いいのよ。役に立ちたかったんだから」

「もう十分立ってるよ」

「まだまだよ」

「……もっと、自分勝手になったらいいのに」

「シェイルには言われたくないわね」


 ルイーズとココは馬の所にいた。

 どうやら準備は全部済ませてあるらしい。

 俺たちが来ると馬に乗るように言われた。


「あれ? タルボは?」


 タルボというのは馬の名前だ。

 タルボとメルバの二頭にずっと乗ってきたのだが、タルボの姿が見当たらなかった。

 メルバは鞍を付けて目の前にいるが、もう一頭は知らない馬だった。


「タルボはドットが乗っていった。仕方ないので彼らに一頭借りたんだ」

「ああ、そう……」


 彼ら、というのはアルタとミルの代わりにここで巡礼者の森の入り口を見張っていた聖騎士のことらしい。


「ココは馬に乗ったことが無いらしいから、私が一緒に乗る。

 お前たちはメルバに乗れ」

「わかりました」

「えっ」

「……なによ?」

「いやなんでも……」


 とてもこれ以上密着しているのは恥ずかしいです、とは言えなかった。

 その方がよほど恥をかきそうだ。



 ***



 結局、馬にはローアと二人で乗った。

 前がローアで後ろが俺だ。

 手綱も俺が持った。

 だから、こうローアを抱きかかえるような感じだ。


 出発してすぐに、ローアは眠ってしまった。

 急にもたれかかってきたから何の冗談かと思ったが、本当に寝ていた。

 よほど疲れていたらしい。

 おかげで俺はのんびり景色を楽しむような心境にはとてもなれなかった。


 巡礼者の森は静かだった。

 どこか日本の神社のような、神聖な雰囲気を醸し出している。

 両脇が深い森であり、石畳の上を進んでいるせいで日本的に感じているからかもしれないが……。


 ひたすら直線的に石畳の上を進んでいくだけだ。

 定期的に休憩所がなければ『フォルトゥナトスの森の中にまた迷い込んだのか?』と錯覚しそうになるほど、同じような景色が続いている。

 ……正直飽きてきた。

 これが三日も続くのかと思うとすこしげんなりしてくる。


 どうやらそれはココも同じだったらしい。


 俺とローアは後続の馬に乗っている。

 だから前を進むルイーズとココがよく見える。

 したがって、時々ココが駄々をこねて少しあばれ、ルイーズがそれをおさえつける光景もよく見えた。

 ルイーズは苦労人だなあ……。

 俺やドットだけではなく、ココの面倒まで見なければならないなんて……。

 本当に頭が下がる。



 ***



 休憩所は数時間おきくらいに見かけるが、たいていはトイレや馬用の水桶が置いてあるだけで(といっても長期間放置されていたためか、かなり酷い状態だった)、ゆっくりと横になるような場所はなかった。

 けれど、もうすぐ日が沈むという頃になって宿場にたどりついた。


 宿場はこれまでの旅の途中でも何度か見たことがあるし、利用したこともある。

 カウンターのようなところはあるが、当然誰もいない。


 代金の方はちゃんとルイーズがメモと共に置いていたから問題ないはずだ。

 盗まれたりせずにちゃんと届くことを祈ろう。



 ***



 三日後、俺たちは聖都にたどり着いた。


 ものすごく大きな街だった。

 この世界で訪れた街で一番なのは間違いない。

 どこもかしこも人で一杯だ。

 人が多すぎる。観光名所なのかもしれない。


 町の入り口に巨大なエリスの像が立っていた。

 20メートルくらいありそうだ。

 最初、エリスの像だとわからなかった。

 なにせ本人を見た後だ。

 慈悲深い笑みをたたえた女性の像がどうしてもエリスに見えなかった。

 像に手を合わせている人が『エリス様……』と祈りを捧げているのを見てようやく気づいた。

 ちなみにココは多分気づいていない。

『あれもエリスっていうのか?』と聞いてきたから。



 四人そろってエリス像に祈りをささげた後、ルイーズが言った。


「……とりあえず、宿を取ろう」

「え? まず教会に行かないんですか?」


 俺は街の中心部に建っている一際巨大な建物を指さした。

 言われなくても一目で教会だとわかった。

 サグラダファミリアみたいな凝った建物に、エリス教のシンボルである太陽のマークが十字架みたいに刺さっていたから。

 アレが教会じゃなかったらなんだっていう話だ。


「いや、今日は行かない。

 ……教会に行くのは明日だ。

 明日、私が一人で行ってくる」

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