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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第3章 約束・聖都・石腕
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第44話 亡霊

「……亡霊、の討伐……?」

「そ。手伝ってね。大体三分後に出てくるから」

「ちょっ、ちょちょちょ、ちょっと待ってください」

「うん?」


 ルイーズが慌てて手をバタバタさせる。

 エリスはそれを見て不思議そうに首をかしげた。


「あの、亡霊と言うのは……、あ、いえ、まずは我々は何をすればいいのですか?」

「亡霊が出てきたら、ルイーズとココで捕まえて。

 捕まえたら僕が少しの間、逃げないようにするから。

 最後にシェイルとローアでとどめを刺して」

「捕まえる……? 亡霊をですか? どうやって……?」

「はいこれ」


 エリスは虫取り網のようなものをルイーズとココに手渡した。

 ルイーズとココは虫取り網とお互いの顔とエリスの顔を順繰りに見た。


「「え?」」

「おっと思ったより早かったな。質問は無しね!」


 その時だった。

 墓標から黒い水のようなものがしみだしてきた。

 言われなくてもわかった。


 亡霊だ。


「え? なんだ? え?」

「ええい、ままよ!」

「あっ、ま、待て! ココを置いてくな!」


 二人が墓標に近づくと、亡霊はシャボン玉のように三つに分けれ、ふわふわと宙を漂ったかと思うと、目にも止まらない速さで逃げ出した。


 それを見てルイーズは言った。


「ココ! 向こうの一つを捕まえろ!」

「命令するな! お前は―――」


 ココがルイーズに目をやるとルイーズはもうすでに亡霊の一つを捕まえていた。


「捕まえた! 

 ……えっ、これどうするんですか、エリス様!?

 わあああ! 動いてます、これ! 動いてます!」

「ナイスキャッチ落ち着いてー。こっち持ってきてー」

「は、はい」


 エリスが指を鳴らすと、巨大な空の水槽が現れた。

 横幅が二メートル、奥行一メートル、高さ一メートルくらいだろうか。


「この中に放り込んで」


 言われるがまま、ルイーズは亡霊を中にいれた。

 亡霊は再び宙をただよって外に出ようとしたが、見えない壁があるらしく、外には出られなかった。


 亡霊を水槽に入れるとルイーズはもう一匹を捕まえに駆け出した。

 入れ替わりにココが戻ってきた。


「ココも捕まえたぞ!」


 体中に木の枝や葉っぱがついている。慌てて追いかけたのだろう。


「この中に入れてねー」


 ルイーズと同じやり取りを終えると、ココは最後の一匹を追いかけてルイーズと同じ方向へ走って行った。


「……これ、なんなんですか?」

「ん? 何が?」

「亡霊です。これは何です? このお墓は? 誰の墓ですか?」


 俺は気になったので聞いてみた。

 しかし、エリスは呆れたようにため息をつき、大げさに手を広げて肩をすくめて見せた。


「やれやれ……。君は本当に質問が多いね。

 まあいいか。今は暇だし。

 亡霊は墓の主が放った……スパイみたいなもんかな。

 この墓の主の正体は内緒。教えません。

 これでいい?」

「……謎が謎を呼ぶって感じです。

 なんだろう。あなたの答えは常に新しい疑問を産むんですよね……」

「……不服なの?」


 エリスは笑っていた。確かに笑っていた。

 しかし、シェイルは戦慄した。

 ローアが怒った時の反応にそっくりだったからだ。

 こういう時は、必ずとんでもない目に遭うのだと決まっていた。

 ご飯抜きとか。


「いっ、いえ! 不服じゃないです! 光栄の至りです!」

「フーーーン……。ま、僕は寛大な神様だから許すよ」

「エリス様、質問よろしいですか?」

「うん! いいよ!」


 俺が質問したときとの対応の高低差がすごい。富士山かな?


「亡霊がスパイっていうのはどういう意味ですか?」

「墓の主を復活させようとよからぬことをするっていう意味だよ。

 僕、コイツにはずーっとここに閉じこもっててほしいんだよね」

「なるほど……。

 ところでさっき私とシェイルにトドメを刺すように仰いましたが―――」

「うん、言ったね」

「私は要らないのでは?

 シェイルがアドルモルタで斬れば終わると思うのですが……?」

「いや、要る。

 今のシェイルではトドメを刺せないからね。

 君の手助けが必要だ」

「手助け、ですか? どのような……?」

「それは君自身で考えて欲しいな」

「……わかりました」


 ローアは困惑した顔をしつつも素直にうなずいた。

 ローアはウロウロと歩き回りながら考えていたが、不意に立ち止まり俺に言った。


「ねえシェイル。ちょっとアドルモルタを一回撃ってくれないかしら?

 どこでもいいから」

「え?」

「エリス様、もし森が燃えたら消化お願いできますか」

「いーよー」

「ありがとうございます!

 神様の許可は取ったわ。さあ、やりなさい。ここら一帯を灰にしなさい」

「ん? そこまでは言ってないよー」


 木々に向かって蒼炎閃を撃つなんて環境破壊以外の何物でもないから、気が引けるけど。

 でもローアが言うのなら仕方ない。


「わかったよ。全部灰にすればいいんだな?」

「いや、だから灰にするのはやめてって」

「うおおおお……!」

「やるのよ!」

「聞きなよ、神の言葉を。神託だよ? ありがたいんだよ?」

「いくぞ! 蒼炎閃!」


 アドルモルタから青い炎が伸び、刀身となる。

 俺は巨大化した剣を振り下ろして正面の木々をなぎ倒した。


 その様子をローアはじっと見ていた。

 本当にジィーーーッと見ていた。

 まあ、振り下ろすのなんか一瞬の出来事なんだけど。

 振り下ろし始めた瞬間、それまでフザけていたのが嘘みたいに集中して観察しているのを感じた。


「はあはあ……。なんかわかった?」

「……わかった」

「マジ!?」


 あんな一瞬でわかるもんなのか。

 ローアすげえ。


「シェイル、魔導力についてはドットに教わった?」

「まどうりょく? なにそれ?」

「ああ……。教わってないのね。

 エリス様、魔導力の問題があるってことですよね?」

「そうだね。

 今から鍛えても間に合わないからローアがどうにかしてあげて」

「どうにか……」

「そう。どうにか」

「……善処します」


 パチパチと音を立てて木々が燃えている。

 しかし、エリスが指をパチンと鳴らすと、途端に火が消えた。

 さっきまで燃えていたのが嘘だったかのように。


「さて、二人ももうそろそろ戻ってくる頃だね。

 ローア、何か思いついた?」

「いいアイデアが出てきません! お手上げです!」

「ははは! そうだろうね! がんばって考えてね!」

「ううう……。どうして私ばっかり……」

「がんばれー」

「シェイルは黙ってて!」


 ひでえ。


 ローアはどうやら疲れたのかイライラしているらしい。

 館の亡霊の解析もローアがやってたしな。

 俺達の中で『頭を使うならローア』っていう図式が出来上がりつつある。

 がんばってほしい。

 俺には無理だ。


 ローアが頭を抱えてウンウンうなっていると、ルイーズとココが戻ってきた。

 ココが虫取り網を誇らしげに振っている。

 ルイーズは悔しそうに口をへの字に曲げている。


「どうだ! ココが捕まえたぞ!」

「えっ……、すごっ……。マジですごいな!」

「そっ、そうだろう!? ははははは!」


 ココは腰に手を当てて胸を精一杯そらして鼻高々に笑い始めた。

 が、ルイーズに『逃げられるぞ』と言われて慌てて水槽に亡霊を入れる。


 それを見ながらルイーズはぼそっと言った。


「あいつ、本当にすばしっこいな。全然追いつけなかった。

 足にはけっこう自信があったんだが……」


 表情を見るに、相当ショックだったらしい。

 年なのかな……、とでも言いたげな哀愁が漂っている。


「多分、あいつアサシン的なタイプなんで仕方ないですよ」

「アサシン? ……へえ、そうなのか。

 ……いや! だからと言って……。うーん……」


 ルイーズは心の中で何かと戦っているようだ。

 ローアと同じように首をかしげて難しい顔で考え込み始めた。


 二人の表情を観察していると亡霊を水槽に入れてきたココが近づいてきた。


「……あいつら、何してるんだ?」

「百面相だよ」

「「違う!!」」

「うわっ!? おい! 違うって言ってるぞ! 嘘か!」

「嘘だよ」

「くそっ、お前、嘘つきか! 嘘つきは嫌いだ!」


 ローアとルイーズには怒られるし、ココには嫌われてしまった。

 散々だ。自業自得だけど。


「ローア、そろそろいいかな?

 こいつらはあんまり長い間閉じ込めておけないんだ」


 エリスがローアに呼びかけると彼女はびくっと肩を震わせた。


「えっ!? ううう、全然考えまとまってないんですけど……」

「つまり、何かアイデアはあるんだね。じゃあ、やってみてよ」

「失敗したらどうなるんですか?」

「こいつらがまた脱走してルイーズとココにもう一度捕まえてもらわないといけなくなる」

「ええっ!? そうなんですか!?」

「ココ、もういい! 飽きた! つまらん! シェイル行け!」

「シェイル君じゃあ、一日あっても捕まえられないからダメだねー。

 逃げられちゃう」

「ぐむむむむ……」


 ココが歯ぎしりしながらものすごい横目でにらんできた。

 悪いのは俺じゃないはず……。多分。


「わかりました! 失敗しても大変な目に遭うのは私じゃないんですね!

 なら気楽にやります!」

「ローア、私としては少しはプレッシャーを感じて欲しいのだが」

「お前、ココをなんだと思ってるんだ!」

「あら、ココは奴隷よ。シェイルもね」


 今なんで俺の名前を出した?


 ローアはアドルモルタを持った俺をじっと見て言った。


「うーん、いきなりアドルモルタで試すのは怖いわね……。

 シェイル、火の玉出して。爆発とかしないやつ」

「ん。これでいい?」


 俺はバレーボール程度の大きさの火球を出した。

 しかし、ローアは首を振った。


「ううん、これくらいは余裕だからいいわ。

 もっと大きいのがいい。できるだけ大きいの作って」

「わかった」

「あ! でも爆発とかさせないでね!」


 めちゃくちゃ念を押された。

 ……俺、もしかして信用されてないのか?


 ローアの注文通り、大玉サイズの火球を出した。

 それを見てココは顔をしかめた。


「どうした?」

「……お前に焼かれたのを思い出した」

「ああ……」


 あの時は敵同士だったからな。

 ……恨まないで欲しい。


 その隣でローアは深呼吸を繰り返していた。


「……。よし、いける! 私ならできる!」



 ローアは気合を入れると……、手を火球の中に突っ込んだ!



「あっつ!」

「えっ!? 何してるんだ!?」


 俺は慌ててローアの手をつかんで引き抜いた。

 いくら穏やかな火球とは言え、中身は火の塊だ。

 当然、中に手を突っ込めばただじゃすまない。

 案の定、ローアの手は火傷していた。


「放して!」

「で、でも……」

「いいから!」


 ローアの剣幕におされて手を放す。

 と、みるみる火傷が治っていく。

 治癒魔法を使ったらしい。


「ちょっと気合を入れ過ぎたわ。突っ込んじゃった」


 ローアは舌を少し出して笑った。

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