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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第3章 約束・聖都・石腕
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第43話 エリス

今章から毎週日曜日に一話ずつ投稿します。

→第51話から5日おきに変更しました。

「僕はエリス。君たちに崇められる神だ。敬ってくれていいよ」


 白髪のショートヘアの……少女が目の前で微笑んでいる。

 少女といったけれど、性別はわからない。もしかしたら少年なのかもしれない。


 どちらにせよ、神様には見えなかった。


「ええと……、どちら様ですか?」

「神様です」

「……えーと?」


 言葉につまってベッドに寝たまま、隣に立つローアを見上げる。

 彼女も困惑した表情で首を振った。


「私にもよくわからないわ。気づいたらいたのよ。

 聖騎士の誰かの子かと思ってたんだけど……」

「残念でした! 違うよ!」

「本当に神様か? 何かやってみろ」


 ココが言うと、自称神様(エリス)は気安くうなずいた。


「いいよ。何がいい? 洪水でも起こそうか?」

「ココ、ミケルマ様に会いたい! ココをミケルマ様の所へ―――」

「あー、えーっと……。そっか、ごめんごめん。それは叶えてあげられないや。ごめんね」

「……いい。期待してない。お前神様じゃない」

「うーん、ホントに神様なんだけど……。お詫びに良いこと教えてあげる。

 シェイル達について行けばミケルマには会えるよ。近いうちにね」

「そうなのか……。ハッ!? 騙されるとこだった!

 お前、神様らしいこと何もしてないじゃないか! 嘘つくな!」

「ダメかあ……。じゃあ、二人は何かない? 僕にやって欲しいこと。

 サービスするよ?」

「では……、シェイルの呪いを解いてください」


 ローアが言うと、エリス(・・・)は口をへの字に曲げた。


「どうして君たちはことごとく叶えてあげられない願い事をするのかなあ!?

 ごめんね! ダメです! 叶えられないよ!」

「……シェイル、この子の親、探してくるわね……」

「オッケー。俺、もうひと眠りしていい? 変な夢見てるのかもしれないし。

 寝たら目が覚めるかも」

「いいわね、それ。私もひと眠りしようかしら」

「夢じゃないよお! 僕いるもん! 本当に神様だもん!」


 ついにエリス(・・・)は駄々をこねはじめた。

 完全にただの子供だ。

 仕方ない。何か、子供でもできるような願い事でもしてあげよう。


「じゃ、じゃあ……」

「あっ、いいこと思いついた。ちょっと失礼」


 エリス(・・・)は俺が寝ているベッドによじ登った。

 そして、俺の隣に置かれたアドルモルタに手を伸ばし、柄に手を掛けた。


「あっ!? ダメだ!!」


 あわてて止めようとしたが、遅かった。

 エリス(・・・)は魔剣アドルモルタを手に取ってしまった。

 魔力を吸われて倒れてしまう。最悪死ぬかも―――。


 ……と思ったが、エリス(・・・)はピンピンしている。

 それどころか、アドルモルタを片手で軽々と持ちながらベッドから降りて、ぶんぶんと振っている。


「どーお? これで信じる? ま、神様っていうことの証明にはちょっと物足りないと思うけど―――」

「神様じゃん!」

「あら素直。最初からこうしてればよかったなー」



 ***



 俺が起きたとと聞いてドット、ミルにアルタも戻ってきた。

 他にも知らない聖騎士や冒険者、商人らしき人もちらっと見えたけれど小屋の中にエリスは入ってこなかった。


 この小屋は巡礼者の森の入口近くに建っているらしい。

 聖騎士たちが寝泊まりする場所なのだとか。

 気絶した俺を寝かせるのにちょうどいいというので借りているそうだ。


 やはりと言うか、誰もエリスのことは知らないらしい。

 アドルモルタを持っても平気そうだったし、本当に神様っぽいな、と思っていたら……。


「エリス様ではありませんか!?」

「あ、ルイーズ。久しぶり~。元気だった?」

「もったいないお言葉です! おかげさまで元気です!」


 ルイーズがエリスを見るなりひざまずいて頭を下げた。

 ……どうやら本当に神様のようだ。


「……マジ?」

「マジだって」

「本当の本当に?」

「本当の本当に」

「本物?」

「本物本物。生よ、生」

「神様だ!! 本物の!」

「……信じてなかったんだね。ま、いいけど」


 エリスは魔法で椅子をニョキニョキ出現させた。

 非常に足の高い椅子で、エリスはそれに腰掛け俺たちを見下ろした。

 さらに足を組み、指をパチンと鳴らす。


「さあて、皆さんそろったところで本題といこう!

 シェイル、ルイーズ、ローア、ココはこの後僕と一緒に来てもらう。

 ミル、アルタは先に聖都に行って事の顛末を伝えるといい。

 ドットはシクアイール卿の所へ行きなさい。

 いいね?」

「「「はい!」」」


 ルイーズ、ミル、アルタが同時に返事をした。

 さすが聖騎士、鍛えているせいか声が大きい。

 それとも軍隊仕込みなのだろうか?


 しかし、ドットはエリスの指示に不服そうに手を挙げた。


「なぜ、俺は一人で行かなければならないんだ? どういう理由で?」

「行けばわかるけど、シェイルを連れて行けば彼女は来てくれないよ」

「それは一体―――」

「悪いけど、これ以上は言う必要を感じないね。

 説明しようがしまいが事態は変わらないだろ?

 君の気分が多少スッキリするだけだ」


 エリスは面倒そうな顔をして頬杖をついた。


「以上だ。質問はあるかな?

 なければ各自行くべきところへ向かうといい」


 ミルとアルタはエリスに従順そうに頭を下げた。


「それでは失礼します。……皆さん、いずれまた会いましょう」

「失礼します! ……また!」


 二人は小屋から出て行った。

 指示通り聖都に向かったのだろう。

 少し寂しいけど、聖都に着いたらまた会いに行こう。


 ドットは出て行かなかった。


「どうしたのかな?」

「一つ聞きたいことがあるんだが―――」

「ああ、急いだ方がいいよ」


 ドットの言葉をさえぎってエリスは言った。


「ララを見つけたいならね。

 君たちはドミナトスの館の中に長くいすぎた。

 知っての通り、四か月経っている。早くしないと時間切れだよ」

「……え?」


 俺は思わず驚きの声を出してしまった。


「ちょ、ちょっと待って。四か月経ってるってどういう意味?」

「あ。言ってなかったか。でもなんとなくわかるでしょ?

 時間の流れが違う、っていうやつだよ。相対性理論だっけ?」

「え? え?」

「話を戻そう、ドット。

 君の探す彼女は聖都にいる。

 でも君が双子を連れてこられなければ会うことはできないよ」

「な、なぜわかる……?」

「僕は神だ。それ以上の説明が必要かな?」

「わかった。急ぐとしよう。

 シェイル、稽古を怠るなよ」

「……え? ああうん。任せてよ」

「ふん。返事はいいな。まあやってみろ」


 ドットは俺の返事を鼻で笑うと小屋を出て行った。

 その後すぐに馬のいななく声が聞こえた。

 言われた通り急いで出発したらしい。


「よし、では僕たちも行こうか。質問があれば道々聞こう」



 ***



 小屋を出てずんずん歩くエリスについていく。

 どうやら巡礼者の森に向かっているようだった。

 それも街道ではなく、森の中へ向かっている。


 相対性理論について考えるのはあきらめた。

 そもそもの相対性理論についてもよく知らないし、エリスも本当に相対性理論の話をしたわけじゃないだろう。

 魔法で時間の流れがゆがめられたということだ。


 ローアもルイーズも時間が過ぎていることがわかっているだけでその原理とかはわかっていないようだし、エリスも説明してくれる気配は無い。

 どうやらこの世界、というか魔法は考えるだけ無駄のようだ。


 昨日は街道や森も影の中に飲み込まれたように見えたが、その影響も元に戻っているようだった。

 心なしか、石碑や木々、石畳がところどころズレたり歪んでいるようには見えるけれど……。

 と、エリスは街道を外れて森の中に入ろうとした。


「エ、エリス様? 森の中へ入るのですか?」

「そうだよ。何か問題ある?」

「その、御身が危険にさらされるのでは……」

「ははは! 大丈夫だよ!」


 エリスは森と街道の境界をなんでもないかのように通り抜けた。

 結界が張ってあるという話だったけど、中に入る分には自由なのか……?


 と思ったけれど、違うらしい。

 エリスの少し後ろを歩いていたルイーズが「うっ」と言って境界で立ち止まったからだ。

 どうやら結界に頭をぶつけたらしい。


「あ、ごめんごめん。結界があったんだっけ。すっかり忘れてたよ」


 エリスは「これでいいかな」とつぶやきながら、結界をつついた。


「これでどう? 入れる?」


 ルイーズが結界に手を伸ばす。

 見ている限り、通り抜けられそうだ。

 どうやら結界は一時的にか、局所的にか解除されているらしい。


「よさそうだね、行こうか」

「……あの、エリス様?」

「なんだい? ローア」

「私たちはどこへ行くのですか?」

「一つ二つ、やって欲しいことがあってね」

「はあ……」

「行けばわかるよ」


 ……この神様、けっこうめんどくさがりなのかもしれない。

 全然、説明しないんだけど……。


「しばらく歩くだけだから何か質問があればどうぞ」

「どこへ行くのかを聞いても……?」

「えー……。正直、行けばわかることは答えたくないなあ。

 聞いても仕方ないでしょ?

 どうせなら今、僕にしか聞けないことを聞いて欲しいよ。

 あ! じゃあ、こうしよう!

 一人一つだけ何でも質問していいよ!

 答えてあげられないこともあるけど」

「ええっと……」

「あ! じゃあ、俺いっこあります! いいですか!?」

「いいよ、どうぞ」

「俺をこの世界に呼び寄せたのはあなたですか?」

「そうだよ。君は僕が召喚した放浪者だ」


 意外とあっさり認められた。

 聞いておいてなんだけど、まさかハッキリと答えてもらえるとは思わなかった。


「ほ、本当ですか?」

「ホントホント。神様ウソつかない」

「じゃ、じゃあ、どうして俺なんですか? もっといい奴がいたでしょう?」

「ずいぶんと自信が無いなあ。そんなに斜に構える必要は無いよ」

「は、はあ……」

「どうして俺なんですか、ねえ。

 まあ、ぶっちゃけ結果論だよ。

 君を召喚したら上手くいったってだけ。色んな人を試したけんだけどね。

 人となりとか、相性とかがあるんだろうさ」


 ……?

 よくわからない。

 結果論?

 色んな人を試した……?

 どういう意味だろう?

 過去の放浪者の話だろうか?


「あの、それってどういう意味ですか? 色んな人を試したって―――」

「ブー。君はもう質問したでしょ。もうダメ!

 ってゆーか、うっかり二回答えちゃったな。

 ま、サービスだね。巻き込んじゃった訳だし」

「ものすごく気になるんですけど……」

「じゃあ、気にしないで!」

「えー……」

「じゃあ、私が代わりに聞いてもいいですか?

 色んな人を試したって言う言葉の意味は私も気になります」

「僕はいいけど……。君は本当にそれでいいの、ローア?」

「どういう意味ですか?」

「学園に戻る方法を聞かなくてもいいのかって意味だよ」

「!?」


 エリスの言葉にローアは絶句した。

 エリスが続ける。


「君が一番悩んでいるのはそのことじゃない?

 シェイルにかけた隷属魔法はもう解けないってわかってるだろ?

 僕が解かなければ誰にも解けないよ。

 魔王にでも頼めば別だけど。

 だから君はそっちのことはそれほど悩んでいない。決着をつけている。

 どんな決定が下されても甘んじて受け入れるつもりでしょ?」

「そ、それはそうですが……」

「でも、学園に戻りたいとも思ってるよね?

 知識の探求は君の強い欲求の一つだ。恥じる必要は無い。

 シェイルの行く末を見守りたいのと同じくらい、心惹かれているはずだ」

「……おっしゃる通りです。

 ですが、そこまで私の心を見透かされているなら、私の決意もご理解されているはずです」

「一応言っておくと僕は神だけれど、人の心を読めるわけじゃない。

 経験から予測しているだけだよ。

 ……ま、もう決めているなら、いいか」

「はい。もう一度お尋ねします。先ほどの言葉の意味をお教えください」

「言葉通りさ。何人も召喚して片っ端から試してるだけ。

 もう五百回くらい試したかなあ。いや、千回くらいか……?

 まあ大体、その辺だね」

「……?」


 ローアが言葉につまったので俺が代わりに質問してみた。


「それって……、エリス様は時間を巻き戻せるってことですか?」

「シェイル、質問は一回だって言ったよね? 少しは自重してほしいな」

「すっ、すみません」

「まあ、答えるけど」


 答えるんかい。じゃあなんで一回叱られたんだ?


「時間を巻き戻せる、っていう理解でいいよ。

 本当はちょっと違うんだけど、多分人間には理解できないと思うし。

 感覚的にも、理論的にも」

「……?」


 よくわからないけど、時間を巻き戻せるということでいいようだ。

 つまり、エリスは俺以外・・・の放浪者も召喚していた、ということ。

 百人から千人の放浪者が俺と同じような出来事を経験してきた、ということ。

 俺が今試されているということは以前の彼らは失敗したのだろう。

 つまり、死んだのだろう。

 そして、次は俺の番なのだ。


 何とも言えない冷たくて暗い絶望感のようなものが胸にこみあげてきた。

 まるで実験動物じゃないか。

 この神様は俺達のことをなんとも思ってないのだろうか?


 エリスは俺の顔色を見て言う。


「君の言いたいことはわかるよ。

 僕が神になってからかなり時間が経っているからもう人間の感覚もほとんど忘れちゃったけど、君たちをずっと見てきたから。

 僕をひどい奴だと思うだろう? その通り。間違いない。正しいよ。

 でもね、やらなきゃダメなんだ。

 どうしても間違えられないんだよ。こんな袋小路に陥ったのは神である僕の責任だけどね。

 だからこそ、やり遂げなきゃいけないんだ」

「何を、やり遂げないといけないんですか?」

「内緒。トリビューラからアドルモルタを守り切れたら教えてあげるよ。

 ……さあ、着いた」


 コケやツタにびっしりと覆われた巨大な石が立っていた。

 エリスはその石の傍に立ってペチペチと叩いた。


 エリスは何も言わない。

 何かが起こる気配もない。

 ただヒューっと秋の風が吹いただけだ。

 しばらくしてルイーズが言った。


「あの、エリス様? この石は一体……?」

「これは墓標だよ。君たちにはこれから現れる亡霊の討伐を手伝ってもらう」

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