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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第2章 道標・呪縛・怪奇
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第42話 願い

 ココは影を指さして言った。


「出る方法を教えてやる。

 ……だから、少し放っておいてくれ」


 しかし、ローアは首を横に振った。


「いやよ。教えてもらうけど、放ってはおかない」

「……シェイル」


 ココに初めて名前を呼ばれた気がする。

 なんだか妙な気分だ。


「頼むからそいつをどっかに連れてってくれ!」

「見返りは?」

「みっ、見返り!? えーと……。えーっと……」

「いや、ごめん。いいや、今回は無しでいいよ」


 冗談で見返りを要求してみたら思いのほか真剣に考え始めたからびっくりした。

 思ったよりと真面目なタイプなのか。

 さて、どうやってローアをどっかに連れて行こうか!


「さあ、ローア、覚悟はいい―――」

「命令よ。座ってなさい」

「……。はっ!? いつの間に!?」


 気づけば元の位置に座っていた。

 ココが残念なものを見る目で俺を見ていた。


「……頼りにならない……」

「う、うるさいな!」

「二人とも忘れているようね。主人は私であなた達は奴隷なのよ。

 私に逆らおうなんて百年早―――」

「はいはい、それくらいにしておけ」


 いつの間にかローアの後ろにドットが立っていた。

 ドットはローアの両腕をつかんで持ち上げた。

 ローアは驚きに目をむいた。


「えっ!? ちょっ、ドッ、ドットさん!?」

「絡み方が厄介過ぎる。酒でも飲んだのか?」

「あなただけには言われたくないんですけど!?」

「はいはい、向こうへ行くぞー」


 ドットは向こうの方へと去っていった。

 騒ぎながら暴れるローアを連れて。


「…………シェイル」

「なんだ?」

「約束通り外に出る方法を教えてやる」

「あ、ああ……」


 そう言えばそんな話だったな。

 ドットとローアのせいで忘れかけてた。


「あの影だ。あの影を攻撃しろ」

「影を? 触れないだろ? どうやって攻撃するんだ?」

「お前のその剣なら殺せる」

「殺せる……?

 ちょっと待ってくれ。あれはなんなんだ?

 ひょっとして生き物なのか?」

「……あの影は魔術師のなれの果てだ。あれを殺せば出られるはずだ」

「え? な、なんて? 魔術師……? なれの果て……?」

「そうだ」


 どういうことだ?

 俺は深呼吸した。

 わからないことが多すぎる。一つずつ片付けて行こう。


「順を追って説明してくれ。

 まず……アドルモルタなら殺せるって言うのは、ミケルマが言っていたのか?」

「ミケルマ様、だ!」

「……ミケルマ様が言っていたのか?」

「そうだ」

「なるほど。次は……魔術師ってことは、あれは人間なのか?」

「何を言っている。どう見ても人間じゃないだろ」

「じゃあ……、あれは何なんだよ?」

「知らん。ただ、元々は魔術師だったと聞いた」


 なるほど。わかってきた。

 つまり、ココはミケルマから聞いたことをただ俺に伝えているだけなのだ。

 おそらく、ココの話を聞いても真相を理解することは期待できないだろう。


「ああ、そう言えば……、失った片翼?をいつまでも閉じ込めようとしている哀れな魔術師……とおっしゃっていたぞ!」

「失った片翼……?」


 どういう意味だろう。

 ローアかアルタに聞けばわかるだろうか。

 そう思って振り返ると、ローアが目の前に立っていた。


「なあ、片翼ってどういう意味だ?」

「多分、恋人って意味ね。

 つまり、フォルトゥナトスの館の犯人は死んだ恋人を館の中に閉じ込めようとして、誤って無関係な人まで閉じ込めてしまった魔術師、ってことよ」

「…………? ちょっと待ってくれ、全然わからないんだけど!

 なんかシリアスなこと言ってるのはわかるけど、全然わからない……!」

「だから、あの影はフォルトゥナトスの事件を引き起こした犯人なのよ。

 隷属って名乗った男の特徴にドミナトスはかなり近いわ。

 この館がフォルトゥナトスに似ているって言うこともあわせて考えると、ドミナトスがあの事件を解決したと考えていいと思うわ」

「う、うーん……?」

「ドミナトスは魔術師に隷属魔法でもかけたんでしょう。

 そうして今日までずっと支配、温存してきた。

 それを今回、使ったのよ。わかる?」

「なん、とか……。でも、フォルトゥナトスの館ってかなり昔の事件なんだろ?

 ドミナトスは若くはなさそうだったけど、年寄りって言う感じでもなかったから、勘違いじゃ―――」

「アンタ、もしかしてアイツの正体に気づいてないの!?」

「正体?」


 正体ってなんだ?

 俺にとってのドミナトスのイメージは陰気なおっさんだ。

 魔王を殺したがっていて、アドルモルタを欲しがっている。

 ミケルマとココの主人……かな。


 でも、それはローアの言う『正体』ではないだろう。


「あいつも魔王なのよ。認めたくないのか、自分では言わなかったけど」

「はあ!? そんなわけないじゃん! あいつ、魔王を殺したいって……」

「別に大しておかしくないわよ。

 自分以外の人間を全員殺したいって言ってる殺人鬼程度のおかしさでしょう?」

「いや、十分おかしいだろ、それ!」

「そう……?

 とにかくそれで色々説明がつくわ。

 まず、アンタ、アイツを斬ったんでしょ? でも生きていた。

 魔王だったなら不思議じゃないでしょ?」

「それは、まあ……」

「じゃ、次。殺されても死なないのに停戦したのはなぜ?

 これも簡単。自分で言っていたわ。魔王のルールに触れるからよ。

 トリビューラと同じね。多分、そう簡単に人間に手出しできないのよ」

「でもミケルマとココには襲われたけど……」

「ミケルマ、様!!」


 静かにしていたココにいきなり耳元で叫ばれた。

 ……耳が痛い。


「……ミケルマには襲われたけど……」

「本人じゃなければいいんじゃない? その辺は私もよくわからないわよ」

「わかってないんじゃん」

「……次! フォルトゥナトスの館の時代から生きていたとしても、魔王だったならおかしくないわよね」

「……ローアの魔王のイメージ、フワフワし過ぎじゃない?」

「うるさいわね。私だってよく知らないのよ。

 名前は聞くけど、ちゃんとした資料が全然ないのよ」


 ローアはお手上げ、というポーズを取って見せた。


「魔王はとんでもなく強いけど、ごく稀にしか人間の前には姿を現さないわ。

 情報も出さないし、出回らない。

 ただ恐るべき存在、ということだけが知られてるわ」

「へー」

「こほん。……何の話だっけ?

 ああ、だから、ドミナトスは魔王だからフォルトゥナトスの館の時代に生きていたとしても不思議じゃないって話よ」

「うーん……。いや、悩む必要ないな。

 本当なのか、ココ?」

「うん? 何が?」

「ドミナトスは魔王なのか?」

「違うぞ?」


 ココの発言にローアは小さく『えっ』と言った。


「ドミナトス様は魔王、って言葉が嫌いだからな。

 ミケルマ様が言うたびに顔をしかめるんだ。

 だから魔王じゃない」

「……そう」


 これはどっちだ?

 単に魔王が嫌いだからなのか?

 それとも自分を魔王と認めたくないからか?


「ドミナトスは魔王だとしよう」

「ココは違うと言ったぞ!?」

「……えーと、その場合、つまり、どうなるんだ?

 俺たちは何をすればいい? どうすれば出られるんだ?」

「最初にココが言った通りよ。あの影を……魔術師をアドルモルタで斬ればいいの」

「アドルモルタ以外では……」

「無理よ。触れないわ」

「魔法でも……?」

「……触れないって言ったけど。物理とか魔法の問題じゃないわ。火力の問題なのよ。

 鉄を溶かそうと思えば少々火であぶったくらいじゃあ、ダメでしょ?

 半端な火力では、永遠に鉄は溶けないわ。

 それと同じよ。普通の剣や魔法では意味が無いの」

「つまり、俺が斬るしか……殺すしかないのか?」

「そうよ」



 ***



 皆と話し合って、影を殺すことになった。


 外に出るにはローアの言った通り、俺が魔術師のなれの果てである影を殺すしかないらしい。

 ローアとココによくよく話を聞いて、皆とも話し合ったし、思いつく限りの方法(アドルモルタでモールス信号的に意思疎通をはかったり)も試してみたが、ダメだった。


 殺す以外に方法が見つからない。


 エルダを斬ったり、ミケルマに斬りかかったりしておいて今更だけど、俺は人間を斬ることには抵抗がある。

 つい最近までどこにでもいる高校生だったのだから当然だ。

 もちろん、嫌な奴を殺してやりたい!とか思ったことはある。

 でもあくまでも妄想だ。実際の話じゃない。

 実行したら捕まるからというのもあるけれど、人の道から外れるのが怖かったというのもある。


 まあ、とっさにエルダを殺せたのだからあまりまともな方ではなかったのだろう。

 それでも……俺はまだ人の道は外れていないと思っていた。

 身勝手な理屈だけれど、エルダの時は正当防衛の範囲内だったと思っている。

 ミケルマの時は、仲間を助けるためだから正当防衛じゃないけれど……。

 とにかく、まだ人の道は外れてないはずだ。


 でも今、目の前にいる魔術師のなれの果てを殺すのは少し話が違う気がする。

 たしかに、このままだと外に出られなくて全員死んでしまう。

 でもそれもここにドミナトスを呼び出してもらってアドルモルタを渡せば出してもらえるかもしれない。いや、そこは疑っていない。多分、そこは信じていいと思う。

 だから……、俺が問われているのは『魔術師のなれの果てを殺してでも剣を持っていたいのか』ということになるだろう。


 誰かに期待を負わされることへの覚悟はローアのおかげでできていた。

 けれど、これはちょっと想定外だ。的確に弱いところを突いてきた。

 ドミナトスの歪んだ笑みが見える気がする。


 そこまでして持ちつづける覚悟があるのか?

 そう問われているようだ。


 でも、俺はなんだかんだ言って剣を手放したくない。

 永い歳月と妄執の果てに影と化した魔術師を斬ってでも。

 そう心が言っている。結論は出ている。


 なのに、殺せない。

 足が前に出ない。

 剣を振り上げることができない。



 俺が影の前で迷っているのを見かねて、ドットが近づいてきた。


「どうした?」

「……」

「シェイル?」

「殺したくない……」

「そうか。なら、ココに頼むか。ドミナトスを呼んでもらって―――」

「いや! ……いや、そうじゃない……。そうじゃないんだ……。

 剣は持っていたい。

 影を殺してでも、持っていたい。

 でも、殺すための一歩が踏み出せないんだ」

「……なるほどな。C級冒険者あたりが吐きそうな弱音だ」

「C級……?」

「C級は……まあ、一人前の冒険者と言ったところだ。

 それくらいになるとろくでもない依頼をこなさなければならないこともあるんだよ。

 ちょうどお前みたいにな」

「その時はどうするの?」

「人による。ケースバイケースだ。

 全ての依頼を引き受け、なりふり構わず高位の冒険者を目指す奴もいる。

 気に入らない依頼は突っぱねる奴もまたいる。

 合わないからと辞めていく奴も。

 天秤は人によって違う。正解はない」

「俺にどうしろと?」

「悩め。考えろ。いつも言っていることだ。

 お前の進む道は険しい。無傷で登れると思うな」

「無傷で……?

 それは、つまり、俺が傷つくのを恐れてると……?」

「そうだ。違うか?

 お前は自分が傷つくのを恐れている。

 悪いことじゃねえ。生き物としては当然だ。

 だが、自分の大事なものを曲げてまで避けるべきことなのか?

 それは本当にお前が望んでいることなのか?」

「……」


 ドットの言うとおりだ。

 俺は影を殺すことをためらっている。

 それは極端に言えば、人の道を外れないまま、キレイなままでいたいっていうことだ。

 それに気づいた。ドットのおかげで気づけた。


 それは違うだろう。

 俺はエルダを殺した時点でもうキレイじゃない。

 無かったことにはできない。してはいけない。


 俺はもう、影となり果てた魔術師を、殺せる。

 俺は、カッコいい勇者になりたかったはずなのにな……。

 まあ、人を殺してもカッコいい奴はいるから大丈夫……かな?


「ドット、覚悟が決まった。離れててくれ」

「ああ、しっかりやれ」


 俺はアドルモルタを抜いて、頭の上に構えた。

 青い炎をまとわせる。残った魔力を全てつぎ込んで。

 苦しまないように。一瞬で消し飛ぶように。文字通り影も形も残らないように。


「お前を解放する」


 俺は影に向けて全力でアドルモルタを振り下ろした。


 解放なんて言い訳だ。

 俺の剣に意味をもたせるための方便だ。

 でも、嘘でもいいから意味を持たせたかった。

 せめて意味のある死を迎えて欲しかった。



 手ごたえは、意外だが、あった。

 それこそ紙を切ったように小さい手ごたえだったけれど、確かに何かを斬ったような感触があった。

 影なのに、触れなかったのに、おかしな話だ。

 とにかく、影を斬った。


 次の瞬間、館が空間ごと軋むような音を立てて崩壊した。

 この崩壊の末に無事に外に出られるのだろうか……?

 心配になったが、俺はそれを見極めることはできなかった。


 魔力の使い過ぎで意識が飛んだからだ。



 ***



 気づけば、部屋の中にいた。

 館の中ではない。小屋だ。窓から陽の光が差し込んでいる。


「あ、起きたわね」

「おお、シェイル! 起きたか!」

「ああ、もうそんな時間か」


 ローアとココの声が聞こえた。

 寝ざめに女の子の声が聞けるなんて……!

 まるで、朝に可愛い幼馴染に起こされる、みたいなシチュエーションじゃないか!

 幼馴染がいない自分の境遇を嘆いて神を呪ったこともあったけれど、今日からは神に感謝してもいいかもしれない。


「おはよう、ローア、ココ」

「あれ? 僕もいるんだけど?」


 ……さっきから気になっていたけど、知らない人が混じっていた。


 年は大体俺と同じか、少し若いくらい。

 白髪のショートヘアで仰々しいローブを着ている。

 性別は……、正直見た目ではどちらかわからない。

 声が少し高いから女の子だろうか。男の子でも全然意外じゃないけれど。


「えーっと……、どちら様でしょうか? 会ったことありますか?」

「うーん、そうだなあ……。僕はエリス。神様だよ。君と会ったことはないね」

「…………は?」


 珍しく神様に感謝してもいいかも、とか考えていたら自称神様がやってきた。

第2章はここまでです。


次回の投稿は3か月後の2023/10/1を予定しています。


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