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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第2章 道標・呪縛・怪奇
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第41話 仲良し

「……なんだ? どういう状況だ、こりゃあ……」


 ドットは扉を開けて中に入ると立ち止まり、眉間にしわを寄せた。

 ココが号泣していて、それを俺がなだめ、ローアは知らんぷりで本を読んでいる。


 ルイーズ、アルタ、ミルも中に入りこの光景を見るなり、困惑した表情を見せた。

 帰ってきたドットたちを見て俺はホッとした。


「おかえり。出口は見つかった?」

「わからん」

「わからん? どういうこと?」

「それは後だ。行けばわかる。

 それより、何だこの状況はケンカでもしたのか?」

「ローアがココの隷属魔法を上書きしたから、ココが泣いてるんだよ」

「はあ? あー……、なるほどな」

「上書き!? そんなことができるんですか!?」


 俺の言葉にアルタは素っ頓狂な叫び声を上げた。


「ローアさん! 本当ですか!?」

「え、ええ……、まあ」

「そんなにすごいの?」とミル。

「ええ、ええ! すごいなんてもんじゃない。天才的です」

「いえ、そんなことないですよ。

 仕組みはわかってますから、やったことは大したこと無いです。

 ただ、魔法の結び目に掛かれた名前を書き換えただけです。

 ……筆跡をマネて……」

「それがすごいんですよ!」

「ええと……」


 やけにテンションの高いアルタをよそにローアはあまり嬉しそうではなかった。

 そんなアルタを遮ってルイーズは言った。


「アルタ、後にしろ。

 シェイル、そいつはなぜ落ち込んでいるんだ?

 ミケルマの支配が無くなったなら喜んでもいいだろう」

「……そんなわけないだろ」


 力なくココは言い、それきり黙りこくってしまう。


「多分、ミケルマとのつながりが無くなってしまったと思って落ち込んでるんだと思います。

 ずいぶんと信頼しているみたいでしたから」

「信頼?

 それなら魔法をかけていたのは変だろう」

「わかりませんよ。俺とローアみたいに解けなくなったパターンかもしれません」

「……まあいい。その話は出られたらゆっくりすればいい。

 出口らしきものが見つかった。ついて来い」



 ***



 部屋を出て10分ほどの位置にそれはあった。

 まず、そこにあったのは壁だ。部屋の端の壁。


 そこに扉があった。

 壁の高さ2メートルくらいの位置に扉があった。


 ルイーズはジャンプすると、扉の横の壁に付いた何かをつかんで静止した。

(後で聞いたが、打ち込んだくさびに捕まっていたらしい)

 ルイーズはそのままの姿勢でドアノブをつかみ、扉を開けた。


「さあ、入れ」

「入れったって、どうやって……」

「飛びつけ」

「……」


 仕方ないので言われるままに飛びついた。

 ……無様に壁に顔面を打ってしまった。


「……不器用だな」

「なんでわざわざ飛びつかなきゃいけないんだ! 階段作ればいいでしょ!」

「すまん。わざわざ階段を作る必要がなかったからな……」


 そう言われて俺は大人組を見た。

 ルイーズ、アルタ、ミルは聖騎士だし、ドットもまあ、できるのか。

 ……ちくしょう。


「大丈夫よ、シェイル。私も無理だから」


 ローアはそう言って俺の肩をぽんと叩いた。

 ふと見ると、ローアの目が死んでいた。


「階段を作りましょう」

「ココは行けるぞ!」


 ココは大声でそう言うと、パッと飛んで扉の中に入っていった。

 大人組も「お先に」と言って入っていった。


「……」

「……作ろうか」

「ええ……」


 俺が土魔法でゆっくりと階段を作る間、ローアはじっと扉を見つめていた。


 作った階段を上って中に入った。

 そこはさっきまでいた部屋とよく似ていた。

 棚やテーブルや椅子があり、ほんの少し生活感がある。


 ただ、部屋の中央にぼんやりとした黒い影のようなものがあった。

 黒い霧のような見た目だった。


「なんだこれ……」

「わからん。だが、今のところこれしか手がかりが無い」

「わからないのに?」

「わからない物はこれしかなかった」

「なるほど」

「これ、触れるんですか?」


 ローアは恐々、手を伸ばしていたが、四歩くらい距離を取った位置に立っていたため全然届いていなかった。


「いや、棒でも素手でも触れない。

 ローアなら何かわかるかと思ってな」

「ええ……。私が調べるんですか……?」

「そうだ。アルタも匙を投げたからな」

「ええ、私にはわかりませんでした!」

「……他の皆さんは……?」

「私はそういうのは無理だ」とルイーズ。

「俺は魔法が使えん、無理だ」とドット。

「あたしもわかんない」とミル。

「俺は―――」と言いかけたのは俺。

「あんたはいいわ」

「なんでだよ!?」

「ココはなあ―――」と言いかけたのはココ。

「あんたもいい」

「なんでだ!?」


 ローアはうんうん唸りながら影の周りをうろうろ歩いて調べ始めた。

 他の皆は部屋の中で適当にくつろいでいる。

 ココだけは部屋の隅でさっきのように座り込んでいる。

 移動が終わってテンションが下がったのだろう。

 俺がココに声をかけようか悩んでいるとルイーズに声をかけられた。


「シェイル」

「なんですか?」

「ドミナトスが最後に言っていたことを覚えているか?」


 ルイーズは小声で言った。

 ココに聞かれたくないのだろう。

 ドミナトスが最後に言ったこと?

 ……なんだっけ?


「なんでしたっけ?」

「『気が変わったら彼女に言うといい』、だ」

「よく覚えてますね」

「仕事柄な。意味はわかるな?」

「外に出る方法がわからなくても、ココに言えばドミナトスを呼べる」

「それと、アドルモルタを渡せば外に出してやる、というところだろう」


 ルイーズは交換しろ、と言っているのか?

 いや、ありえない。ルイーズは絶対にそんなことは言わない。

 じゃあ、なんだろう?


「えーと……、何が言いたいんですか?」

「ココはどうやってドミナトスを呼ぶのかと思ってな」

「あー、なるほど。確かに気になりますね。

 ……直接聞いてみましょうか」

「いいのか? 攻撃されたりしないか?」

「大丈夫ですよ。ローアに俺たちを攻撃しないよう命令されてますから」


 ルイーズはココを野犬か何かだと思っているのだろうか?

 ……いや、大体合ってるか。

 ローアに首輪をつけられた野犬みたいなもんだし。


「なあ、ココ。ちょっといいか? 聞きたいことがあるんだけど……」

「……」


 俺とルイーズが近づくとココは何も言わずに顔だけを上げた。

 ……また目が死んでいる。


「えーと、ドミナトスを呼び出す方法があるのか?」

「……知っている」

「どうやって呼び出すんだ?」

「……呼ぶのか?」

「いや、そういうわけじゃないけど」

「なら、言いたくない」


 そう言うとココはまたうつむいて座ってしまった。

 ルイーズはむっとした顔をして何か言おうとしていたが、俺がなだめて元の位置に連れて行った。


「隷属魔法をかけたのだろう。無理にでも聞き出せばいいだろう」

「俺の命令を聞くようにはしていないんですよ」

「ならローアに頼めばいい」

「……あまり、命令はしたくないんです。俺は。あと多分ローアも」

「なぜだ。あいつは敵だろう」

「もう敵じゃないです。支配したから。脅威じゃない」

「支配したなら、情報を引き出してもいいだろうが」

「ダメです! 人間として、決断する権利は与えられるべきだ」

「……お前は私たちの命がかかった状況でも同じことを言うのか?」

「いいえ。でもそれはまた別の話でしょ。今は命なんてかかってない」

「まあな。……つまりはやむを得ない状況でない限り、本人の意思を尊重したい。

 そういうことか?」

「そうです」

「……はぁ」


 俺の返答を聞いて、ルイーズはため息をついた。


「なんですか?」

「いや。甘いな、と思ってな」

「いいじゃないですか。甘くても」

「そうだな。甘くても問題ない。余裕があるうちはな」

「含みのある言い方ですね」

「……お前は優しすぎる。

 望まない力を持っているお前にはいつか必ず決断しなければならない時が来る」

「……」

「決断を下すことに慣れておくことを……。

 いや、せめて覚悟だけはしておくことを勧める。

 ……全てを失わないように」



 ***



 一時間ほど経った。

 ローアは相変わらず影を調べ続けている。

 他の皆は休んでいる。アルタだけ、ローアの手伝いをしようとしていたが結局何もせずに休んでいる。

 ココはまだ落ち込んでいる。

 ミルが話しかけていたが、なしのつぶてだったようだ。特に変化はない。


 俺は部屋の隅で火の魔法の練習をして暇をつぶしていたが、飽きてきた。

 だからというわけではないが、もう一度ココに話しかけることにした。

 ああして落ち込まれるとどういうわけが無性に気になるのだ。


 ……多分、「自分は役立たずだ」と落ち込んでいた時の自分と重ねてしまっているのだろう。

 わかったところで気にならなくなるわけじゃない。

 俺はココの近くに座り込んだ。


「……」


 ココはちらと目線をこちらに向けたが相手が俺だとわかるとすぐに目線を下げた。

 俺は何も言わなかった。


「……何か用か?」

「いや、特にない」

「なら、あっちへ行け。一人にしろ」


 まあ、そうだよな。

 俺は間違ったことをしたとは思ってないけど、ココにとっては敵だろうし。

 元凶みたいなもんだと思ってるだろう。

 落ち込んでるときにそんな奴が近くにいたら落ち着かないだろう。


 でも俺だって落ち着かない。

 こいつはきっと本来もっと元気なはずだ。

 だったら元気になって欲しい。

 そう思う。


 ……でもどうすればいいのか、何も思いつかない。

 仕方ないので思いついたことを口に出した。


「ミケルマ達に会いたいのか?」

「当たり前だろ」

「ここを出られたらどうするつもりだ?」

「お前たちは出られない。さっさとドミナトス様を呼べ」

「いいや、出られるね。ローアががんばって調べてくれてるし」

「……おめでたい奴だな」

「ところで、出る方法を知ってるんじゃないのか?」

「しっ」

「し?」

「……し、ししし知らない……」

「……」


 落ち込んでてもココはココだ。安心した。


 さて、どうしよう。

 誘導尋問でも聞き出せるかもしれないけど……、もう敵じゃないからなあ……。

 ローアは隷属魔法をかけたけど、襲われないようにするだけのものだし。


「そうか。もし何か思い出したら教えてくれ」

「へ?」

「なんだよ?」

「いや……、その、なにも聞かないのか?」

「ああ。……知らないんだろ?」

「! ああ! 知らない! 知らないぞ!」


 よかった。少しずつ調子が戻ってきた気がする。

 でもこのままだと多分また落ち込んでしまうだろう。

 どうしよう……。


「……何してんの?」


 顔を上げるとローアがげんなりした表情をしていた。


「ココが落ち込んでたから話しかけてた」

「そう、あー疲れた……」


 ローアはふらふらとココをはさんで反対側に座った。


「ココは一人になりたい! 一人にしろ!」

「はいはい、ごめんねー。静かにしてねー……」

「なんかわかった?」

「んー……、わかったのは八割くらいかしらね」

「おお……! ……それってすごいの?」

「すごくすごいわ。褒めなさい」

「すげえ! さすがローア!」

「あっはっは。もっと褒めてもいいのよ!」


 ローアはひとしきり高笑いした後、ココの背中を叩いた。


「あんたも私を褒めなさい」

「……なんで?」

「褒められれば私は良い気分になるからよ。さあ!」

「……バカじゃないのか?」

「えー……。真逆の言葉が来たんだけど……」

「一人にしてくれと言っている。頼むから放っておいてくれ」

「……あんた、ミケルマ達のところに帰りたんでしょ?」

「そうだ」

「なら、私を褒めた方が早く出られるわよ?」

「なんでだ。お前が失敗すれば出られない。

 出られないならドミナトス様を呼んで―――」


 ローアはココが話している途中でチッチッチと指を振った。

 絶妙に腹の立つ顔をしている。

 ココはムッとして言う。


「なんだ。何が言いたい」

「八割はわかったって言ったでしょ?

 もうパズルは解けるわ。残るのは時間の問題よ。

 つまり、いかに早く解けるか。わかる?」

「……だったらなんだ」

「だから、私を褒めたら早く出られるわ。

 その方が外に出て、新しいチャンスが巡ってくるかもしれないでしょ。

 この場所にはもう何もない。チャンスは無いわ。

 だったら、早く出た方がいいでしょ?

 わかったら私を褒めなさい」


 たっぷり三秒間、ココは停止した。


「……な」

「な?」

「何を言っているんだ、お前……?」

「え? だから私を崇めよ、って―――」


 それは言ってない。

 俺はローアに呆れただけだったが、ココはそうじゃなかったらしい。

 ココは猛然と立ち上がった。


「ふ、ふざけるな! なんなんだ、お前たち!

 一人にしてくれって言ってるのにまとわりついて!

 ミケルマ様の魔法を上書きしただけで命令しないし!

 その上、早く出たいなら褒めろって!?

 なんなんだ!?」

「ふざけてないわ。全部本音よ。

 私は褒められたいし、褒めてくれたらきっと早く出られるわよ。

 あなた、そんなことが気に入らないわけじゃないんでしょう?

 ……本当は何が不満なの?」

「お、お前たちがふざけてるからだ!

 それが不満なんだ!

 私は敵だぞ! 近づくな! 話しかけるな!」

「もう一度言うけど、ふざけてないわ。

 ただあなたを敵とは……。いえ、もう敵とは思ってないだけよ。

 どうせ一緒にいるんだから仲良くしましょ?」

「……」

「ね? いいでしょ? ね?」

「……うるさい」

「ローア、あんまりしつこくするなよ。

 嫌がってるじゃないか?」

「ふふん! わかってないわねえ、シェイル。

 これはね、違うわ。照れてるだけよ。私にはわかるわ」

「……そうなのか?」

「そんなわけあるか!」

「……だそうだ」

「照れてるのよ。私にはわかるわ」

「だからって、もう少し……。ん?」


 俺がしゃべっている途中でココはうつむいたまま、指をさした。

 その指は真っすぐに影をさしていた。


「出る方法を教えてやる。

 ……だから、少し放っておいてくれ」

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