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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第2章 道標・呪縛・怪奇
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第36話 敵

「他にも何人か来たぞ。全員殺してやった」


 その言葉を聞いて、脳みそが凍り付いたように感じた。


「……よ、鎧の女騎士はいたか?」

「いたぞ」


 頭に血が上っていく。

 何も考えられなくなっていく。


「……。白髪交じりの酒臭い男は?」

「あいつか。ああ、いたぞ」


 気づけば口の中がカラカラに渇いていた。

 つばを飲み込めない。

 声が出にくい。


「……修道服を……。修道服を着た女の子は……?」

「そいつもいたぞ」


 心臓の音がうるさい。

 頭の奥がじんとしびれたように感じる。

 頭が働かない。


「……こ、殺したのか?」

「ああ。殺したぞ。

 それがどうかしたのか?」

「……嘘をつくなよ。あの三人がお前なんかに殺されるもんか」

「嘘じゃない。ポケットの中を見てみろ」


 アルタがスッと動いて言われた通りにココのポケットの中身を探った。

 彼は何かを見つけ、顔をしかめた。

 立ち上がって見せてくれる。

 ……手の中に花の髪飾りを握っていた。

 ローアの物だ。


 まるで地面が崩れていくような気分だった。

 自分にとって、この世界でほとんど唯一、文字通り唯一と言っていい、大事な人たちだった。

 前の世界からこっちにやってきて、幸運にも……本当に幸運にも支えてくれる人を見つけられた。


 なのに……。


 それが……、それが何だ?

 死んだ?

 死んだって?

 冗談だろう?


「ははははは!」

「シェイルさん……?」

「シェイル君……?」

「くっくっく……。ははははは!」

「なんだ? 変な奴だな」

「変なのはお前だよ。

 変なことを言っているのはお前だ。

 ははははは! おかしいな!

 面白い冗談だ! 笑えるよ!」


 俺がそう言うと、ココは顔をしかめた。

 何を言っているんだコイツ、とでも言いたげな表情だ。

 ぶっ殺してやろうか。


「おい、笑ったぞ。

 面白いよ、最高の冗談だ。

 ははっ、ははははは!

 ははは……。

 ……なあおい、もういいだろ」

「何がだ」

「さっさと冗談だって言えよ。

 十分笑ってやっただろうが」


 ココは一瞬ぽかんとした顔になったが、次の瞬間には人形のような無表情に戻った。


「何を言うかと思えば……。

 冗談じゃない。私は冗談を言わない」

「……そうか」

「そうだ」

「……」


 俺は一歩下がって剣に手を掛けた。

 そのまま斬ってやろうと思っていた。

 怒りに身を任せて魔剣の青い炎で焼き殺してやろうと……。

 けれど、剣に手を掛けた瞬間アルタに腕をつかまれた。

 剣が抜けない。

 捕まれた腕がびくともしない。

 動かせない。


「放してください」

「ダメです、シェイルさん」

「どうして?

 ああ、まだ何か聞くことがありましたか?

 すみません。じゃあ、それまでは待ちます」

「違います。そうじゃ―――」

「じゃあ、なんですか?

 その女を生かしておくとでも?」


 自分で自分の声が震えているのがわかる。

 こんなに怖い声が出せるのかと、頭の片隅で思った。


「そうです。殺してはいけない」

「そ、そうだよ! ダメだよ!」


 ミルにも震える声で抗議された。

 そんなに悪いことなのだろうか?

 悪いことをした奴をやっつけるのは悪いことなのか……?


「どうして? なぜ?

 別にいいでしょう。

 その女は俺の仲間を殺した。そう言った。

 だからそいつは……あなたの言う、守るべき人間には含まれていないでしょう!?

 それとも―――」

「そうです。彼女は含まれていない! 含まれていません!

 あなたの言うとおり。その女は紛れも無く、私たちの敵だ」

「じゃあ、構わないでしょうが!?」

「私が守っているのはその女じゃない! あなたです、シェイルさん!」

「……は?」

「カッコいい勇者になるのがあなたの夢なんでしょう!?

 だったら、こんな……。こんな風に怒りに任せちゃダメです!」


 ……話を聞いていたのか。

 それで覚えてたのか。俺の子供みたいな幼稚な夢の話を。


「それにきっとルイーズ様も、ローア殿も、

 ドット殿……は正直わかりませんが……、

 いや! きっとあなたの仲間はあなたを止めたはずです!」


 それは少し違う。

『きっと』じゃない。

『絶対』だ。


 でも……。

 もう、ルイーズと、ドットと、ローアは……。


「ねえ、二人とも、私よくわからないんだけど……」

「ミル、そういうのは後で―――」

「どうしてルイーズ様たちが死んだって―――。

 あ、ごめん。わかった。後にするね」

「ん?」


 今なんて言った?


「今なんて言いましたか? 続けてください」

「いや、その……。私バカだから間違ってるかもだけど……。

 ルイーズ様たちが死んだって、この子が言ってるだけでしょ?

 あと、髪飾りを持ってただけ。

 だから、ホントは生きてるんじゃないのかなあって……」

「……」

「……」

「あっ、あっ、いや! 変なこと言ってゴメンね! 忘れて!?」

「……いや、ナイスアイデアです。よく言ってくれました。

 よく考えればルイーズ様がこの程度の相手に負けるはずがない」


 そうだ。

 それは……そうだ、その通りだ。

 ルイーズとドットが負けるはずがなかった。

 例えリビングアーマーの群れをけしかけられようとも、その中に身を隠していたとしても、二人を倒せるような迫力はこの女には無い。

 少なくともドットを倒すことすらできないんじゃないだろうか。

 俺はこの一か月、ずーーーっとドットと地獄の組手をやっていたんだ。

 あの酔っ払いの強さとズル賢さは嫌というほどわかっている。


 ……この頭の悪そうな女がドットに勝てるだろうか?


「……なんだ?」


 じっと見ていると、ココは顔をしかめた。


「なんだ、私の顔を見て。私がお前の仲間を―――」

「殺したのか?」

「そうだ」


 ……落ち着け。この程度のことでイチイチ腹を立てるな。

 そんなんじゃあ、カッコいい勇者なんて夢のまた夢だ。


 大きく息を吸って、吐く。

 もう一度。


「代わりましょうか?」


 息を整えていると、アルタが言った。

 俺は首を振って断った。


「自分で聞きます」

「わかりました。お任せします」


 そう言ってアルタは引っ込んでいった。

 後ろから「いいの?」「いいんですよ」というミルとアルタの会話が聞こえる。

 さあ、やってみよう。


「俺の師匠と仲間は強いんだ」

「それがどうした?」

「あいつらがお前みたいな奴に負けるもんか。

 どれだけ卑怯な手を使ったって勝てるような相手じゃない」

「そ、それでもココは勝った」

「そうか。じゃあ、どうやって勝ったんだ?」

「え?」

「教えてくれてもいいだろ?」

「ダ、ダメだ。キ、キギョウヒミツってやつだ。ダメだ」


 やはり怪しい。

 どうやら本当にローア達に勝ったわけではなさそうだ。

 三人は生きている。

 もし死んでいれば「ココが殺した」なんて下手な嘘をつく必要は無い。

 まあ、コイツが暴走したという可能性もあるけど……。

 多分、ミケルマとかいう奴に嘘をつくように言われただけなんじゃないだろうか。

 三人は生きている。そう信じよう。


 よし、次は「どうして嘘をついたのか?」を探らなければ……。

 カマをかけてみよう。


「ココ、どうして嘘をついたんだ?」

「ココじゃない。嘘もついていない」

「わかった。嘘をついていないとしよう」

「え? あ、ああ、わかればいいんだ……」

「……仮定の話だぞ。わかる?」

「なめるな! 家のことだろ!」

「それは家庭だ! ホーム!」

「カテイ、カテイ……。

 えーと……、途中……のやつ」

「それは過程だ! プロセス!」

「ええと……、ええと……」

「例え話ってやつのことだよ」

「あー!

 ……いや! わかってたけどな! カテイだろ!?」

「……」

「なんだその目は」


 話が脱線してしまった。

 気を取り直すために咳払いをする。


「こほん。話を戻そう。

 お前が嘘をついていないとする。だったら、おかしいだろ。

 俺が怒るってわかってたはずだ。

 いや、怒ってたのに平然としていた」

「お前が怒ったところで怖くはない」

「そうか?

 自慢できることじゃないが、俺の剣は強いからな。

 お前なんて軽ーく焼き殺せる」

「何が言いたい?」

「俺をわざと怒らせたようとしたんじゃないのか?」


 これが聞きたかったことだ。

 反応を見て見極めるんだ。


 ココの顔をじっと観察した。

 これだけわかりやすい奴だ。

 隠そうとすればどこかにりきみが出るはずだ。

 生唾を飲むとか、眉を動かすとか、汗をかくとか……。


「そそそそんなわけないだろう! 何を言っているんだ!?」


 ココはどもりながら叫ぶと、生唾を飲み、眉を動かし、汗をだらだらかいた。

 全部やるのかよ。

 なんだか、そういう風に誘導されているんじゃないのかと逆に疑ってしまいそうだ。

 まあ、そんな演技ができるなら最初からボロなんて出さないだろうけど。

 これで「わざと怒らせようとした」は確定していい。


 おそらく、アドルモルタを使わせて使用回数を減らそうとしたのだろう。

 俺を怒らせる意味なんてそれくらいしかない。


「ミケルマって奴に嘘をつくように言われたのか?」

「ちっ、違う!

 そ、そんなこと……ミケルマ様は言わない……。そんなこと……」


 ココはうつむきながらそう言った。

 怒っている感じじゃない。

 少し顔色が悪いように見える。


 もし、ミケルマが本当に命令していなければ、『尊敬するミケルマ様を侮辱された』と思って怒り出しただろう。

 逆に命令していたなら?

 バレないように隠そうとするだろう。こんな風に。


 ミケルマが命令したのだ。


 それがわかって、先ほどまでとはまた別の怒りがわいてきた。

 要するにこのココは、尊敬するミケルマ様とやらに命令されただけなのだ。

 わかっていたのだろうか? 俺を怒らせたらどうなるのか……。

 もしあのまま、アルタが止めてくれなかったら俺はきっとココを斬っていただろう。焼いただろう。

 ココは自分が死ぬかもしれないと知ってはいたのだろう。

 でも、理解はしていない気がする。

 まるで子猫のような目をしているからだ。人間を警戒する猫のような目だ。


 俺には絶対に許せないことがいくつかある。

 その一つが『子供を傷つける人間』だ。

 理屈はいらない。許せないし、許さない。


 つまり、俺はミケルマを絶対に許せない。


 全くもって現金なものだと、自分でも思う。

 さっきまで殺意まで抱いていた相手のために、知らない奴に怒りを向けているのだから。

 ドットが言っていた『まともじゃない』っていうのはこういうことも含まれているのかな?

 どっちだっていいか。


 ローア達はどうしているだろうか?

 ローアの髪飾りはココが持っていた。

 これだけじゃあ、向こうの状況はわからない。

 もしかしたら落ちていたのを拾っただけなのかもしれないし、ローア達が負けて捕まっているのかもしれない。


 最悪の状況を想定しよう。

 つまり、ローア達は捕まっている。

 だから俺達の目標はローア達をココの仲間―――ミケルマ達―――から取り戻すことだ。


 ローア達を助け出す。

 ついでにココも助け出す。

 ミケルマから自由にする。

 独りよがりだってなんだっていい。

 それが俺の理想のカッコいい勇者なんだから。


 助けてみせる。絶対に。

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