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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第2章 道標・呪縛・怪奇
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第35話 闇討ち

「私ががおとりになろうと思っています」

「そんなのダメだよっ。ダメ!」


 アルタの提案にミルが大声で異を唱えた。

 俺も当然、反対だ。


「そうですよ、ダメです」

「じゃあ、どうすると?

 いつか追いつかれるのはわかってるでしょう?

 他に方法がありますか?」

「皆でやっつけるのぉ!」

「それは無理だ、ミル。

 数が多すぎる。

 途中で戦ったものと同じとして、私が一度に相手にできるのは多く見積もって3体でしょう」

「でもさっきは一瞬で倒してたじゃないですか?」

「一瞬、というと語弊があります。

 一太刀、と言った方が正確でしょう。

 一体につき、一撃必要です。それをあの数を前にしてやるのは厳しい」

「でも……」

「私が3体。

 ミルは2体程度なら戦えるかもしれない。

 シェイルさんは……正直わからないが、グリズリーと善戦したことを考えても……、せいぜい2体が限界でしょう。

 つまり、あの数を相手にすると無事ではすまない。

 少しずつ負傷を重ねていって最後には全滅します。

 それだけは避けなければ」

「難しいこと言わないでよぅ!」

「いや、全然難しくないからな、ミル!

 よく聖騎士の試験に受かったな!?」

「あの、ちょっといいですか……?

 言い忘れてたことがあって……」


 俺はそろそろと手を上げた。

 二人には見えてないと思うけど。


 そう。

 俺はしばらく前に思い出していた。

 俺が持っている剣のことを。

 アドルモルタのことを。

 めっちゃ強い剣を持っているってことを、すっかり忘れていたのだ。

 切り札として取ってるけど、取っておき過ぎて忘れてしまっていた……。


「なんですか?」

「俺が持ってる剣、ホントは魔剣なんです。

 これを使えばあいつら、やっつけられるんじゃないかなって……」

「……あの青い炎の攻撃ですね?」


 アルタの声のトーンが少し低くなった。

 気づいていたのか。そりゃそうか。

 でも気づいていたならどうして言ってくれなかったんだろう……。


「しかし、何か代償があるんじゃないですか?」


 そういうことか!

 代償があると思って、遠慮してたのか!


「ええと……、特に代償はないです。

 魔力の消費量が大きいくらいで……」

「……どれくらいですか?」

「今は一日に三回か、四回くらいは撃てます」

「今日は何回使いましたか?」

「まだグリズリーと戦ったときの一回だけです」


 修業の成果が出たのか、なんなのかはよくわかっていないが「蒼炎閃」と名付けた魔剣の斬撃はそれくらい使えるようになった。

 魔力が増えたのかと思ったが、ローアが何かややこしいことを言って否定していたからそうではないらしい。

 ……なんて言ってたっけ?

 燃費がどうとかだったかな?


「……どうして言わなかったのですか?」

「その……忘れてて……」

「……」

「す、すみません……」


 沈黙が怖い。

 アルタさんの表情が見えなくてよかったと思った。


「アルタ、シェイル君いじめちゃだめだよぉ」

「いじめてませんが……?」

「ちょっと怖い顔してる」

「顔見えてないでしょう!」

「見えるもん。眉間にちょっとしわ寄せてるでしょお?

 私、わかるよ。いつもしてるもん、その顔」

「……そうなんですか?」

「そうだよ。……いいじゃん!

 皆助かりそうなんだから!」


 ミルさんが天使に見えた。

 優しい……。かばってくれるのありがたい……。

 ああ、ダメだ。ダメ人間になりそうだ……。

 いや、ダメ人間だからかばってもらってるのか……。


「その……すみません……」

「いえ、いいんです。

 解決策が見つからなくて、少しナーバスになっていました。

 ……こちらこそ申し訳ない」

「いっ、いえいえ!

 忘れてたのは俺が悪いんですから!」

「いえ、そうではありません。

 私が守るべきなのに、あなたに頼らざるをえないようですので」


 律儀な人だ。

 常に聖騎士としての理想を追っているのだろう。


「気にしないでください。

 俺も誰かの役に立ちたいですから」



 ***



 作戦は簡単だ。

 まずは、鎧の騎士……リビングアーマー達が十分に近づいてくるまで待つ。

 待って、横薙ぎに蒼炎閃を撃つ。

 以上だ。


 縦斬りだと、中央にいる数体にしか当たらないが、横薙ぎならまとめて攻撃できる。

 全滅させることもできるかもしれない。


「そ、そんなんでいいの?

 もっとこう……、なんか考えたほうがいいんじゃ?」

「不要でしょう。

 リビングアーマーの知能は高くない。

 動きもかなり鈍い。間合いの外からの範囲攻撃には対応できません」

「そ、そうなの?」

「ええ」


 余裕そうな発言を聞くと不安になるんだけど……。

 なんかフラグっぽいし。

 しかし、発言権は無いので何も言わない。

 実際、連中の動きは遅い。


 ここで明かりをつけて待っていてわかる。

 まるでゾンビのようだ。

 ゆらゆらと揺れるようにして歩いている。

 アルタによると、リビングアーマーとは実際のところ正体は寄生虫らしい。


「鎧のどこかにコアがあります。

 それを破壊すれば殺せる。

 逆に言えばそれ以外の攻撃には意味がありません」

「場所は決まっていないの?」

「まちまちですが、よく観察すれば見ただけでわかりますよ」


 それは嘘だ。

 だってかなり近いのにわかんないもん。


「わかんないけど!?」

「慣れれば、わかります。

 連中の怖いのは痛みを感じないことです。

 こちらの攻撃に対してほとんど感心を払わずに攻撃をし続けてきます。

 キミとミルには近接で戦うのは荷が重いでしょう」


 言ってくれる……!

 ま、その通りだけど。


「さあ、ここらでいいでしょう。

 あなたの自慢の火力を見せてください」

「燃え尽きろおおお! 蒼炎閃!!」


 アドルモルタの斬撃はとんでもない。

 ある程度調節が可能だが、基本的に攻撃範囲が広い。

 射程もそうだが、この場合、が大事だ。

 今回は目一杯幅を拡大する。

 横薙ぎに斬って、リビングアーマーの頭のてっぺんから、つま先まで余裕で斬ることができる。

 核の場所なんて関係ない。

 全部焼き切ってしまえばいい。



 剣を左に構えた時には問題は無かった。

 しかし、剣を半分ほど振りぬいたときに、おかしなことが起こった。

 目の前のリビングアーマー達の中から、何かが跳びあがった。


 黒かった。

 炎があるから周囲はそれなりに明るくなっていたが、それはほとんど真っ黒だった。

 ただ、目だけがこちらを見ていた。

 殺意を持った目だ。

 人間の目だった。


 アドルモルタを振りぬいたとき、そいつは俺のすぐ目の前に着地した。


「青い炎の剣、持ってる奴、殺す」


 声の感じからしてどうやら女らしい。

 いや、そんなことより、めちゃくちゃ物騒なことを言いやがった!


 左側で何か光るものが走っている。

 多分、ナイフを振っている。

 首元を切り裂かれるイメージが頭をよぎる。

 アドルモルタを振った反動を殺せていない。動けない!

 避けられない!

 死ぬ!


 急に後ろから首元を誰かに強く引っ張られた。


「ぐぇっ」


 喉が潰れそうになって変な声が出た。

 多分、アルタだ。アルタが後ろから引っ張ってくれたのだ。

 ナイフがあごを少しかすっただけだ。

 助かった。

 危なかった……。


「失敗した……」


 女は自分のナイフをじっと見つめて突っ立っている。

 ……なんだこいつ?


 俺がせき込みながら困惑していると、女がナイフを構えなおした。

 素早い。気づいたときには動き出している。


「……リトライ」

「ミル! シェイルさんを!」

「はい!」


 アルタが俺の目の前で剣を構え、ミルに指示を飛ばす。

 なんだ? どういう指示だ?

 俺は何かした方がいいのか? しない方がいいのか?

 わからない!


 悩んでいるうちに、女はアルタの間合いに入った。

 アルタが水平に剣を振りぬく。

 女は軽く跳躍してアルタを飛び越えた。

 俺を見ている。

 あくまでも狙いは俺らしい。


 ええい、知らん!

 ミルが何をするとしても、問題にならないこと……。

 アルタは俺を対象にするように呼びかけた。

 つまり攻撃じゃない。

 なら攻撃しても相殺は無い!


爆発球エクスプロージョン!」


 後ろに下がりながら、火球を作り出す。

 威力は無くていい。ハリボテでかまわない。

 大きく、一瞬でも相手に躊躇させればそれでいい。

 大玉の火球を置く。


(突っ込んで来たら焼けるぞ!)


 それが伝われば十分。相手を止められる。

 一瞬でも止まればアルタが間に合う。

 あるいはミルが何かしてくれるのかも。


 ……さて、コイツはどうする?

 火球をどう避ける?

 左か? 右か? またジャンプするのか?

 どっちだ?


「シェイル君! もう一歩下がって!」


 ミルの声。言われるがまま、下がる。

 女は?

 どうなった?


 視界にはいない。

 ……どこにいる?


 目の前の大玉の火球が破れた。

 服のあちこちを燃やしながら女が突っ込んでくる。

 くそ!

 止まらねえのかよ!

 ハリボテって言っても火の塊だぞ!?

 無傷じゃすまないだろ!


 女のナイフが再び俺の首元を狙っている。

 体勢が悪い。下がり続けたから。

 いや、関係ない。

 この女は速い。どんな体勢でも避けられないし、受けられない。


 俺はコイツの刃から逃れられない!



「……天使の翼(アンジェルスアラス)!」


 ミルが横で叫んだ。

 女のナイフが俺の目の前で止まった。

 何かにはじかれて止まった。


 女の目が驚きに見開かれる。

 これでわかった。

 ミルが防御魔法を使ったのだ。

 不可視の結界、みたいなものだろうか。


 ともかくこれで、ようやく女の動きが止まった。

 女の背後で稲光が走る。

 アルタだ。


雷の槍(フルグラスタ)!」

「っがあああ!?」


 背後からアルタの電撃を食らって女は気絶した。



 ***



「起きてください」


 アルタの声で女は起きると、まぶしそうに顔をしかめた。

 まだ鎧が青い炎を出して燃えているから明るいのだ。

 さらに身体を微かにうごかして自分が縛られていることもわかったようだ。

 より眉間のしわが深くなる。


「あなたに聞きたいことが山ほどあります。

 なぜここにいるのですか?

 どうして彼を狙ったのですか?

 あなたは何者ですか?」

「……?

 あまりたくさんしゃべるな。わからん」

「失礼。では一つずつ聞きましょう。

 あなたの名前は?」

「敵には何も言うな、とココはミケルマ様に言われている。

 何も言わない」


 ……は?

 自分の名前と……主人?の名前をしれっとバラさなかったか?


 ココと名乗った女は平然としている。

 自分が情報を漏らしたことに気づいていないようだ。

 ……ザルなのでは?


「えー?

 ココって言ってたじゃん。自分の名前でしょう、それぇ?」


 ミルがいらんことを言った。

 ココはハッとした顔をし、サッと口を手で覆った。

 アルタが渋い顔をしてミルをにらんだ。


「あっ、ごめんごめん……」

「ミルは黙っていてください」

「はぁい」

「……シェイルさん。念のため、ミルの口を押えていてください」

「えぇ!?」

「わかりました」

「えええ!? アルタぁ!? シェイル君!? ふがっ」


 問答無用でミルの口をふさいだ。

 手をばたばたさせて暴れるが、しっかりと口をふさいだ。

 唇やわらかい……ではなくて。

 仕方ないんです!


「ココさん」

「ココじゃない」

「……ココさん。あなたは、なぜここにいるのですか?」

「ココじゃない。何も言わないぞ。あきらめろ」

「ふむ。あの鎧たちはあなたがけしかけたものですよね?」

「違うぞ! ココは何の関係もない! 鎧なんか知らない!」

「そうなんですね。ありがとうございます」


 アルタはにっこりと微笑んだ。

 ココは拍子抜けしたように目を丸くした。


「お、おお……。わかればいい」


 思いっきり怪しい。

 どうやったのか方法はわからないが「ココが鎧たちをけしかけた」で間違いなさそうだ。


「では、どうして彼を……シェイルを殺そうとしたのですか?」

「青い……。いや! なんでもない! 殺そうとしてないぞ! ココは!」


 ココは思いっきり「青い」と言いかけた後でごまかそうとした。

 そういえば襲われたときに「青い炎の剣、持ってる奴、殺す」って言ってたな。

 察するに「ミケルマ様」って奴が青い炎の剣(アドルモルタ)を持ってる奴を殺せって命令したのだろう。


 でもそうなると、ちょっと変だな。

 ココはいつから鎧たちをけしかけていたのだろう?

 俺たちが部屋に来た時からか?

 それとも最後に攻撃するまでどこか別の場所にいたのか?


 そもそも俺がこの部屋でアドルモルタの青い炎を見せたのはさっき攻撃した一回だけだ。

 なのにどうして攻撃する前から鎧たちの中にいたのだろうか?


「……私たちの他に誰か来ませんでしたか?」

「来たぞ」

「えっ?」


 アルタは思わず驚いた声を上げていた。

 俺も驚いた。

 あっさり答えるとは思わなかった。


「何を驚いている。仕事に関係ないことは言ってもいいだろ」


 最初の方に「何も言わない」とか言ってなかったっけ?

 まあいいか。

 もしかしたらローアたちのことを聞けるのかも……。


「他に何人か、来たぞ。全員、殺してやった」

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