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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第2章 道標・呪縛・怪奇
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第29話 魔法

 翌朝、イルアの町を出た。

 町に入るときと同じく、馬に乗って出発した。


 馬は返さずに継続して契約したらしい。

 ルイーズによると貸し馬屋は渋ったそうだが、聖騎士の身分を利用してゴリ押しして通したとのこと。

 シェイルがドットの弟子になったから馬車ではなく、馬での旅に決めたらしい。


 見渡す限りの田園風景を馬に乗って進んでいく。

 ただし、シェイルは走らされている。

 ルイーズとローアは先に進んでいるが、ドットはシェイルのすぐそばを進んで細かく指示を出している。


 町を出てから一時間ほど走らせた後の休憩で、ドットはシェイルに告げた。


「次は魔法だ。魔法の特訓をする」

「魔法!? マジで!?」

「あ、ああ……。やたら嬉しそうだな……」

「もちろん! だって魔法だもん! 魔法!」

「わかったわかった……」


 ドットは顔を近づけてくるシェイルを押しのけると、咳払いした。


「えー……、杖を持て」

「はい!」

「構えろ」

「はい! こうですか!?」

「そうだ。あー、もう少し真っすぐ前に……。よし」

「次は!?」

「地、水、火、風のうち、一番好きなのはどれだ?」

「地……、水……、火……、風……。…………火、かな?」

「ほう」

「カッコいいから!」

「わかったわかった。じゃあ、杖の先に火をともすイメージを……。いや、ちょっと待て」

「え?」

「ローア! ちょっと来てくれ」


 ドットはシェイルを制止すると、ローアを呼んだ。しかし、ローアは読書に夢中で聞こえていない。

 仕方ないな、とドットはルイーズを呼んだ。


「ルイーズ、来てくれ」

「……ああ」


 ルイーズはローアの注意をひかないように気を付けてドット達の所まで来た。


「何の用だ?」

「杖の先に火をともしてくれ」

「なるほど。お安い御用だ。

 火よ、我が道を、照らせ」


 ルイーズは杖を受け取り、シェイルがしているように仰々しく構えるとゆっくりと時間をかけて杖の先に火をともした。


 杖の先に小さな火花が散る。まるで線香花火のような小さな火花がパチパチと。

 その火花が徐々に大きく、激しくなりバチバチと音を立てる。

 そこから火花は収束し、一瞬だけ赤く丸くなる。

 次の瞬間、赤い球はボッと火の形を取って揺らぎ始めた。


「おお!」


 シェイルは感激して手を叩いた。

 ルイーズはそれを見て苦笑した。


「エルダと戦ったときはこんなもんじゃなかっただろうが」

「いや、だって戦ってたし、感動とかしてる場合じゃなかったから」

「それもそうだな。……これでいいか?」

「ああ、助かったぜ」

「うむ。またいつでも呼べ」


 ルイーズは去り際にシェイルの頭をわしわしと撫でると「励め」と言って馬の世話をしに戻った。

 かっこいい。


「じゃ、今の感じで杖の先に火をともせ」

「ラジャー!」


 その休憩の後、馬に乗って火をともす練習をした(ドットに「俺の背中を燃やすなよ」とは言われた)が、一向に火はつかなかった。


 杖を穴が開くほど見つめてもダメ。

 ルイーズと同じ文句を唱えてもダメ。

 杖の構えを少しずつ変えてもダメ。


 大声で叫びながらやってもダメだった。

 ドットに「うるさい」と言われて拳骨を食らっただけだ。



 ***



「アドルモルタでトリビューラを攻撃したときは剣が燃えてたわよ。

 魔法が使えないってことは無いと思うけど?」


 火の魔法が使えないとローアに相談したら、そんな答えが返ってきた。

 シェイルはトリビューラを攻撃したときのことを思い出した。確かに剣は燃えていたような気がする。


「あれが魔法なのか?」

「他に何だって言うのよ」

「いや、ほら、アドルモルタって魔剣……だろ?

 だからなんかこう……、アドルモルタ特有の何かだったり……」

「うーん……、よくわからないけど……。

 アドルモルタを振ったときはどんな感じだった?」

「えっと……。トリビューラが笑っていたのが見えて、腹が立って……」

「胸の奥から湧き上がる衝動のようなもの?」

「そう。そうかも」

「大丈夫、それは魔法よ。アドルモルタ特有のものじゃない。れっきとした魔法。

 ま、地道にがんばりなさい」


 ローアは偉そうに口の端をゆがめて笑うと読書に戻り、「私も頑張らないと……」とつぶやいた。


「? なんか言った?」

「なんも言ってないわ。さっさと行きなさい」

「ええ……? なんで急に怒るの……?」

「いーから、行け!」

「はい……」



***



三日後、シェイルは杖の先に魔法の火を灯すことに成功した。

コツのようなものはつかんだけれど、言葉にできるようなものじゃなかった。

自転車に乗れるようになった感じだろうか。

実際、魔法を使う感覚はバランスを取る感覚に近い……ような気がする。



***



 夜明けとともに起きる。

 起きないとドットに文字通りたたき起こされるので自然と目が覚めるようになった。


 まずは素振りを100回。

 この時、ドットも素振りをしていて見本を見せてくれる。

 特に指摘はされない。ただ黙って振っているだけだ。


 次に杖に持ち替えて火の玉を20個作る。死ぬ気で速く。

 作り終えるまでの時間はドットが数えていて、今日の素振りの回数が決まる。

 火の玉を作るのにかかった秒数×20回。

 今はまだ一個作るのに10秒くらいかかるので、合計で200秒くらい。

 なので素振りは一日に四千回くらいだ。

 ちなみに大きさ、強度、威力に基準がありそれをクリアしていないと一個としてカウントされないので、とにかく急いで丁寧に作る。


 たまに数え間違えることがあるが受け入れるしかない。怒っても秒数が増えるだけなのだから……。

 ごく稀にローアが来てカウントしてくれることがある。

 数え間違えないのだが正直、早く朝食を作って欲しい。


 これが終わればあとはずっと素振り。

 これを朝食ができるまでずっと。

 控え目に言ってかなり疲れるが、まだまだ序の口だ。




 朝食を食べ終えると移動だ。

 みんなは馬に乗るが、乗らない。乗せてもらえない。

 ひたすら走ってついていく。

 馬が休憩するまで俺にも休憩は無い。

 地味に馬の糞を避けるのがしんどい。

 一度踏んでしまったときの絶望感は半端じゃなかった。

 避けられないほど限界の状態で、息を切らしているのに、いつまでも臭いのだ。

 おまけにドット達に「臭いから近づくな」とか言われてバカにされるのだ。

 精神的な疲労がすさまじい……。




 昼食前には自由時間。

 ……なのだが、現状素振りのノルマがきつすぎて休んでいる暇はない。

 この辺りで一度ローアかルイーズに手を治療してもらう。

 ここから少しメニューが優しくなる。




 昼食後は移動。

 なんと馬に乗せてもらえる。

 ……なんだか麻痺している気がするが、ありがたいことには変わりない。

 メニューも無い。この時間は馬に揺られながら寝ることにしている。


 が、一時間も立たないうちに馬の休憩で起こされる。

 眠気覚ましに素振りをする。




 再出発。まだメニューは優しい。

 なんと言っても馬に乗っていいのだから優しい。

 魔法の稽古だ。水と風の魔法、火の玉を作る魔法を練習する。

 土魔法は馬に乗りながらだと難しいので、水と風魔法がある程度できるようになったら考えるらしい。

 ……そのうちこの時間も走れとか言われないか心配だ。




 夕食前。夕焼けと共に優しい時間が終わりを告げる。


 ドットと組手をやる。武器は無し。

 ルールは無い。急所も顔面もアリ。

 ドットは大抵の攻撃を寸止めにしてくれるが、かと言って油断すると容赦なくぶち込まれる。

「どうせ寸止めだから」って高をくくってると殴りたくなる、らしい。

 怖い。殴りたくなる、っていうのが怖い。


 降参は無い。夕食ができるまで延々と続く。

 泣いても喚いても逃れられない。

 ほぼ拷問。


 投げ技も関節技もアリ。

 何度も地面に叩きつけられるのであらかじめできるだけ芝生が生えているところを探しておく。石も急いで取り除く。

 受け身は教えてもらえたし、手加減もされているようだが、めちゃくちゃ痛い。


 夕食前にやるのは、食後だと吐くからだろう。




 夕食後。

 基本的な稽古はここまでで終了。

 ……なのだが、ノルマが残っているので素振りに当てる。

 大体2500回くらいは残っている。今のところノルマは4000回程度なので半分も終わっていない。

 一時間くらいローアかルイーズに魔法で治癒してもらいながら素振りするが、まだまだ終わらない。


 あと数百回、という所まで来てからが本当につらい。

 もう体力が残っていないのだ。

 治癒魔法ではケガは治せても体力までは戻せない。

 だから最後は一回一回へろへろになりながら剣を振る。

 俺がそんな状態でもドットは容赦がない。

 腰が入っていなかったりして剣がまともに振れていなければカウントしないのだ。


 正直、このときに「今のはダメだ」とか言われると殺意が湧く。

 怒りの感情でアドルモルタに火がともったのも一度や二度じゃない。

 ドットもそれを見ている。見ながら酒を飲んでいる。

 怒りで火が付くのだと知っていて、平気な顔で飲んでいるのだ。


 腹立たしい。

 本当にこんなので強くなれるんだろうか、と疑問に思う。

 不安と怒りで目がさえて眠れない。

 メニューがきつすぎる。素振りも組手もつらい。痛い。

 現代の日本だったら体罰だとか何とかで確実にSNSで炎上した上で逮捕されるレベルのメニューだろう。

 そんなのをニヤニヤと笑って酒を飲みながら課してくるのだ。

 めちゃくちゃ腹が立つ。



 それでも……ドットに弟子入りしたことだけは間違っていなかったと思っている。



 実は夕食後のこの時間、ドットも目の前で素振りをしている。

 自分もシェイルと同じ回数のノルマを課していて夕食後に一気にこなす。

 基本的に治癒魔法はかけてもらわない。

 というよりも治癒魔法をかけてもらおうとしていたのは初日だけだ。

 手にマメができて痛い、と言ってローアに頼んだが、横からルイーズに「我慢しろ」と言われ、ローアにも断られた。


 初日は初めて持つ大剣に慣れていなかったらしい。

 翌日からは新しいマメさえできなくなったようだ。


 ドットの素振りは美しい。

 一振り一振りに必殺の威力があるとわかるのに、無駄がなく、速く、鋭く、軽い。

 ドットの振る剣はまるで重さを感じさせない。

 アドルモルタと同じ重さのはずなのにまるで小枝でも振るうかのような軽さなのだ。


 見入ってしまう。

 感動してしまう。

 その天才的な技量に。


 この天才について行けば俺でも、その足元くらいにはたどり着けるかもしれない。

 悔しいけれど、ドットの素振りを見てしまえばそう思うしかない。


 ドットの弟子で居続ければきっと強くなれるだろう。



 ***



 イルアを出てから四日目の晩、夜中にふと目が覚めた。

 いつもは疲れすぎて夢も見ず死んだように眠ってすぐに朝になっているのだが、なぜか目が覚めてしまった。

 とはいえ疲れて眠いことには変わりない。

 すぐに目を閉じ、寝返りを打って再びに眠りの中に落ちようとした。


 しかしその時、遠くからルイーズの冷たい声が聞こえてきた。


「……どう考えてもやりすぎだろう。何を考えている?」


 問い詰めるような声だ。あまり聞かない声色。

 ドットがやり過ぎをいさめる時の呆れたような口調ではない。

 ルイーズはどうやら真剣にドットの稽古について意見をしているようだ。

 完全に目が覚めた。

 耳をそばだててドットの返事を聞こうと集中する。


 ドットがどう思っているのかが気になった。


「やり過ぎか……。やり過ぎねえ……」

「違うとでも言いたいのか?」

「ああ。違うね。全然違う。やり過ぎなんてことはない。そんなものは初めから無い」

「なんだと? 正気か?」

「もちろん。お前こそわかってるのか? あいつの背負う重荷が」

「重荷、だと?」

「そうだ。重荷だ。

 あいつはアドルモルタなんて魔剣が扱えるせいでどれほど期待されるか。

 どれだけの人間を救うことを強要されるか。

 能力がある。だから期待されて当然。そうだろ、違うか?」

「……ああ、そうだ。

 当然だ。当然期待される。お前の言うとおりだ」

「それが重荷なんだよ」

「違う! 

 これは義務だ。人を救う能力がある者はそれを正しく使う義務が―――」

「そんなものは、無い」

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