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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
第2章 道標・呪縛・怪奇
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第24話 魔物

「少し殴り足りねえなあ……」

「いや、もう十分でしょう!?」


 ドットはどこからか見つけてきた酒を飲みながらボヤいた。シェイルはそれに反射的に反論した。ドットと来たら目についたライルーザの手下を片っ端からボコボコにしてきたのだ。おまけに食料や酒、金目のものまで目につけばぶんどる始末。シェイルは段々と彼らが可哀そうになってきてしまっていた。


「別にいいだろ。ほら、聖騎士様だって何も言ってねえ」

「ええ……? いいんですか?」

「……良い訳ないだろう。何を言っているんだ……?」

「えっ、じゃあ、どうするんですか?」

「どうもこうも無い。こうなった以上、問題になる前に街から出る。公に処理をすれば私たちも火傷しそうだし、しなければ報復が面倒だ。さっさと街を出るに限る」

「うーん、ローアはどう思……。……何その格好?」


 シェイルはローアの意見を聞こうとしたが、ローアがアドルモルタを持ってルイーズの兜をかぶっているのを見て、まずその格好について質問した。ローアは怒りを押し殺した声で言った。


「アドルモルタを運ばなきゃならなかったの」

「うん。うん……?」

「街中で剣を引きずってみなさいよ。こんなでかい剣……。人目につくわよね。音もすごいのよ。ガリガリガリガリ……。やったことある? すごい恥ずかしいんだから」

「ええと……、その、ご、ごめん……」

「そもそも、全部、アンタが迷子になって捕まらなければ起こらなかったことよ……? ごちゃごちゃ言わずにルイーズさんの言う通り街を出ればいいのよ」

「ごもっともです……」


 シェイルは一気にしゅんとして小さくなった。ローアがこれ見よがしにアドルモルタを持つ手を放す。ガン、と音を立ててアドルモルタが地面に落ちる。シェイルが何かと思ってローアの顔を見ると、


「拾いなさい」


 と「命令」された。シェイルは夢を見ているような気分で剣を拾いあげ、鞘に納めた。気づけば剣を背中に背負っていた。ローアは鼻を鳴らして、兜を脱いだ。


「ふん、これでチャラにしてあげるわ」



 ***



 シェイル達はこの街の市場や宿を全てスルーして街を横断して、外れの方にある駅を目指した。ドットによれば「たーしか、その辺に馬を貸してくれる奴がいる」とのこと。


 来てみればちゃんと「馬貸し」の店があった。一軒家ほどの店と馬小屋が併設されている。ドットは馬貸しの店に入る前にべらべらと機嫌よく話をし始めた。


「上手く手配してやるよ。ガキどもは外にいな」

「りょーかい」

「わかりました」

「ルイーズ……だったか、行き先は?」

「次の町は……イルアだな」

「ふんふん。……金はいくらある?」

「……なぜだ?」

「警戒すんなよ、りゃしねぇよ」

「……金貨3、4枚だ。全部は使えないぞ」

「わかったわかった……。中に入ったら俺が話をつけるから、余計なことは言うなよ」

「は? ならなぜ私も入る必要があるんだ?」

「説明めんどくせえな……、いいから言うとおりにしろよ。金貨2枚で馬借りてやっから」

「……本来は借りれないのか?」

「全然足んねえよ」

「お前の金は―――」

「生憎俺は一文無しだ」

「……私の金で馬を借りるのか? 図々しくないか?」

「まだ借りれてねえよ。借りれたら俺のおかげだし、借りれなかったら仲良く徒歩の旅だ。文句ねえだろ?」

「……まあいいだろう」

「決まりだな」


 ドットとルイーズが中に入ると、新聞を読んでいた不愛想な顔つきの店主が二人に挨拶した。


「……いらっしゃい。……馬、かね?」

「ああ、そうだ」

「何頭いるんで?」

「4頭見繕ってくれ」

「……おい」


 ルイーズはドットを軽く小突いた。ドットは笑顔でルイーズを振り返った。ルイーズはドットの笑顔を純粋に気味が悪いと感じた。 


「何でしょう、ルイーズ様?」

「……なんだ、それは」

「……何とは何でしょうか。私はいつもこうですが?」

「……シェイルは馬に乗れない。ローアは乗れるらしいが、自信があるわけではない。私とお前で二人を乗せる」

「なるほど、わかりました。2頭にしてくれ」

「……どちらまで?」

「行き先はウニルだ」

「ウニルか、それなら金貨6枚だな」

「……6枚?」


 ドットはルイーズからすればやや大げさに聞き返した。


「今持ち合わせがないんだが……、借りれないか? ウニルで返せば問題ないんだろ?」

「これは担保だからな。ダメだ」

「ルイーズ様は聖騎士なんだ。ほら、担保なんか要らないだろ?」

「……本当ですか?」

「ああ。私は聖騎士だ」

「なら割引がありますが……」

「……いくらだ?」

「金貨2枚です」

「……」


 ルイーズとドットは顔を見合わせた。というよりもルイーズがドットを非難するような眼で見た。


「聖騎士だという証明はできるなら、ご利用できますが……?」

「ああ、頼む。……これでいいか?」


 ルイーズが身分証を見せると馬貸しはあっさりとうなずいた。


「確かに。ルイーズ様ですね。サインをお願いします」


 手続きが全て終わると、ルイーズはドットを一瞥した。ドットは気まずそうな顔で笑みを浮かべている。


「……あまり図々しいセリフは吐くなよ?」

「わかりましたよ……、ルイーズ様」



 ***



 ルイーズたちが馬を選びに馬小屋に来ると、すでにシェイルとローアがいた。馬の番をしていた少年と話している。どうやらエサやりを手伝っていたらしい。ルイーズはその少年に状態の良い馬を出すように伝えた。


 ルイーズとローア、ドットとシェイルに分かれて馬に乗った。シェイルは落ちないようにドットの腰に手を回して必死でしがみついた。大してスピードは出ていないのに、風がすごい。

 視点が高い。地面が遠い。

 ものすごく揺れる!怖い!

 尻が痛い!怖い!


 ダカダカダカと街道を走っていく。分かれ道の看板の前で少し止まって方向を確認する。再び走り出すと、はるか彼方に見えた森へとあっという間にたどり着き、入っていった。


 馬車も通る道なのか、ある程度の幅のある道が出来ていた。森に入る頃にはシェイルも少し慣れてきて、周りの風景を見る余裕が出てきた。


 あちこちで鳥がさえずっている。日の光が木々の葉をすり抜けて落ちてくる。ドットの背中はがっしりとしていて、すごく頼もしかった。酒臭くさえなければ完璧なのにとシェイルは思った。


 一時間ほど走った後、馬を休ませるために休憩を取った。どうやら知らず知らずのうちに全身に力が入っていたらしく、シェイルは馬から下りるなりへなへなと崩れ落ちた。ローアはそんなシェイルを見てニヤニヤしながら水を飲んでいた。


「しっかり休め。しばらくしたら出発だからな」

「……いつまで馬に乗るんですか?」

「今日は一日中乗ると思え。まあ、あと4時間はこの調子で走る。その後は多少スピードを落としてもいいだろう」

「あと4時間~~!?」


 シェイルはそう叫ぶと地面にばったりと仰向けに倒れこんだ。



 ***



 数時間経って、太陽が地平線に沈みかけた頃、シェイルは死にそうな顔色でどうにか地面に下りた。足がガクガクに震えている。まともに立てずに膝から崩れ落ちるように座り込んだ。


「おいおい、だらしねえな……」

「しょ、しょうがないじゃないですか!? だって今日初めて馬に乗って、それで8時間も走るなんて!」

「それもそうか。頑張った方だな。ま、ゆっくり休めよ」


 ドットはそう言うと、どっかりと腰を下ろして懐から酒瓶を取り出した。それを見てローアがうんざりしたような表情を見せた。


「またですか……?」

「またとは何だ。俺は今日ろくに酒を飲めてないんだ。いいだろうが」

「でも、街にいる時はずっと飲んでましたよね」とシェイル。

「あー? 馬に乗ってからは飲んでないだろうが」


 ひょっとして、運転中に酒飲んでないからセーフ、みたいなこと言ってるのか?

 ローアは信じられない、という目をして首を振った。

 そんな彼らを尻目にルイーズはカバンから鍋と食器を取り出していた。集めてきた薪に火をつけている。


「料理できる奴」

「私、できます」

「できません!」

「肉を焼くだけならできるぜ」

「それは料理とは言わん」


 ルイーズはドットとシェイルを蔑むような目で見た。


「そ、そんな顔しなくてもいいじゃないですか……」

「いや、本当にお前たちはイメージ通りだな、と思ってな……」

「そんな褒めんなよ……」

「褒めてないが。……もういい、ローア、手伝ってくれ」

「はーい」

「お前たちは追加の薪でも拾ってこい」

「仕方ねー。行くぞ」

「えっ、僕も……?」

「当たり前だろうが、若いんだから身体動かせ」

「さっき、ゆっくり休めよ、って言ってくれたじゃないですか……?」

「……終了。休憩、終了! 立て!」

「ううう……」


 シェイルはしぶしぶ、ヨロヨロと立ち上がったが、いつの間にか火が沈んでいたらしく、森の暗さに尻込みした


「暗すぎる……。ドットさん、魔法で火をつけてもらえますか?」

「いや、俺は魔法は使えねえ」

「え?」


 シェイルは困惑した。ライルーザのアジトで、ドットは道具も無しに床石をえぐり取り、手錠を引きちぎり、ライルーザが出した火の魔法を素手でかき消したはずだ。アレは魔法じゃないのか? まさか体術を極めればそういうことも可能になるのか? それともこの世界には魔法以外の不思議な力があるのか?


 ドットは足元に落ちていた枝を一本拾って焚火の火をもらって、簡易的なたいまつのようにした。


「行くぞ。燃え尽きる前に枝をかき集めろ」

「はっ、はい」


 シェイルが枝を探して地面を目を皿のようにして見ながら歩いていると、ドットがいきなり不穏なことを言いだした。


「ああそれと、この辺はたまーにだが、魔物も出る。気を付けろ。はぐれるな」

「はい。……えっ? 魔物?」

「そうだ」


 魔物? 魔物って何だ。どんな奴? 普通の動物じゃないのか? きっと違うんだろう。


「魔物って、どんなのですか?」

「知らないのか……?」

「ええ、まあ……」

「……たまにしか出ないから気にするな。薪を集めろ」

「いや、気になりますよ!」

「あーもう……、この辺にはな―……、なんだっけ、なんかでけえクマみたいのと、でけえイノシシみたいのが出る」

「アバウトすぎません?」

「本質を捉えてるからいいんだよ。いいから枝を拾え。暗闇で襲われても知らんぞ」

「ひいい……」


 シェイルは暗闇の中にクマとイノシシがいて、今にも襲われるのではないかとヒヤヒヤしながら必死で薪を探した。素早く地面をチェックしながらも耳を極限まで研ぎ澄ませた。……ドットが小枝を踏む音でいちいち飛び上がるほど驚いていたのだが。


 3回目の小枝が折れる音でもシェイルはビクッとしたが、「さすがに慣れたよ」と余裕の表情を作って振り返った。そこにドットはいなかった。いたのは暗闇の中で光る二つの瞳。それも見上げるほど高い位置にあった。


「でっか……」

「……! 何突っ立ってんだ、バカ!」

「ぐぇ」


 ドットはシェイルの首根っこをつかんで思い切り引っ張って後ろに投げた。投げられながらシェイルは「ぶぅん」という低い風切り音を聞いた。クマが右腕を振り回したのだ。もしドットが引っ張ってくれていなかったら、シェイルの首は飛んでいたかもしれない。


「えっ、えっ!?」

「魔物だ。クマの方だ。アタリだな」

「どこがぁ!?」

「騒ぐな。頭に響くだろ」


 ドットはしかめ面で火のついた枝をクマに向けながら言った。

 クマはでかかった。三メートルは超えているだろう。フーッ、フーッ、と息を荒らげている。ドットは剣を抜いた。


「……」


 ドットはクマと睨み合い、剣をだらりと下げて動きを止めた。クマは首を振ったり、うろうろとドットの周り(おそらくは間合いの外)を歩き回るが、ドットはわずかに体勢を変えるだけで退く気配は無い。

 やがてしびれを切らしたクマが腕を振り上げた。瞬間、ドットはクマの懐にもぐりこんだ。シェイルがにはドットが直撃を受けたように見えたが、倒れたのはクマの方だった。ドットはかすり傷一つなく、そこに立ってクマの死骸を見ていた。剣をもう一度振って血を払う。

 シェイルが近づくと、ドットは火のついた枝を持ったまま、剣をしまい、代わりに酒瓶を取り出して当たり前のように飲み始めた。


「真似するなよ。お前には無理だからな」

「……わかって、ますよ」

「それならいい」


 ドットは落とした枝を拾うと「もう十分だろ」と言って戻り始めた。


「コイツはそのままにしていていいんですか?」

「ん? ああ、いい。俺、クマの肉は嫌いなんだ」

「でも、もったいなくないですか?」

「虫が食おうが、人間が食おうが一緒だろうが。いいから行くぞ」


 そう言って、ドットはすたすたと帰り始めた。シェイルはもう一度クマの死体を振り返った。そしてドットを呼んだ。


「あの……、ドットさん」

「なんだ?」

「僕を……弟子にしてくれませんか?」

「ああ?」


 ドットが怪訝怪訝そうな顔で振り返ると、シェイルは頭を下げていた。

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