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勇者・隷属・アドルモルタ  作者: 甲斐柄ほたて
最終章 これまでの千年・決戦・これからの千年
134/134

最終話 これからの千年

 手折られた白い花が一輪。

 小さな岩の前に置かれている。


「久しぶりだな、ドット」


 花を供えたルイーズは小さな声でそう言うと、微笑んだ。

 酒は無い。

 ドットは「酒は無いのか」と文句を言っているだろう。

 だが、死人に口なし、だ。



 シェイル達がトゥルモレスに勝利してから、三年経った。

 ルイーズは聖都にあるドットの墓に来ていた。


 聖都で行われたエリスとトゥルモレスとの戦いは終わった後でシェイル達から詳細を伝えられた。

 ルイーズは運よく(・・・)生き残った聖騎士の一人として、真実をある程度公表した。


 実在する神エリスは各地の魔王、勇者キュアリスとともに、邪神トゥルモレスと戦ったこと。

 トゥルモレスに勝利こそしたが、共に戦った魔王と勇者も倒れてしまったこと。

 エリスも傷つき、休息するということ。

 戦場となった聖都にいた住人に生き残りはいないこと。


 ルイーズはエリスが死んだ事実は伏せることにした。

 ただでさえ、聖都が壊滅したのだ。

 家族や友人、大切な人を失くして嘆き悲しむ彼らの心のよりどころを奪うのは、あまりにもむごい。

 シェイルとローアについても公表しなかった。

 しても彼らにメリットなど無いからだ。

 そもそも二人に公表しないでほしいと釘を刺されてもいた。


「まさか私が手を引いて聖都まで連れてきた二人が、エリス様と肩を並べて邪神と戦い、生き残って帰ってくるとはな……。

 夢にも思わなかったよ」

(そうか? 俺はあいつらはやる奴だと思ってたけどな。)

「知った風なことを。ローアはドットの弟子じゃない。

 言うほど知らないだろ?」

(弟子みたいなもんだ。ほら……、心の師匠ってやつだよ)

「ふ……」


 ルイーズはドットの返答をシミュレートしながら話していたが、最後のセリフはドットなら言わないな、と思った。


 さて、とルイーズは立ち上がる。

 重い荷物を持って。

 これから旅に出るのだ。


 かつての友の幸せを壊した男に復讐する旅へと……。



 ***



「あははははは! 勝った勝った! また私の一人勝ちね!」


 紫煙と重い空気の蔓延する狭い部屋の中に愉快そうな女の笑い声がこだまする。

 それを囲む男たちはまったく愉快そうではない。

 むしろ険しい顔で彼女のことをにらんでいる。


 ただ、彼女の対面に立っているディーラーだけは穏やかな雰囲気を保っていた。

 笑い続けている女性に忠告する。あくまでも穏やかに。


「フェネラ様、他のお客様のお気分を害することになりますので、あまり大声ではしゃぐのは……」

「じゃあ、いつはしゃげと? まさか負けたときなんて言わないわよねえ?」

「それは……」

「こんなとこじゃあ、勝った負けたなんか茶飯事でしょ?

 いちいち目くじら立てる方がおかしいわよ」

「額が、額ですから」

「ディーラー始めて、何年?」

「ええと……、一年ですね」

「へえ! そうなの! 見えないわね、肝が据わってるわ!」

「それはどうも、恐縮です」

「こう見えて、うちの亭主は元聖騎士なんですよぅ。私もですけどぉ」


 ディーラーの後ろから女性がひょこっと顔をのぞかせた。

 自慢げに旦那の肩に手をのせて甘えるように揺らしている。


「ちょ、ちょっと、今は仕事中だからべたべたしないでくれよ……」

「いいじゃん! ね、いいでしょ? お客さん」

「ええ、もちろん」

「……」


 フェネラはにっこりと笑って了承したが、彼女の対戦相手である残りの強面たちはうんともすんとも言わなかった。



 ここは新聖都に千ちかくある酒場の一つだ。

 店主の名前はアルタ。

 彼はエリス教本部の移行作業が終わると同時に聖騎士をやめ、この店を開いた。

 同時に同僚だったミラと結婚した。ミラも結婚を機に聖騎士を辞した。

 出だしは順調だったが、近所に新しい酒場がオープン。

 生活が徐々に苦しくなってきたので、ミラの(適当な)アドバイスを真に受けてギャンブルコーナーを設けたところ、なかなか好評だった。

 二人が聖騎士だったこともあり、荒事があっても即座に対応できたからだ。


 ここはあくまでも、軽いギャンブルをたしなむ場だ。

 普段は……。

 そりゃあ、たまにはそれなりの大金をかけて勝負する輩もいるが、せいぜいその月の給料くらいなもの。

 負けたって家に帰って奥さんに大目玉を食らう程度。

 可愛いものだ。


 しかし、今日は違った。

 フェネラと名乗る旅の客がふらっと立ち寄って、賭場に気づくや、近くにいた客をさそって(煽って)ギャンブルを始めた。

 一見、何の変哲もない、いつも通りのギャンブルだった。

 勝って、負けて……。

 お互いにシーソーをリズムよく傾け合っていたようだった。

 それが、アルタが目を離した隙に客が大負けしていたのだ。

 負けた方は自分がいくら賭けていたのかすら、自覚できていなかった。

 アルタはその額を聞いて仰天したが、すぐに気を取り直した。

 この賭場では賭け金の上限が設けられている。

 アルタはそれを説明した。


 すると今度はフェネラがゴネ始めた。

 そんな上限など聞いていないと言うのだ。

 たしかに説明はしていなかったが、そういった物があることは「常識」だ。

 あまり高額のギャンブルをして、もめごとになったり、客が破産してしまってはメリットが無いからだ。

 しかし、フェネラはなおもゴネた。

 彼女も上限があることくらい、当然わかっている。

 ただ、そうやってゴネることで、高額のギャンブルに持って行こうとしているのだ。

 上限なんて知らなかった。

 せっかく勝ったのに、これではあんまりだ。

 どうか上限なしでのギャンブルを認めてくれないかと。

 あろうことか、負けた方も挑発に乗って、これに賛同した。


 アルタは交渉した。

 そして、敗れた。

 で、現状である。


 アルタは目の前で怒りながら機嫌よく大金をかけ続けている客たちを見てため息をついた。


 はたしてこのフェネラは厄介事を引き起こさずに、終わってくれるのだろうか、と。



 ***



 仰々しい服装に身を包んだ大柄な男が立派な机に座り、山のように積まれた書類に目を通していた。

 一つ一つ読んでは、ときおり人を呼んで確認したり、指示したりしている。


 ひと区切りつけてティータイムにした(なお、書類の山の高さはあまり変わっていない)とき、ためらいがちなノックの音が聞こえた。

 彼はむっと眉をひそめ、手に持ったカップを置いて「どうぞ」と返答した。

 ノックの主は額の汗をふきながら、あいさつもそこそこに言った。


「フェリクス騎士団長殿、その、お耳に入れておきたいことが……」

「……家内がまた何かしでかしたのか?」

「その、まあ……。ええ」

「はあ……」


 フェリクスは深々とため息をついて立ち上がり、いれたばかりの紅茶を一息に飲み干した。


「案内を頼む」



 向かった先は新聖都の中央広場だった。

 そこにフェリクスの妻、ノイアがいた。

 新設されたエリス像の前に立ち、大勢の人を前にして叫んでいる。


「ローア様を崇めよ! ローア様を讃えよ! ローア様を……」


 途端に集まっていた民衆からバッシングを受ける。


「またお前か!」「エリス様の前で不敬だぞ!」「ローアって誰だよ!」「ひっこめ!」


 フェリクスは目の前の光景に足を止め、顔を覆った。

 見慣れた光景ではあるが、一向に慣れることは無かった。


「なんですと!? ローア様を知らない!?

 哀れで無知な子羊ですね、あなた方は!」

「なんだとお!」

「いいでしょう、私があなた方にローア様のご威光をしかと知らしめて……」

「そこまでだ」


 フェリクスはノイアの後ろに立ち、脇を抱えてひょいと持ち上げた。

 持ち上げられたノイアは抵抗して手足をじたばたと動かしたが、手の届く距離には何もなかった。


「誰ですか、あなたは! 顔を見せなさい! 名乗りなさい! 私は今からローア様の素晴らしさを広めるという大変栄誉のある仕事をするのです! 邪魔しないでください!

 さあ、名乗ってみなさい、誰ですかあなたは!」

「お前の亭主だよ」

「……」


 ノイアはじたばたしていた手足をピタリと止め、ズレた眼鏡を直し、ゆっくりと後ろを振り返り、持ち上げている人物を確認した。


「……たしかに。私の旦那様ですね」

「何度いったらわかるんだ。やめてくれ、こういうことは」

「ふっ」


 ノイアは鼻で笑った。


「何をバカなことを……。

 ローア様の! ご威光を! 広めることの! 何が悪いと言うのです!」

「大声を出している! 近所迷惑だろうが!」

「……。それはまあ……、そうですね……、すみません。でもですね、」


 ノイアがなおも言い訳を始めたので、フェリクスはしびれを切らして、歩き始めた。

 ノイアを抱えたまま。


「あっあっ、止まってください、フェリクス。私の話が途中ですよ」

「知っている」

「えっ、歩きながら聞くと? できれば止まってほしいのですが……。

 舌を噛むかもしれないので……」

「黙っていろ、ということだ!」

「えええ、そんなあああ……」

「まったく! 何度言っても、聞かんのだからな、お前は!」


 フェリクスはやかんのように顔を真っ赤にして怒りながら広場を後にした。

 担がれながらもしゃべり続けている妻を抱えながら。

 後に残された人々は「あれはなんだったのだろう」としばらくの間お互いに顔を見合わせていた。



 ***



「ただいまー!」


 一人の女性が元気よく一軒の家のドアを開けた。

 家はうっそうとした森の中にひっそりと建っていた。

 山小屋というよりは大きく、豪邸というには小さい。


 彼女はドアを開けっぱなしにしたまま、連れの男性をおいてけぼりにしたまま、家の中に駆け込んでいった。

 彼は元気のいい彼女に苦笑しながら、家の中に入り、静かにドアを閉めた。


「ああ、来たのか」


 ドアを閉めたところで声をかけられた。

 振り向くと、中肉中背の黒ずくめの男が本を片手に立っていた。

 ほとんど表情がないが、不機嫌なわけではないことを彼もわかるようになってきた。


「こんにちは、ドミナトスさん。お久しぶりです」

「ああ。ええと……。

 すまない、君の名前は、なんだったかな?」

「僕は……」


 彼が何度目かの自己紹介をしていると、家のどこかから「お久しぶりです!ミケルマ様!」という彼女の声が元気よく響いた。

 彼とドミナトスは苦笑した。


 二人が声のした方へ向かうと、彼女は両腕を大きく動かして銀髪の男性(ミケルマ)に、会わないうちにあった楽しい出来事を報告している。

 ミケルマは優しいほほえみを浮かべながら彼女の頭をなでようとした。

 しかし彼女はその手をつかんだ。


「ちょっと! 何するんですか!」

「いや、すまない。つい、癖でな……」

「もう! 仕方ないですね! 少しだけですよ!」


 そう言って猫のように頭を差し出している。

 二人が遠くから見ていることにも気づいていない。

 普段は信じられないほど気配に敏感だが、今は他人のことなど頭から抜けているに違いない。

 気づいていれば黙って頭をなでられたりはしない。

 ミケルマはリクエストに応えて彼女の頭をなでた。


「おかえり、ココ」



 ***



「おい、そこの二人、のぞき見とはいい度胸だな」


 頭をなで終えて、ミケルマはニヤリと笑って言った。

 ココがバッと振り向く。

 ドミナトスは「おっと」といって素早くどこかへ行ってしまった。

 振り向いたときにはもう姿は無かった。

 逃げ遅れた彼が振り返ると、もうすでに、ココはすぐ目の前にいた。


「のぞき見してたのか!?」

「ち、違うんだ、ココ。のぞき見じゃなくて……」

「問答無用!」


 ココは彼に飛びかかり、足で彼にしがみついた。

 彼は倒れないように必死でふんばっている。

 彼が文字通り手も足も出せない状況で、ココはにんまりと笑い、両手で彼の頭をわしゃわしゃとかき回し始めた。


「うわあああああ! やめてくれえええええ!」

「あははははは! あははははは!」


 その様子をミケルマが眺めていると、どこからともなく現れたドミナトスがぽんと肩を叩いた。


「……元気そうでよかったな」

「はい」

「ぎゃああああああ!」


 普段は静かな家にココのボーイフレンドの叫び声がこだまする。

 今日は騒がしい一日になりそうだ。



 ***



「ローア=シェイル教団?」


 カーディエイト女王ピスタチオ三世は書類を臣下に渡し、眼鏡を外して眉をひそめ、目元を軽くもんだ。

 最近少し視力が落ちてきたと感じていた。


「何の冗談ですか、それは……」

「冗談ではありません。新聖都を中心に広まりつつあるエリス教の分派です。

 もっとも、エリス様がすでに亡くなられていると主張する過激な分派ですが……」

「……」


 ピスタチオはふたたび眉間を軽くもんだ。

 エリスが死んだということはシェイルとローアから直接聞いたことがあった。

 邪神トゥルモレスとの決戦後、二人はときどきお茶を飲みに来ている。

 もちろん、非公式に。お忍びで会っただけだ。

 ついでに言えば、ローアが神様になったということも聞いた。

 シェイルがうっかり口を滑らせてローアに怒られていた。

 懐かしい。


 ピスタチオは眼鏡を掛け直した。


「教主の名前は?」

「ノイア・ララ・シクアイールというそうです」

「ああ……」


 ノイア……。聞き覚えのある名前だ。

 一度だけ会ったことがある。

 シェイル達に仲間を紹介してもらったことがあった。

 その時にいたはずだ。

 やたらとローアに懐いて(絡んで)いた女性だ。


 シェイル達の仲間、ということはエリスが本当は死んでいるということを知っているのだろう。私と同じように。

 現在はローアが神様になっているということも聞いたに違いない。

 ローア好きが高じて、教祖になったということか。


 教団名にシェイルの名前が入っているところに違和感はあるが……。

 案外、ローア本人の口利きだったりするのかもしれない。

 シェイルの名前も入れろ、と。

 あの二人のことを思い出してピスタチオは微笑んだ。


「陛下?」

「ああ、ごめんなさいね。

 それで……、その教団がどうしたのですか?」

「新聖都周辺だけではなく、国内でも勢力を拡大しつつあります。

 徐々にですが……。

 それで、エリス教会が……」

「対策を要求してるのね。食い止めろと」

「そうです」

「わかったわ。ニーズ公を呼んでちょうだい」



 ***



 手折られた白い花が一輪。

 小さな岩の前に置かれている。


「待たせてすまない。仇は、討ったぞ」


 岩の前に片膝をついて祈りを捧げていたルイーズはがしゃ、と鎧の音を鳴らして立ち上がった。

 立ち上がるときにほんの少しふらついた。

 髪に白いものが混じっている。

 彼女の祈りを見ていたブブとボボも相応に年を取っていた。

 髪は白くなり、深いしわが増えた。

 二人の顔を見て、ルイーズは深く頭を下げた。


「彼女の墓を守ってくれたこと、感謝する」

「いい」「仇、討ってくれた、俺達こそ、感謝」

「ブブー、ボボー。どこー?」


 教会の中から小さな子供が呼ぶ声がする。

 ブブとボボはほぼ同時に振り返った。


「俺達、戻る」「ゆっくり、していけ」


 ブブとボボはそれだけ言うと、よろよろと教会の中へ戻っていった。

 教会の勝手口から顔をのぞかせた子供がブブとボボをみつけて喜んでいる。

 ブブとボボは道化のようにぎこちない動きで子供を笑わせている。


 ルイーズも教会に戻ることにした。

 墓を振り返る。


「茶をごちそうになってくるよ。またな。

 今度は……私が死んだらまた会おう」


 ルイーズは踵を返して笑い声のする教会へと歩いていった。



 ***



 ***



 ***



 ***



 ***



 ***



 ***



 ***



 ***



 ***



 ***



 ***



 ***



 ***



 ***



 ***



 ***



 ***



 手折られた白い花が一輪ずつ、

 三つの小さな岩の前に置かれている。

 元々小さな岩だったが、あちこちが欠け、乾いた苔が張り付いている。


「お久しぶりです。百年ぶりくらいでしょうか。

 ご無沙汰していてすみません。忙しかったもので……」

「忙しいって言い訳にしていいの?」

「……」


 糸繰いとくりの女神が黙って指をふる。途端にマリオネットの勇者の口がぐいと閉じた。

 勇者は片手で口をこじ開けようとしてもがいている。

 片手で女神の日傘をさしたまま。

 女神は続けた。


「手こずっていた仕事が片付いて、やっと手が空いたので、これからお世話になった人たちのお墓参りに出かけるんです。

 それで、まず初めにあなたの所に来ました。

 私たちにとって、あなたが最初のきっかけ、でしたから」

「まだ、どこかにいるのかな」

「誰が?」

「エルダ。ブブとボボ。他のみんなも」

「いないわ。残ったものなんてない」


 女神は立ち上がり、膝についた草や砂をはらった。

 勇者は日傘を持ったまま少し下がった。


「魂はとうになくなっているもの。魂が保持していた記憶も、心も、全てほどけてしまった」

「じゃあ、祈ることに意味は無いのかな」

「なにが聞きたいの? 私の意見? それとも普遍的な話?」

「どっちかっていうと、後者かな」

「人それぞれよ、そんなの」


 女神は勇者から日傘を受けとると、一度だけ太陽を見上げ、すぐに傘でさえぎった。


「神様なら正解を知っているんじゃないか?」

「正解なんて、それこそ意味がないわよ。

 私が間違ってるって言ったら、祈るのをやめちゃうの?

 それならたしかに、祈る意味なんて無いかもね」


 女神は傘で目線を隠し、微笑みを浮かべながら傘をくるくると回している。


「祈る、っていう行為はそういうものじゃないわ。

 誰かが言ったことで左右されるとか、意味があるとか無いとか……。

 そういうこととは無縁なの。

 神様に祈りを捧げる。

 死者に弔いを。

 大いなる自然に庇護を。

 厄除けを。

 幸運を。

 願いを。

 信じること、考えること、見つめること、願うこと。

 愛したものを思い出すこと。

 愛したことを思い出すこと。

 それが私にとっての祈り。

 その数々の断片。

 どれをとっても素晴らしいわ。

 どこから見ても綺麗。

 間違っていようがいまいが、そんなこと全部どうでもいいの。

 魔法使いでも、巫女でも、こうして神様になったいまでも、私は祈るわ。

 誰に?

 誰だっていいじゃない、そんなの」

「……わかった、わかったよ」


 勇者は両手をあげた。降参の合図だ。


「バカな質問をした俺がバカだった」

「わかればよろしい」

「それで次はどこへ行くんだっけ?」

「次? 次はね……」


 女神は傘を少しあげてにやっと笑った。


「まずは、そこの教会でお茶をいただきましょうか」

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