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亜空間収納(続)

作者: 昼迄寝瑠

「亜空間収納」の続編です

 あの惑星の再生作業が終った。


 一休みできるかと思ったら、次々と仕事を押し付けられる。どうやら、惑星規模の大災害はオレに押し付ければいいとか抜かしているやつがいるらしい。


 地方管理神共さぼってんじゃねー!

 自分の星は自分でどうにかしろ!


 この宇宙は物理法則の一部として魔法があり、たまに神が出没したりもするファンタジー全開の世界だ。神々が面白がって惑星の住民に力を与えすぎるから、ちょくちょく人為的な大災害が起きる。


『バカ勇者が魔王城ごと惑星の一部を吹き飛ばしてしまった』


『とち狂った賢者がメテオ系の極大魔法を使ったら、ちょうど通りかかった小惑星が地殻をぶち抜いた』


『魔王が最後の悪あがきでブラックホールを発生させてしまった』


 いや、最後のはどうにもならんでしょ。

 星が完全に砕けて、見事な膠着円盤になってるし。


 砕けた惑星の管理者だった駄女神が時空神に貢ぎ物して100回くらい頭下げればワンチャンあるかもだけど。



 こんな調子で仕事が尽きない。

 惑星を一個滅ぼした俺が何の因果か今ではテラフォーミングの達人だ。


「お主、才能あったんじゃな。正直、感心したぞ。これまでよくバカ共の後始末をしてくれた。その功績を認めて、この『再星槌』をやろう。通称コス〇リバースじゃ」


 トールハンマーか打出の小槌かといった見た目のクソ重いハンマーをもらった。

 これをもらってからは仕事が一気に楽になった。


 もはやテラフォーミングにかけてはオレの右に出る者はいない。というより、他の神々が仕事しなさすぎるのだ。神の眷属なのに、ブラック企業のサラリーマンのごとく働くのはオレだけだ。

 再星槌を振るのは楽しいから、まあいいけど。


 そんなオレもついに休暇をもらえることになった。


「これまでに再生した星から一つ選んで、1000周期ほど現地で生活して来い」

「それじゃ、あの惑星へ」


「そう言うじゃろうと思うておったぞ。あの星にもワシを祭る神殿が完成間近じゃ。お前が行って信者の願いを聞いてやるがよい」


「ええ〜、それって誰かさんが放置してた仕事じゃ?」

「何を言うか。神殿が完成しとらんのに祈りがワシまで届いておるわけなかろう」


「時々届く声を『都合のいい時に都合のいいことばっかりほざきおって』とか言ってたのは誰でしたっけ?」


「おほん!まあとにかくじゃ、干渉しすぎるのも良くない。どうしても見捨てられん者だけ助けてやればよい。相手が信者でなくともかまわん。このワシが平等で偉大であることを知らしめて来い」


「やっぱり仕事だったよ」


「下界で死んでもここへ帰ってくるだけじゃが、死ぬときは死ぬほど痛いからな。あんまり無茶はするなよ」




 再びあの惑星に降り立った。


 今は神の眷族だが見た目は普通の人間だ。

 後光が差したりはしないし、能力もあの時とほぼ同じ。テラフォーミングとかできちゃうのは別として。


 普段使いできる能力で前と違うのは魔力無限、殺されない限り不死、そして今回は最新バージョンの亜空間収納だ。


 これは余計な能力だが、神殿で祈る声も聞こえてしまう。

 正しい通信プロトコル(祈りの作法)を使っていればだが。

 地上に降りればそんな作法など関係なく、本当に困っている者の声も聞こえてくる。


 坊さん達の毎度の念仏、もとい、毎日の祈りなんか聞こえても何の意味もないのに。敬虔な信者ほど頻繁に祈るわけだが、わが宗派には信仰ポイント的なシステムは無いのだ。


 この惑星にも地球のように海で隔てられた東西の大陸が存在し、どちらにも文明が育っている。当然、交流のない文明圏の進歩具合には差が出る。将来『新大陸発見』とかほざいて原住民を虐殺するバカが出るのを防ぐために、時々様子を見て手を入れていた。具体的には天候操作や火山噴火で。


 なんだかオレも神様っぽいな。

 とは言っても、無からパンを出して飢える民を救うような力は無い。

 オレはテラフォーミング専門の、いわば土建屋なのだ。


 あ、駄女神から通信だ。


「あんた、そんなところで遊んでるんじゃないわよ」

「いや〜、ちゃんと休暇もらってるんですけど」

「この私が困ってるのよ。下っ端のあんたが休んでていいわけないでしょ」


「いや、でも、あの星は下っ端のオレにはどうにもできませんよ?」

「できるわよ」

「え?」


 何だ?

 何かろくでもないこと考えてるな。


「私、今暇だからあんたがいる星の半分を面倒みてあげるわ。1000年間、タダでね。その代わり第二惑星をちょうだい」


「ええ〜、何言ってんですか?それじゃタダじゃないし」

 おかしなこと言ってる自覚無いのか?


「だいたい、どうやって移動させるんです?」

「あんたと私が協力すればできるわ」

「嫌な予感しかしないんですけど?仮にできたとして、残された惑星の軌道はどうするんです?」


「その程度の微調整どうにでもなるわよ」

 なるのか。

 駄女神でも、さすがは神だ。


「できるとしても、嫌な予感しかしないのでお断りします」


 突然後ろから首を絞められた。

「ぐえっ..苦しい、死ぬ、死ぬ。オレは殺されたら死ぬんですー」

「黙って協力しなさい」

「い・や・で・す!」


 こんなところまで来るとは思わなかった。

 完全に顕現(けんげん)しちゃってるし。

 本当に切羽詰まってるんだな。


「この私が頭下げて頼んでるのに断るっての?」

「頭下げてないし、どっちかというと脅迫だし。ダメです!嫌です!!」


「お隣のよしみでしょう?」

「隣たって何光年も離れてるし。絶対イヤです!」


「うう〜、ひどいっ...ぐずっ..うわああ〜ん、この美しいわたひがごんなにだのんでるのにぃ、このばが、ろくでなし..ひっく、ぐずっ..」


「泣き落としも無駄です」


「じゃあ、これでも?」

 後ろから抱き着かれた。

「うっ...だ、ダメなものはダメです」

 

 くそっ、見た目だけは超絶美少女だから困る。

 何万歳か何億歳か知らんけど。


 美少女に抱き着かれて美味しい状況と言えばその通りだが、絶対的な力の差があるので、されるがままになるしかない。


「ねえ...ふっ」

 くっ、耳が。

「...絶対ダメ。次やらかしたらオレ地獄行きだし」


「じゃあ、これは?」

 背中にくっついて耳に甘噛み攻撃だ。

「あっ、やめて。じゃ、じゃあ、本当の歳を教えてくれたら考えてもいい」



 ピキーン



 時間が止まったような気がした。

 あれ、駄女神が固まってる...と思ったら動いた。


「えーと、何だったかしら?」

 地雷を踏んだわけじゃなかったか?

「偉大な女神様の来歴とか知りたいなー、とか思ったりしたのですが」


「あんた、言ってることの意味わかってる?」

「そっ、そんな難しいことを言った覚えは..」

「言ったわよ。私ですら知らないことを聞いたのよ。そのおかげで今さっき時間が止まったわ。下手したらこの宇宙が凍り付くところだったのよ」

「おー、それはヤバいですね」


 神はこの世界を動かす法則か何か、根本のところと直結したシステムの一部なのだろう。それも、エラー処理に穴がある欠陥システムらしい。


「ま、それはいいわ。何も悪いことしようってわけじゃないんだから、私に協力しなさい。不毛の惑星を移動させたらダメなんて決まりは無いから」

「それでもダメ。ダメったらダメ!」


「ふっ、強情ね。あんたごときが私に逆らえるわけないのに...」


 ***


 不毛の第二惑星を無理やりテラフォーミングするのはきつかった。理想的な地球型惑星に近づけるために星の内部組成までいじったのだ。再星槌を使ってもオレだけでは無理なので駄女神の力も使った。


 正確なところは分からないが、オレがテラフォーミングに使う数千万〜数億倍のエネルギーがわずか数時間で消費されたようだ。


 駄女神も本気になると恐ろしいな

 再星槌が壊れなくて良かった。


 ハビタブルゾーンの内側に少し入り過ぎた位置にあるその惑星は、原始地球のような環境になった。まだ見た目は地獄のようだが、太陽から適切な距離に置きさえすれば、勝手に生物が繁殖して文明の盛衰も見られるだろう。


「それじゃ仕上げよ。『せーの』でタイミングを合わせるだけでいいから。後は私がうまくやるわ」


「「せーのっ!」」

「ほいっ」


 重力震が起きた。

 第三惑星の住民は驚いただろうか?


「...こういうことかよ」


 持ち去られた第二惑星の跡地には膠着円盤付きのブラックホールが出現した。駄女神のくせにブラックホールですら運べるらしい。ご丁寧に質量も第二惑星と同じに調整してある。


「どうよ?完璧な仕事でしょ」


「あの、なんだか太陽が前より赤っぽく見えません?」

「き、気のせいよ」

「そうかなあ?」


 パチン


「ほら、これならどう?」

「あー、うん、こんな感じだったかな」


 なんかすっごい不安になった。

 なんだこの違和感は?

 たぶん、なんか騙されてるぞ。


 オレがいる惑星からは、南北へ伸びる長大なジェットを伴うブラックホールが「宵の明星」と「明けの明星」としてよく見える。なかなかに興味深い光景だ。そのうち望遠鏡が発明されて、現地人も降着円盤を観測できるようになるだろう。


 現地の人間達は突如として姿を変えた星に恐怖している。これまでは水の女神の星とされていた第二惑星だったのに恐怖の象徴になってしまった。


 長く伸びる姿は魔王の槍と呼ばれるようになり、すぐに魔王星という呼び名が定着した。


「あははは、魔王星とはまあ、大正解よね。実際、魔王が壊した星なわけだし」


「ああ、やっぱりだ。魔王星の出現と重力震のせいで終末論が大流行りだよ。これに乗じた詐欺師が新興宗教で大儲けしてるし。あいつら、間違いなく人を苦しめる大勢力になるよ」


「それじゃ、あんたはこの大陸ね。私は反対側のを面倒見てあげるわ」

 人の話聞いてないし。

「いや、その前にあの邪教をどうにかしたいので協力してもらえません?」

「そんな細かい仕事イヤよ。大陸ごと滅ぼしてもいいならやってあげるけど」

 ああ、こういうやつだったよ。

「そんなことできるわけないでしょ」

「ほっとけばいいでしょ。宗教の始まりなんてそんなものよ。長くてもせいぜい数百年の暗黒時代になるだけだし」

「元人間のオレとしてはそんなに放置できません」


「じゃあそっちは任せたわ。私の大陸とこの大陸、どっちの文明が世界を支配するか競争よ。頑張って暗黒時代を回避しなさいね」


 ちょっ、何言ってんだこのバカ。

 オレがせっかく、一方が蹂躙される流れになるのを回避しようと調整してきたのに。


「あーっ、もう仕方ない。それじゃお任せしますけど、この星では、勇者や魔王に星を削るほどの力を与えるのは禁止ですよ。そうだ、明確に上限を決めておきましょう」


 個人が使える魔法その他、大技の最大出力や連続使用できる回数を細々と説明した。

「うーわ、つまんない。それじゃ私が考えた最強魔王も最強勇者も作れないじゃない」

「そんなの要りません。本来、主神からこの星の管理を任されてるのはオレです。その権限で制限をかけておきますから」

「ちっ、分かったわよ。どうせジジイには逆らえないし」


 この大雑把な女神に好き勝手させたら、また星が滅びかねない。だから、主神からもらった権限で女神にも破れない制限をかけた。それでも不安で仕方がない。


「退屈だからって天変地異とか起こして遊んだらダメですよ。飽きたら1000年経たなくても帰ってもらって結構ですので」


 せっかく1000年の休暇をもらったのに、駄女神のおかげで全然ゆっくりできそうにない。

「うちの納屋」が煮詰まって、つい別作品を書いてしまいました

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