国が妖怪の身柄を確保したがる件
本編の閑話用に書き始めたら最終的に本編に繋がらなくなってしまいました
折角書いたのに勿体無いから投稿しま~す
という事で本日もよろしくお願いします
わっちは孤独が好きなのじゃ。
それなのにどいつもこいつもだんまりで磯臭いような奴らに取り囲まれて逃げ道が無くなって今じゃ捕らわれの身って事さ。
わっちは自由がただ欲しいだけなのに・・・
《わっちをどこに連れて行くのじゃ?》
上目遣いに下手に出てもこ奴らはうんともすんとも返事をせん。
わっちの形が子供の様だから相手にせんという訳だな?
そこのお主、そ知らぬ顔して女子に歳なんぞ聞くでないぞ?モテぬのに拍車が掛かるだけじゃからな。
わっちは、これでも戊辰戦争の落ち武者を匿うて山小屋を転々とした事だってある。これだけでもそれなりの歳である事は解ったであろう?
そんなわっちを取り囲む磯臭い人垣の外にはわっちたちと並行して若い男が付いて来おる。妖怪のわっちが言うのもなんだが陰気臭い奴よな。
わっちを捕まえさせた本人かその代理人って事やろうのう。
まぁ名乗らぬ限りには返事がしにくいと言うのなら当たり障りのない事故照会と言うものでして見せよう。
・・・えっ?自己紹介とな?そのような些細な事など気付いておっても気づかぬ振りをする程の肝を持たんのか?お主の中だけで解っておれば済む事では無いか、そのように重箱の隅をつついて探っておるような事では人間が小さいなどと蔑まれるのがオチであろうよ。
それはさておき、わっちは座敷童じゃ。名はまだ無い。あったところで名を付けた本人が先にくたばるでな、名は無いに等しいのじゃよ。
ついこの間までは、とある屋敷で柄にもなくメイドとして働いておったんじゃが夜討ちに遭うての、身一つで外へ放り出されてしもうた。
今時のこの国で夜討ちに遭うとはヤクザ者の屋敷にでも住み込みしておったのかとな?
面白い冗談だがヤクザ者ではない。
主人は母親が妖の半妖ではあったがそれを隠して小さな貿易会社を経営してまじめに働く正直者、奥方はお嬢様育ちの夢魔。
二人の間には娘が一人おったが人間の振りをして人間界に潜り込んどるそうじゃった。
使用人には小悪魔の執事に人魚のメイド長、わっちの他には吸血鬼の小娘と豆腐小僧が一人ずつメイドや従僕として働いておったな。
妖が生き辛い渡世の中で行き倒れ寸前のわっちや小娘や小僧をどこからか見つけだして屋敷に引き取ってくれたのは半妖の主人であったな。救うてくれた時の話では自分が半妖で苦労し嫁がモンスターで迫害される側の痛みが解るから助けたかったという事じゃった。
まさに命の恩人じゃという訳じゃったが奥方についてきたと言う執事とメイド長がそれはそれは底意地の悪い輩でな、奴らのいびりさえなければいつまでも居着いていたい、そんな屋敷だったぞ。
尤もそんな主人の事を慮ればこそわっちは『なるはや』で屋敷を出たかったのじゃがそうなる前に例の夜討ちじゃ。
主人と奥方は捕らえられて行方知れず、執事とメイド長は迎撃を試みて消滅。わっちら下っ端3人は執事たちから主人夫妻が逃げられるように囮じゃとして屋敷からてんでバラバラに放逐された。
今思えば執事たちが襲撃する為の目くらましに使われたようじゃったが他の二人とはそれ以来会うておらん。
無事であればよいがあの性悪なれど力は持っておった小悪魔と人魚が消滅しておる事実を思えば儚き望みとしか言えまいな。
返す返すももっと早う出る決意をしておったならばみな無事であったやも知れん、ただただ残念じゃ。
しかしわっちを欲しがるなんぞと奇特な御仁はどこのどいつなんじゃろうな。わっちの事を良く知っているとはとても思えんのじゃが?
《わっちをどこに連れて行くのじゃ?》
わっちを取り囲む連中の外を歩く男に再度問い質すと、憂鬱そうに眉を顰め鼻を布巾で隠しながらようよう返事が返ってきた。
「傾いた国運を立て直すために存分に力を振るって欲しいと総理からの要請があったんだよ」
要請とは逃げ道を塞いで連行しながらするものであろうか?
それにわっちには国運を立て直すなどと言うふざけた能力は持ってはおらんぞ?
《わっちが何か解っておるのか?》
「座敷童だろ?ヨーロッパの方だったらブラウニーとかって類のモンスターじゃないか」
こやつはゴブリンもどきのブラウニーとわっちとの区別もできんのか?
《確かにわっちは見目麗しい妖とは申せまいが、身綺麗なだけの小鬼にすぎぬブラウニーなどと一緒たくりにされる謂れはないぞ?》
「洋の東西の違いじゃないのか?自意識高すぎだろ?ったく。
磯臭い木乃伊に囲まれて頭おかしくなってんじゃねぇだろうな」
自意識高すぎとか言われても、わっちはブラウニーとは似ても似つかぬであろう?
それに磯臭い木乃伊とやらはお前たちで手配したものじゃないか。
《いやいや、わっちとブラウニーでは全く違うではないか》
「髪が伸びる日本人形みたいなのと掃除する小鬼ってトコ見りゃそりゃ違うかもしんなけど所詮モンスターじゃないの。
家綺麗にして運気も上げてくれる分ブラウニーよか上等だって認めるからさ、さっさと行こうぜ」
全くもって話にならん若僧じゃで。
《ブラウニーとやらは家を綺麗にしてくれるのじゃな?
さすればわっちもブラウニーのいる屋敷に移る事にしようぞ》
「何訳わかんない事言ってんだ。気でも狂ったか?」
《わっちは家を綺麗になどせんわ。綺麗にしとる家を選んで移っていくのじゃ。
それにわっちは家の運気など上げたりはせんぞ》
「ちょっと待て。何訳わかんねぇこと口走ってやがんだ。そんな話聞いた事ねぇぞ!」
自分が知らない事を相手のせいにするなどこの若僧はホトホト小物じゃのう。
《森羅万象それぞれに運気と言う物を持っておる。
それがすべて等しい量では無い事は解っておるか?
そしてそれはその者の行いによって増減するのじゃ。
わっちの持つ力とはその持っておる運気を燃やして見せる事だけじゃ》
「・・・燃やすとどうなる」
《瞬間的にだったら豪運に恵まれるなんて風に見えるのかも知れんな》
「瞬間的に?・・・長期的にだったら?」
わっちは飛び切りの笑顔で木乃伊の向こうの若造に答えを突きつけてやった。
《運気が燃え尽きて不幸のどん底に落ちる事であろうな。
そうなれば増やそうにも運気の元も燃え尽きて一生這い上がる事は出来まいに》
それでもよいのなら総理とやらわっちを囲うて見るがよい。
主人公が出てこないとこんな感じ
元から地味なのにもっと地味にしてどうすんだ!
派手なシーンが苦手なのは盛り上がんないよね~
一応本編もよろしく