メルティーコッコ
メルティーコッコ。
そういう名前にしたのはいいけれど。
長い。
名付けたその日のうちに、フルネームは使わなくなって、メッコと呼ぶようになっていた。不思議と、そう呼んでやるとそいつが嬉しそうにしているように見えたというのもあるかもしれない。
六畳一間の、アパートの窓から差す光はまだ白く、今は冬だといえど、お昼はまだまだ終わらなさそう。
休日は今日まで。明日からはまた平日。だから、じっくり構っていられるのは、今日まで。生憎。次の土日は無いんだよな、これが。
ゲージにも入れず、放し飼いしてるけど、テーブルの上からは下りないお利口なコイツはとてもかわいらしい。
「メッコやメッコ。おまえはオスかい? メスなのかい?」
女はそう、頬杖をつきながら、返ってこないと分かっているけれども尋ねてみる。
ごろんごろん、とボールみたいに転がって、こちらを見ては、また転がる。
「それ、とってやろうか?」
と手を伸ばすと、じたばたと、不規則に転がって逃げつつ、抗議してくる。
どうしてか鳴かないのだ、こいつは。
喉は灼けてしまっているのだろうか? そうだとしたら、ゴメンね……。
疼く左手薬指の腹を押さえる。
サイズは図らせた。通る……かなぁ……。
視線を感じたから目線を落とした。机の上のそいつへ。
「……。ごめんね。自分のことばっかりで。私がキミに構ってあげられるのはもうちょっとだけなんだ。そうなる予定なんだ。……なって、欲しいんだ……」
ちょこん、とおとなしくなる。つぶらな瞳でじっとこちらを見つめてくる。
できるだけ、意識しないようにしている。できるだけ、考えないようにしている。それでも彼はやってくる。今日の夜に。やってきて、くれる、筈だ……。
「大丈夫。仕訳やしないよ。わたしヒヨコ鑑定士じゃないし」
蓋を開けるまで、結果は分からない。期待はある。敗色濃厚という訳でもない。でも、絶対なんて無いし、ただ、怖い。
ケツを蹴ったことが裏目にならないか……。
だから私は、昨日、普段なら採らない選択肢を選んだ。無理やり焼いて気のせいにはしてしまわなかったんだ。バロットだって苦もなく食べられる私なのだから。寧ろ好きなまである。
ごろんごろん、と、腹というか、白身で覆われた足回り? まあ、一応腹、を見せてくる。
犬じゃあないんだからと思いつつ。
ヘンなヒヨコだなあ。
言葉通り、頭茹った後だから?
何か、疲れた。ちょっと考えただけでこれだ。
時計は無い。だから目覚ましもない。だって、敏感だもの、音に。扉どんどんなんてされたら、起きないことなんて絶対無い。それに、鍵は、外にも。いつものところに入れてあるし、彼にも教えてあるし。
蓋を開けてみなければ分からない。
開けるのは怖いけれど、やがて開いてしまう蓋だ。結果がどちらに転ぶとしても。この卵の白身の塊だって、コイツが成長したら、自然とぽろり、落ちるんだから。
眠ろう。蓋が開く、その時まで。
私を起こすのは果たして、朝の陽日と大きい学校への通学路故の喧噪か、それとも、真夜中の福音か。
蓋が開くまで――わからない
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