9話 楽しい学園生活の第一歩
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空気の振動はしばらく続く。ルドガーの姿は白煙に包まれて見えない。
気づけば周りの生徒たちも模擬戦を止め、こちらをうかがっていた。幾人かがこそこそと、ルドガー生きてるかなどと囁き合っている。
「ルドガーのレベルなら、体内魔素である程度抵抗するはずだから大丈夫だと思うけど……」
僕は呟いて、ルドガーのもとまで歩いていく。
「おーいルドガー。大丈夫ー?」
やがて爆発で生まれた煙が薄くなり、倒れ伏す人影が見えてきた。僕は声を掛けながらすぐそばまで歩み寄り、ルドガーを見下ろす。
「生きてる?」
煙が完全に晴れると、うつ伏せの状態から顔だけこちらに向けるルドガーが現れた。全身ぼろぼろな有様ではあるが、思った通り無事である。
ルドガーは恨みがましく僕を睨む。
「お、お前……私以外の生徒だったら死んでいたかもしれないぞ」
「ルドガーなら大丈夫だと思ったからさ。実際ほら、無事だし」
僕の軽口に舌打ちし、ルドガーはなんとか起き上がる。体のあちこちを痛そうに庇いながら、しぶしぶといった様子で言った。
「……今回は、私の負けだ」
「そもそも僕が負けたことはないけどね」
「うるさい! しかし、次はお前が戦士役になるんだぞ。身体強化なしのお前がまともに戦えるとも思えないし、私の勝ちは揺るがないだろう!」
ルドガーの言葉は確かに一理ある。僕は近接戦は本当に自信がないのだ。これは初の黒星になってしまうかもしれない。
と、そんなことを考えていると、一番前から全体を見守っていたソーク教授が、いつの間にか僕たちのそばまでやってくる。こちらに注目していた他の生徒たちへ模擬戦に戻るよう注意すると、今度は僕たちに向かって口を開いた。
「今回の模擬戦の目的は、魔法士役が接近戦の対策を積むことだ。魔法士役と戦士役の実力が離れていては対策にならないから、身体強化だけ魔法を使えるようにするなど、条件を話し合って模擬戦を行うべきだな」
ソーク教授は僕たちの会話を聞いていたらしい。そのもっともな言葉に、ルドガーははっとしつつも殊勝に頷く。
教授は続ける。
「しかし、どっちみちお前たちの模擬戦は終わりだ」
「なっ!」
目を見開いたルドガーが驚きの声を上げた。そして周囲で模擬戦を再開した他の生徒たちを指差す。
「なんで私たちだけ終わりなんですか? みんなまだ続けているじゃないですか!」
ルドガーは不満げな様子だ。
しかし、上げた腕を下ろす際、怪我をかばうように動いたことを教授は見逃さなかった。それだ、と指を向け、怪訝な顔をするルドガーに言った。
「先ほどの一戦で怪我をしているだろう。たしか、この学年で治癒魔法を使える者はいなかったな? ルドガーは今すぐ医務室へ行くように」
それだけ言うと、教授は口を閉じる。
ルドガーは僕に勝てるかもしれない機会なのにとしばらく抗議を続けたが、意見を変えない教授にやがて力なく頷く。「今回は勝負を預けておいてやる」と捨て台詞を残し、演習場を去っていった。
ソーク教授も、呆れたように「もうやりすぎるなよ」とだけ言って元の場所へ戻っていく。
そうして一人になった僕がぽかんとしていると、やがてふよふよと飛んできたアーリィが僕を見て満面の笑みを浮かべた。
片手でピースサインを作り口を開く。
「完全勝利」
その言葉に、僕は思わずぷっと吹き出してしまう。アーリィもそんな僕を見て、無邪気に笑い声を上げた。
こうして僕の学園復帰の初日は、いろいろなイベントがありつつも、アーリィという新しい仲間を加えて無事に終わらせることができた。
彼女を作るという目的はまだまだ遠いものの、かわいい女の子と楽しい学園生活という第一歩は踏み出せたのではないだろうか。
可愛らしく笑うアーリィを見て、明日からはどうするか、何を見せてあげるかと、僕は胸を躍らせるのであった。