第6話
私が復讐を望んでいることを告げるとお父様もお母様も困ったような表情をした。やはり娘に復讐をさせたい親などいないのだろう。しばらくの沈黙の後フーッとため息をつき口を開いたのはお父様だった。
「ユリアナ、お前が受けた仕打ちを聞いて私たちも持てる力のすべてを使ってあいつらをどうにかしてやりたいと思っている。当事者であるユリアナ自身はもっとだろう。しかし、私は万が一にもお前が投獄されたり、傷つくようなことがあって欲しくはない。復讐ではなく未来の知識を生かして幸せになるという道はないのだろうか?」
お父様は優しく、言葉を選びながら私に語りかけた。
「ユリアナ、復讐は何も残らないというじゃない?私たちは貴方に幸せになってもらいたいのよ」
お母様も目を潤ませている。
「お父様、お母様………私の中の時は戻りましたが、あの時の記憶はこれからもずっと消えないのです。この婚約は避けられないでしょう?それにレオンハルト王子とこれから関係を築いていく段階だとしてもあの様な仕打ちを受けた後では人生を共に歩もうという気にはなりませんし、信用するに値しない人間だということも身を以て知っています。何と言われても私自身の手で復讐したいのです!!」
最後は心の声を絞り出すようだった。
婚約の話が今日でなければ熟考し伝える事が出来たかもしれないが少し感情的になってしまったかもしれない。
「婚約の話はユリアナの言うとおり今は避けることが出来ないのは事実だ。あと、5年……いや3年すればどうにかできなくもない。私たちにも少し考える時間をくれないか?ユリアナも今朝こちらの世界で目覚めたばかりでまだ落ち着かないだろう。私たちも真剣に考えるからユリアナもどうかもう1度感情的にならずに考えてくれないか?」
お父様の言うとおりこの時間軸には今朝来たばかりだ。色々と感情的になっていたのかもしれない。
「わかりました。もう少し考えてみます」
翌日
お父様とお母様にはああ言ったけれど、あの記憶がある限り何も知らなかった頃には戻れない。こうなったらお父様とお母様を納得させる〈復讐計画書〉を作ってみせるしかない。
〈フリューゲル公爵家には咎が及ばない〉
それが復讐する上で1番重要なことだろう。
私はミリーが買って来てくれた新しい万年筆をグッと握った。
最初からリリス様を公爵家の力で排除してしまうことも出来るけど、それでは復讐にならない気がする。あのレオンハルト王子のことだから、第2のリリス様を作る可能性だってあるし、あまり流れは変えない方が復讐をしやすそう。そしてあの牢獄で何度も読んだ〈ユリアナ嬢の罪の一覧〉の紙が頭から離れない。どうせならあれを利用して上手くできないだろうか?それなら信頼出来る協力者がいる。
「ミリー、ちょっと話したいことがあるの」
「お嬢様何か御用ですか?」
「実は私は………」
ミリーにも私がタイムリープしたこと、そして体験したことを話した。
「……グスッ、お嬢様がそんな目に遭うなんて!グスッ、許せないです!」
ミリーは涙をハンカチで拭きながら自分の膝を叩いている。
「ミリー私のために泣いてくれてありがとう。正直こんなにすぐに信じてくれると思わなかったわ」
「お嬢様の言うことを信じないなんて事はありません。小さな頃から見てきたからわかりますよ!それにこれで合点がいきました。昨日の買い物、私が最初の時間に行っていたら何かあったんじゃないですか?お嬢様の様子がいつもと違うので気になっていました。私が行きたい店の前で大きな事故があったなんて偶然にしては出来すぎてると思っていたんですよ。お嬢様、話してくれてありがとうございます。そして私を助けてくれてありがとうございます。このミリーお嬢様のためなら何でもお手伝いいたしましょう!私の手を汚すことも厭いません!」
ミリーは胸を張ってニッコリと微笑んでいる。
「ミリー、ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ。でも私の復讐のためにあなたの手を汚させるつもりはないの。手伝いをしてもらえたらとは思っているけれども。あなたは裁縫や刺繍の腕前が職人並みだったわよね?」
「それは屋敷内でも1番だと自負しております。それが何かお役に立つのですか?」
ミリーは首を傾げている。
「もちろん!」
――――――――
数日後、私は応接室でお父様とお母様と向かい合って座っていた。今回は私の傍らにはミリーが控えている。
「さて、ユリアナお前の気持ちを聞かせておくれ。ミリーも同席して構わないのかい?」
お父様がゆっくりした口調で話し始めた。
「ミリーにも話しているので構いません。私はこの間お話しした通り復讐を止める気はありません。しかしフリューゲル公爵家にも迷惑をかけるつもりもないのです。もちろん、お父様たちが心配しているように私自身にも害がないようにもしたいのです。そこで、お父様とお母様が納得するような計画を立ててみました。こちらをご覧ください」
私はミリーに持たせてあった計画書を渡すように指示を出した。
「計画書?ユリアナらしいな。とりあえず読ませてもらおうか」
…
…
「ユリアナどういうことだい?これが復讐?」
お父様もお母様も計画書を見て目が丸くなっている。
「はい。私は色々考えてこの方法を選びました!これならば投獄される心配はないでしょう?レオンハルト王子との婚約の方は進めてもらって構いません。あとはお父様、公爵家の力を貸してくださいませ!ミリーを学園の手芸の講師にして下さい。ミリーの腕なら講師に遜色ないはずですので、3年生になるまでに入り込めるよう手配をお願いします」
「そのくらいならお安い御用だよ。この内容ならばいいだろう。私の方も3年後に向けて準備を進めることにしよう」
「あなた……!もう、わかりました。私もユリアナに協力しましょう。その代わりユリアナはやる事をしっかり教えてちょうだい。私たちが許可しないことは絶対にしないこと!」
お母様が私の手を両手で握って言った。
また明日更新いたします。