第4話 ユリアナの過去 後編
〜ユリアナ タイムリープ前の記憶〜
〈なぜレオンハルト王子はユリアナ様と接することが少ないのだろう〉
〈レオンハルト王子はユリアナ様をどう思っておられるのだろうか〉
そんな声がちらほら耳に入るようになっていった。
レオンハルト様はさすが王族と言えるほどの圧倒的なビジュアルと人当たりの良さを見せていた。
その一方で常に男爵令嬢を伴っている姿に疑問を抱く者たちもいたようだった。
「婚約者のいる身で他の令嬢を伴うなど不誠実ではないか?」
「なぜレオンハルト殿の婚約者であるユリアナ嬢ばかりが我々をもてなしている?」
生徒の中でレオンハルト様に意見出来る者はアルイーゼ王国の王子であるアレクシス様など数人しかいない。レオンハルト様はそんなアレクシス様の前で苦笑いばかりしてのらりくらりと躱すばかりだった。
「レオ様、将来のためにも他国の方とも交流を深めてはいかがでしょう」
「うるさい。それは外国語の得意なお前の役目だろう?僕は忙しいんだ」
レオンハルト様に私が意見を言えばそんな答えばかりが返ってくる。
そんな中、リリス様の物が無くなる事件が多発した。
最初は教科書や文房具、そして運動の授業の後は〈おばあさまの形見のネックレス〉が無くなったのだ。もともとリリス様を良く思わない者の犯行ではないかとされており、形見のネックレスが無くなった授業では怪我をしたクラスメートを私が保健室に送っていったこともあり〈ユリアナ様が犯人〉と言う者たちが増えていった。
その後もリリス様の運動着が破かれたり、教科書にラクガキもされていたようだった。
「僕のために申し訳ない。これを」
そのたびにレオンハルト様が謝罪し代わりのものを用意していたものだから、〈婚約者の尻ぬぐいをする王子の図〉が出来上がってしまったのだと思う。
「ユリアナ様、ご一緒にランチをいたしましょう!」
「ムーンティア様、ありがとうございます。またレアノン魔法公国のお話をお聞きしたいと思っておりましたの。それではいつもの4人でいただきましょう」
自然とムーンティア様、アレクシス様、エドワード様の4人で過ごすことが多くなった。
「ユリアナ嬢、今度の夜会では私にエスコートをさせていただけないかな?」
「アレクシス様、ぜひ喜んで」
「では、僕はムーンティア嬢のエスコートを」
「エドワード様、ありがとう。ジャポニル帝国はダンスがお上手な方が多いと聞いているわ。楽しみにしておりますわ」
話しかけてくれるのは留学している王族や高位貴族の方々だけで、クラスメートたちは純愛をジャマする婚約者=私と認識し始め、私を悪意の目で見るようになった。公爵令嬢相手に表立って何かをする訳ではないけれど、その視線は冷たく話しかけてくれる者もほとんどいなかった。
そんなある日だった。王宮に呼び出されると玉座の間に国王陛下、王妃様、レオンハルト様、そしてなぜかリリス様がいらっしゃった。
レオンハルト様は私が到着すると芝居がかった身振りをしながら言った。
「この2年半婚約者であるユリアナとは王太子妃教育という理由でろくに顔を合わせることがありませんでした。2年になってからはAクラスであることを鼻にかけたような言動ばかり。最高学年になっても歩み寄る姿勢さえありませんでした。頭ばかり良くてもニコリともしない、相手を敬うようなこともないユリアナは婚約者として相応しくないのです。僕は可愛げのないユリアナより、リリスのような笑顔の絶えない女性と共に生きたいのです。国王陛下、どうかリリスを妃に!」
他の女を娶りたいと言うレオンハルト様の願いに根負けした陛下はリリス様を将来の側室として認めるように私に強要したのだ。
「たかが王太子妃教育ごときに手を焼き、レオンハルトの心を繋ぎ止められなかったお前が悪い」
そう陛下に言われれば私には頷く他なかった。
身分は高位貴族の養女にでもなればどうにでもなるが、リリス様の学園での成績を知っているからこそ陛下もリリス様を正妃にとは言わなかったのだろう。
それからは私も招待されている夜会などでもレオンハルト様は隠すことなくリリス様をエスコートするようになった。
そんな時は友人でもあるアレクシス様がエスコートしてくれることもあり、最高学年になってからは学外では次期王太子妃の面目は保たれていたように思う。
学園内ではリリス様が池に落とされたり、頭から水をかけられたりするという事件も発生した。誰もその様子を見ていないのにいつもの〈婚約者の尻ぬぐいをする王子の図〉をレオンハルト様がするものだから、自然に私が犯人のような風潮になりクラスメートの中から自称目撃者が現れたりした。
「ユリアナ嬢、レオンハルト王子はあの男爵令嬢にうつつを抜かし貴女を蔑ろにしている。幸せになれるようには思えない」
「ユリアナ様、後に側室にお迎えになるとしても婚姻前からあれではあんまりですわ」
「アレクシス様、ムーンティア様ご心配ありがとうございます。私は大丈夫です。リリス様のことは王家と話がついておりますので良いのです。大丈夫ですから」
惨めな自分にそう言い聞かせるように返事をするしかなかった。
極めつけはリリス様の誘拐事件だ。
卒業前に帰国することになったアレクシス様たちを国内の観光地に案内していた間に起きた事件だ。私がレオンハルト様に指示され案内役を務め、王都にいない間に起こったことだった。それでさえ、私がアリバイ作りのために観光地をまわったのではないかと噂されていた。
今までのことでも、誘拐事件についてもレオンハルト様は噂になっている私に何か言うわけでもないので、私を信じてくれていると思っていたのだった。
お三方が帰国したあとは学園内では何をするのにも1人だったが仕方がない。私もクラスメートに誤解を解くことも出来なかったのだから。
そんな学園生活が終わりを迎えた、あの卒業パーティー。私の信じていたものが裏切られたのだ。
今日の投稿はここまでです。
お話は続きます。