第11話
「ユリアナ様の万年筆が壊されたそうよ」
「まあ、誰がそんなことを!」
「才色兼備のユリアナ様を疎ましく思っている人なんて限られていますわ」
「それにいつも授業中にいなくなる人も同じですわよね・・・」
私の物だけが壊されたり、無くなることに皆がさすがにおかしいと感じ始めた頃もっと具体的なことをすることにした。
リリスがレオンハルト様の待つ人気のない裏庭のベンチに向かって歩いていた。ミリーの調査で2人の密会場所は把握している。人前でベタベタしているのにわざわざ人気のないところへ行くなんて何をしているのやら。
リリスが噴水の近くを通りかかった。周りにリリス以外いないことを確認!反対側でミリーもオッケーサインを出している。それは周りに誰もいないということだ。
「リリス様。ちょっとよろしいかしら?」
私は後ろからリリスに声をかけた。
「何でしょう?ユリアナ様」
レオンハルト様に会いにいくという優越感からか、振り返り不敵な笑みを浮かべるリリス。
リリスが振り返ったその時、私は叫びながら噴水に後ろ向きに倒れた。
「きゃあ〜!」
バシャーン!!!
私の叫び声と物音でしだいに周りに人が集まって来た。
「ユリアナ様!」
「大変!ユリアナ様!」
〈仰向けに噴水に落ちている私とそれを見下ろすリリス〉そんな構図の出来上がり。
リリスもさっさと逃げればよいものを突然のことで驚いたのか固まっている。
私に手を貸す者、それ以外の者たちは私とリリスを交互に見つめている。
「何!何よ!私じゃないわよ!その女が勝手に噴水に飛び込んだのよ。私は関係ないわよ!」
その視線に居た堪れなくなったのかリリスはそう叫ぶとこの場から走り去って行った。
はい。その通りですネ!私が自分で噴水に倒れただけです。
この騒動に気がついたのかムーンティア様が駆けつけた。
「ユリアナ様、まさかリリス様が!」
「ムーンティア様。いいえ!違いますの。私が勝手に噴水の前の石につまずいて――」
「それでユリアナ様が仰向けに噴水の中にいるのは不自然ではないでしょうか?」
「・・・」
私は静かに俯いた。
周りは私とムーンティア様との会話を聞いてざわついている。
正義感の強いムーンティア様がいい味を出している。これは予想外の援護射撃ね。思わず顔が綻びそうになった。
――――――――
噴水事件から数日後、私はレオンハルト様に例の噴水の前に呼び出されていた。
ご丁寧にマシューが教室の入り口から「レオンハルト様が噴水の前でお待ちだ!グズグズするな!早く来い!」なんて叫ぶものだから、私がレオンハルト様に呼び出されたのはクラス中の皆が知っている。
「ユリアナ!お前は先日リリスの前でこの噴水に飛び込んだらしいな!」
腕を組み目を釣り上げレオンハルト様はお怒りだ。
「ふえーん。クラスの皆は私がやったんじゃないかって言うんですぅ」
リリスはレオンハルト様にベッタリとくっついて泣き真似をしている。
飛び込んではいない。自分で後ろ向きに倒れただけですもの。私は至って冷静な口調で答えた。
「そのようなことは――」
ドンッ!
レオンハルト様に突き飛ばされ尻もちをついた。
「うるさい!言い訳は聞きたくない。大人しく私にすがるのならまだしもリリスを陥れようなどと浅ましい女だ!リリスに何かするのはこの私に楯突くのと同義だと思え!」
隣ではリリスがニヤニヤとしている。
言いたいことだけ言うとレオンハルト様御一行は去って行った。
「お嬢様!大丈夫ですか?」
物陰からミリーが顔を出した。
「ええ。大丈夫よ。ついに手を出して来たわね!」
私はミリーの手を借りて立ち上がった。
「お嬢様、これを」
ミリーはドレスに付いた汚れを拭き取るためにハンカチを差し出した。
「ミリー。誰か今の現場を目撃している人はいるかしら?」
「おそらく私だけでは?周りには誰もいないことは確認しております。さすがに王族であるレオンハルト様とのことを追いかけて様子を見に来る方はおりません」
「それはちょうどいいわね!せっかくだからもっと汚そうと思っているのだけれど」
私はニコリと笑った。
――――――――
ピチャ
ピチャ
ピチャ
「ユリアナ様!どうなされたのですか?!」
「きゃっ、ユリアナ様ずぶ濡れですわ!」
同じクラスの令嬢が口々に声を上げた。
私は噴水からずぶ濡れのまま廊下を歩いてクラスまで戻ってきたのだった。
「なんでもないのよ。大丈夫」
あのあと噴水に自分で入ってきただけですから。寒い日じゃなくて良かったわ。
「まあ!ユリアナ様!早くお召し替えを。レオンハルト様に呼び出されたのは皆様知っておりますのよ。何でもないわけがございません!」
ムーンティア様は真っ赤になって怒っている。
「こちらの国の王族は婚約者に対して何という態度を取っているんだ!このようなこと王家は知っているのか?」
アレクシス様も顔をしかめている。
「皆様、事を荒立てないで下さいませ。私が、私が悪いのです。王家がこのことを知った方が私には辛い仕打ちが待っているのです」
とりあえず今は口止めはしておきましょう!
「君がそういうのなら・・しかし、今後同じことが起これば同じ王族として見逃すことはできない」
「ありがとうございます。それでは着替えに行ってまいりますのでこれで失礼させていただきます」
アレクシス様も正義感の強い・・いや、これは普通の反応なのだろうか。
心配してくれる皆を騙している罪悪感でチクリと胸が痛んだ気がした。




