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プロローグ


 今日はルインセット王国の16〜18歳の貴族が通う学園の卒業パーティーである。卒業生たちは皆、華やかな正装に着飾りこれからの輝かしい未来について語り合ったり、離ればなれになる友との別れを惜しんでいた。 


パーティーの中盤、卒業生代表の挨拶ではレオンハルト・ルインセット第一王子が壇上に上がった。金髪に紅玉(ルビー)のように美しい瞳は王族特有のものであり王子の美貌と相俟(あいま)って威厳さえ醸し出していた。レオンハルト王子は壇上の中央に来るとにこやかな表情を見せた。

 

「皆、卒業おめでとう。これから我々は成人としてルインセット王国の発展に力を合わせていかなければならない。領地を継ぐための勉強をするもの、婚約者に嫁ぐもの、それぞれが己の役目を果たすよう学園での学びを活かし頑張って欲しい」


その言葉に周りから拍手が巻き起こる。それにレオンハルト王子が手を上げ答えていたのもつかの間


「さて、学園を卒業した今ここで私からもう1つ言わなければならないことがある。ユリアナ・フリューゲル!前へ出るんだ!」


レオンハルト王子のにこやかな表情から一変、怒気を孕んだ表情に話を聞いていた卒業生たちがざわめき始めた。


レオンハルト王子の婚約者でもある私ユリアナ・フリューゲル公爵令嬢は戸惑いながら指示された場所へ向かった。


「ユリアナ・フリューゲル!これまでのリリスに対する悪行は聞くに堪えないものであったが、その中でもリリス誘拐を主導した罪は許されるものではない。罪人であるお前は未来の王太子妃には相応しくない!婚約は破棄させてもらおう」


壇上からレオンハルト王子が私を指差し告げた。いつの間にかその傍らにはリリス・サキュレント男爵令嬢が大きな瞳に涙をいっぱいに溜めながらレオンハルト王子の腕に絡みついていた。


「レオさまぁ、わたしとっても怖かったんですぅ!」


リリス様の潤んだ大きな瞳、そして小柄なお姿は庇護欲をそそるのか、レオンハルト王子はにこやかにリリス様のストロベリーブロンドの髪を撫でながら言った。


「リリス、もう大丈夫だ。もう君をこんな目に合わせることはないと誓おう。物わかりのいいフリをして私たちを騙そうとする悪女など許せない」


壇上でレオンハルト王子とリリス様は手を握りながらうっとりとお互いを見つめている。


「レオンハルト様、わたくしはリリス様に対して何もしておりません!悪行など何かの間違いでございます。それにリリス様の誘拐など身に覚えがありません。リリス様のこともご側………」


バチン!!頬に鋭い痛みと衝撃が走り大理石の床にドンと尻もちをついてしまった。


「すべてはもう明らかにされている。見苦しいぞユリアナ!公爵令嬢でありながら情けない!」


声の主を見上げると、いとこでありレオンハルト王子の側近のマシュー・フランプトン公爵令息が私を汚いものでも見るような目で言った。


「マシュー!私がそんなことする訳がないと知っているでしょう。それに女性に手を挙げるなんて………」

私は打たれた頬に手を当てマシューを見つめた。

マシューはそんな私を一瞥し舌打ちする。


「チッ、そんなこと知るものか。衛兵よ、殿下たちの前からこの悪女を遠ざけよ。地下牢へ引っ立てろ!」


衛兵が私の腕を乱暴に引っ張り無理矢理立たせた。乱暴に引っ張られた腕が痛い。


壇上に目を向けるとレオンハルト王子とリリス様がニヤニヤとしている顔が見えた。


「これはどういうこと?何かの間違いよ!」


私はひそひそと他の貴族たちが囁き合う会場を後にし、そのまま王城の地下牢へと連れて行かれた。


王城の地下牢は、王族や高位貴族などが罪を犯した場合に入れられる牢だった。そのため地下牢とは言うものの、中にはソファーやベッドなど豪華ではないが平民以上の物が用意されていた。

私は戸惑いながらソファーに腰を下ろした。



どうしてこんなことに……私が正妃として公務をこなしレオンハルト王子を支え、リリス様がご側室として御心を支えるという話でお互いに納得していたはずだったのに。


運の悪いことに両陛下も外務大臣であるお父様もお母様を伴って外遊に出ており不在だ。あと、1週間は戻らないだろう。きっと1週間後には誤解もとけるはず………。


周りの学友でもリリス様を優先し私を蔑ろにするレオンハルト王子たちの行動に注意をしたり、私自身に忠告してくれる優しい人たちもいた。こんなことになるならば彼らの言うことを聞くべきだった。レオンハルト王子に意見できるほどの地位を持つ友人はこの国を見限りもういない。この地下牢を出たら本当に婚約破棄をするのもいいかもしれない。お父様とお母様に今日の事を話してお願いしてみようか。そして国外に留学しているお兄様の後を追って私もこの国を出て留学してもいいのかもしれない。


私は不安な気持ちを押し殺す様に明るい未来について考えていた。

日付が変わった頃、カツンカツンとヒールの音が地下へ鳴り響いた。音の出処をキョロキョロと探しているとレオンハルト王子とリリス様が腕を組みながら私のいる牢に近づいてくるのが見えた。

私のいる牢の前で2人は足を止めると、ニタァと笑いながら格子の間から何枚かの紙を投げ入れた。


パサパサッ


「お前の重ねた罪の一覧だよ。よく読むといい」


「レオ様!お待ち下さい!王子という立場でこのような横暴な……」


「うるさい!お前はいつも僕に向かってそのような諭す言い方を!」 


レオンハルト王子が苦虫を噛み潰したような顔で言った。

それに比べ隣でリリス様はニッコリと不気味に笑っていた。


「まあまあ、レオ様。ユリアナ様、悪役令嬢お疲れ様でしたぁ。レオンハルト様のことはお任せ下さいませぇ。()()()()()()()の最後のお仕事お願いしますね!これからは()()()である私がしっかり愛でお支えしますからぁ。安心して北の修道院に向かって下さいねぇ」


「リリス様!何を仰っているの?私たちの婚約は国王陛下が決めたもの。国王陛下不在の勝手は許されません。不敬罪になりますよ」

私は格子に詰め寄った。


「他人の心配をするなどユリアナは随分と余裕があるな。お前がいなくなってからの事は関係ないだろう?」

レオンハルト王子がポツリと呟いた。



その2日後、私は両親や兄にも会うこともなく厳しい戒律と環境で有名な北の修道院に行くことになった。

……が、その途中馬車ごと崖から転落したのだった。



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