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4.時間稼ぎ

前回のあらすじ


これ何の集まり?


「魔王様、そろそろアレ出してくださいよ!」


 この集会、おそらく内容は極秘のものなのだろう。情報を得ることができなかった。


 四天王はかなり口が堅いらしい。

 ぷわわは多分そもそも理解していない。


 こればっかりは嘘でどうにかできるものじゃない。


 ボロが出る前に、どうにかお帰り頂きたい。


「ま、まぁ今日はこんな状況ですし……」

「なぁ魔王様、今日のアレを出してくださいよ!」


 全然聞いてくれない。


 アレ? アレとは一体なんだ?

 少女が視線で助けを求めている。もう少しヒントがあれば……。


「今日は魔王様もお疲れのようですので、このあたりで……」


 どうにか誤魔化せないか……?


 バーンが黙れと言わんばかりにこちらを睨む。


「いやー、魔王様がアレを用意してないはずないっすよねー。ね、魔王様!」


 ダメか……。


「あ、アレは……」


 少女が言い淀む。


 アレってなんなんだ。

 魔王がおそらく毎週用意していたもの。

 四天王では手に入れられないものなのか?

 バーンが嬉々として聞いてくるということは頭を使うものではないのか?


 ない、と答えて終わるならそれが1番だが……。

 それは不自然じゃないか? 用意してないはずない、なんて言われているし。

 ダメだ、ヒントが少なすぎる……!


「えっ……まさか、無いんすか?」

「う、あ……」


 沈黙が流れる。すまん少女、助けてやれない……!


「あ、ある! あるに決まってるだろ我は魔王だぞ!!」


 そうだよな、この状況では「ない」って言うしか……。


「当然ある!!」


 ……は?

 あるの!? 何が!? どこに!?


「うっし、やっぱありますよねー!」


 どうすんだよおい! なにか考えがあんのか!?

 少女は……うっわすげぇこっちチラチラ見てくるよ。

 俺任せか~!!


 えーーーーーっと……。


「その、あるにはあるんですが、抜け殻の移動などに少しお時間を頂きたいです」


 とりあえず時間稼ぎだ。


「えっ、あー……」


 バーンが抜け殻を見て、残念そうな顔をする。


「申し訳ありませんが、2時間ほどお時間を頂いてよろしいでしょうか?」

「お前に命令されたくない」


 こいつ……!


「そういうことだ。少し待ってくれ」

「はーい了解でーす」


 ……まぁ、いい。


          __________


「じゃあまた来ますねー」


 バーンたちが扉へ向かう。


「ん?どした、ミア姉」


 ミアを除いて。

 ミアがおずおずと手を挙げる。


「あの、その抜け殻……」


 まずい、気づかれたか!?


 ミアはラミアだ。本当に脱皮する。

 抜け殻という嘘は失敗だったか!?


「こ、こちらの特殊な抜け殻がどうかしましたか……!?」


 これ特殊だから! これ以上追究しないでくれ……!



「味見させていただけないかしら……?」



 しん、と。

 辺りが静けさに包まれる。


 ……え? 味見? あ、ラミアって自分の抜け殻食う種もあるんだった。ミアはその種だったはずだ。

 でも、他人のも構わず食うのか……。


「だめだ」


 これには少女もすぐに拒否。


 ……。


「ほら一旦出るぞミア姉ー」


 バーンがミアを引っ張っていく。


「そっ、そこをなんとか! 指だけで……舐めるだけ! 舐めるだけでいいんですううううう!!」

「相談役……。僕は……?」

「げんきだしてー?」


 ライトとぷわわもそれに続く。


「失礼しましたー。また来まーす」


 4人が玉座の間から出る。

 閉まっていく扉の動きがやけに遅く感じた。


          __________


「……はは」


 全身の力が抜ける。

 少女にかけた魔法も解けてしまった。


 まだ終わりじゃない。1時間後までにどうにか「アレ」を用意しなくちゃならない。


 わかってる。わかってる、そんなこと。

 だけど。


「生きてる、なぁ……」


 隣に目をやると、少女がどうだと言わんばかりの顔でこちらを見ている。

 ……涙目じゃないか。


 抱きつきたくなる衝動を抑える。


「どうよ。あたしの演技、なかなかでしょ?」


 内心で苦笑する。

 どこから湧くんだ、その自信は。


「あぁ、まったく……最高だったよ。ありがとう、本当に」


 そっと右手を差し出す。

 少女は驚いたような顔をした。差し出された俺の手を見つめ……真剣な顔になる。


「やってもいいよ」


「え?」


「さっきの話。やってもいいよ、魔王。だけど……ひとつ、条件があるの」


「……なんだ?」


 おそるおそる尋ねる。

 俺に拒否権はないようなものだ。どんな条件でも快くのむしかない。


「あたしは、魔族と人間の仲を良くしたい。それを手伝ってほしい」

「……は?」


 この少女、さっきまで魔王を殺そうとしていたのではなかったか。言っていることとやっていることが一致していない。


「変なこと言ってるのはわかってる。でも……ちゃんと、考えがあるの」

「それは……」


 無理だ。俺は魔族との戦争のためにここに来たし、ヒトノ王国では戦争の準備が何年も前から進められている。


「嘘じゃないよ。……いつか、ちゃんと話すから」


 少女の狙いはわからない。だが、その目には強い意思があった。

 ……あぁ、俺はまた嘘を重ねるのか。


「もちろんいいよ! やっぱりみんな仲良く、だよな」


 俺の言葉を聞くと少女はほっと息を吐き、ゆっくりと右手を添えた。


「あたし、チカっていうの。魔王チカ……どう?」


 添えられたぼろぼろの手を強く握る。


「俺は……スピンだ。ちゅんのすけでもいいけどな」


 もちろん偽名だ。


「その名前のことは、その……ごめんね?」


 少女が赤くなる。その手には力が入っていった。



 俺の手の骨にはヒビが入った。


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