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再会


 「ごめんね……ごめんね……おねえちゃ、ん」


 気を失い、何度もうわ言のように呟くレルルを抱く力を強める。テンシーの心には、今しがたレルルが夢うつつに垣間見ているものがそのまま共有されていた。それは、目が見えない代わりにレルルが有していた、異能ともいうべき力だった。


 「そういうこと、か。なんとなくわかった。問題は、ここからどうするか」


 思案しつつ、ゆっくりと円を描くように降下し、広場の中心へと舞い降りていく。


 遠くから見ていた時の広場にはどよめきがあったが、テンシーが舞い降りてくるころには水を打ったような静寂があった。聞こえるのは篝火がはぜる音、ただそれだけ。

 だが、人々の目は一心に、舞い降りてくるテンシーに注がれていた。


 「て、テンさん、その翼は、あ、あんたは一体……?」


 「みんな、今まで云ってなかったけど、実はボク、本当は――」


 「テンシー!!」


 「うん、そうなんだ。ボクの本当の名前はテンシー……え?」


 異物を畏れ見るかのような皆に真実を告げようとしたテンシーだったが、先んじて自分の本当の名を呼ばれてしまい、驚いてあたりを見回した。


 当人はすぐに見つかった。


 「ああっ、アク様どうかお気をお鎮めくださいっ」


 というより、向こうからすでにこちらに駆けてきていた。

 

 それまで優雅に腰かけていた、神輿の座から降りて。


 「ん?」


 真っ白な毛皮に全身を包んではいるが、裾から覗く長く美しい脚線にはついぞ見覚えがある。

 神輿の下からだとよく分からなかったが、よく見れば顔につけていたお面は、暗闇だと若干不気味にも見える翁の面。


 「……んん!?」

 

 おもむろに仮面を脱ぎ捨てると、篝火を照り返すたっぷりした赤髪と、今にも泣きそうな切れ長の青い目。妙齢な美女の相貌が露わになる。

 次の瞬間には、テンシーは抱いていたレルルもろとも、たいへん柔らかい胸の中に吸い込まれるように抱きしめられていた。 


 「うわああっ、テンシー!!」


 「うわああっ――はこっちのセリフ。一か月ぶり、エーナイン。あ、今は”アク様”なんだっけ」


 「こんのおバカ!! はくじょーもの! のんびりや! 私があれからどれだけ大変なことに巻き込まれてきたか! それなのにあんたはどうせこの一か月、絶対に私のこと一度も探そうとしなかったんでしょ!」


 「ごめんごめん。このメトトに手がかりがありそうだったから、何か掴めるまで滞在しようと思って」


 「ひょひょひょ、テンシー様。息災そうで良きかな良きかな」


 「あ、おきなさんも、エーナインに付いていてくれてありがとうね」


 「とにかく! 話すことが山ほどあるわ! 今すぐここを離れて、それから――」


 「あー……それはちょっと、難しいんじゃないかな?」


 「どうしてよ?」


 テンシーはそっと視線を横に逸らす。エーナインもそれに倣う。

 視線の先には、呆気に取られたように二人を見つめる村人の顔があった。


 先ほどからテンシーの翼に目を丸くしたまま固まっている人、テンシーの素顔を見て見惚れている人。同じく素顔を晒したエーナインの美貌に恍惚としている人。驚いているという点ではみな一様であり、驚きの種類としてはみな一様でなかったようだが。


 さらに、その後ろから、”アク様”――エーナインの従者たちがひどく慌てたようすで駆け寄ってくる。


 「アク様、アク様! どうかお気を確かに! こらお前たち! アク様の誉れ高いかんばせをそのような目で見るな! 下がれ下がれっ……あっ、ア=ルエゴ様! ちょうどよいところに!」


 「ぐぬぬう、これは一体、何がどうなっている!? あ、アク様! 何故御神輿をお降りに、それに仮面までお取りになられるとは!」


 「テンっ、テンよっ、レルルは!? レルルは無事なのかえ!?」


 さらにさらに、宮家のババまでもが輪の中に駆け込んできて、広場は先ほどまでの静寂とは打って変わって喧騒を帯び始めていた。 気を取り戻し始めた人々も続々と、我も我もとあることないことを捲し立て始めた。


「あーあ。エーナインが軽率なことするから。どうすんのこれ」


「ふん、安心しなさい。こういうときこそ”言霊”の出番よ」


「それが軽率なんだってば。云っておくけど、次にさっきみたいな使い方したら、本気で怒るからね」


 なにはともあれ、初日から離れ離れになっていた二人は、かくして合流を果たしたのだった。




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