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虚空に浮かぶ城

この小説は、※5/14に完結した「【短編版】天使と悪魔がAIしてる」の中編版になります。


主要人物は短編版と同じですが、短編版とは違うお話となっています。


興味を持ってもらえた方は短編版ともどもよろしくお願します。

 むかーしむかし。なのかはわからない。

 過去も未来もあまり関係のない、遠い遠い虚空に浮かぶ、一つの島があった。


 島には一つの城がある。城下の町を複数の郭で区画した荘厳な城塞都市だ。

 何時、何者が、何の目的で建造したのかを知る者はいない。


 千人、万人を収めて余りある城塞都市。

 だが城下にも、並木道にも、城門にさえも、どこにも今や住む者の姿は見えない。

 

 そもそも、かつてこの城に住む者がいたのかすら、語り得るものは少ない。

 何者かが残した形あるものだけが、時のはざまにいつまでも揺蕩っている。


 幾星霜の齢を重ねた高く壮麗な城壁は、けれど今まで一度も敵の攻略を防いだことがない。なぜなら、攻められたことすらないからだ。


 争いのないことを平和と呼ぶのなら、なるほど確かにこの城にはそれがあった。

 担い手のいない。振りかざす意味も称える意味すらも持たない。


 城の中身と同じくらい、空虚な平和が、そこにあった。


 てんはかみとひととをつなぎ

 あくはおおいなるぜんをよび

 あいはたにやどりよをみたす


 城壁の片隅に、およそそんな文字が彫ってある。

 もっとも、設計上の罫書にも似たひっかき傷の交差を文字として正しく読めるものがいたとすれば、おそらくそう読むであろう、程度の他愛のない落書きにも等しいものである。


 碑文というにはあまりにも拙い。

 城壁の使い方としても正しいわけではない。


 それでも、昨日今日刻まれたわけではないこの文字は、今もこうして残っている。

 少なくとも、これを刻んだ者の意図と意思とは、今日までこの場所にとどまり続けたのだ。


 ただ、乾く前のセメントのように。または、子供の心のように。

 ひとたび刻まれたものは、形を成したのちもそのまま跡になって残る。


 良いことなのか、悪いことなのか。裁定する者がいない以上、答えは出ない。

 だからこれは、攻められたことも守ったこともない、役立たずの城壁が果たした、唯一の仕事の成果であると云えよう。



 ところで、そんな住むべき民が絶えて久しい――いや、ともすれば最初から住んでいた民などいなかったかも知れないこの城にも、主と呼ぶに相応しい、三人の女性がいる。


 彼女たちはそれぞれ、三者三様の個性と美しさとを有していた。だが治める民がいない以上、だれもその美しさを称えることはない。ゆえに程度の差こそあれ、三人ともさほど自分の姿形に関心はなかった。彼女らの関心はいつも別にあった。


 容姿も性格もあまり似たところがなかったが、三人は姉妹であった。

 時に競い合い、時に対立し、時にいがみ合うことすらもあったが、根本にはいつも家族への愛が息づいていた。

 その意味では、彼女たちの関係は一般的な定義上の家族と変わりは無い。

 

 ただ、違うものがあるとすれば。

 彼女たちは自分の存在理由を、とある目的の達成に捧げていた。


 この城の中には、一つの部屋がある。

 常に鍵がかかっており、主でさえも開けることのできない部屋が。


 何かが入っているのか。

 何処かとつながっているのか。

 あるいは、誰かがそこにいるのか。


 確かなことは何もわからない。

 一つだけ確かなことは。


 シレイはいつも、この部屋から発せられる。ということだけだ。


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