裏話1
「あ、シモンズさーん。ちょうど良かった」
依頼が貼り付けられている掲示板にて、次の仕事を探していた時だ。
受付カウンターから、名前を呼ばれた。
見ると、受付嬢が俺にむかって手招きしている。
「はい? 緊急のお仕事ですか?」
こういう風に呼ばれるときは九割がた、緊急の依頼が舞い込んだ時だ。
そういえば、そろそろスタンピードの季節だ。
それかな? と考えながら俺は受付カウンターに行く。
すると、手紙を渡された。
冒険者はその仕事柄、つかまらない事が多い。
そのため、身内や知り合いからの荷物や手紙なんかは所属している冒険者ギルドへ届けられることが多い。
「おや、珍しい」
宛名を見て、俺は目を丸くする。
幼なじみからの手紙だった。
「恋人からですか?」
どこか真剣な声で受付嬢に問われ、俺は苦笑した。
「だったら良かったんですけどねぇ。
友人からです。もしかしたら結婚式の招待状かも」
幼なじみで、村長の娘だ。
初恋だったこともある。
この問いに、はいそうです、と言えたらきっと幸せだっただろうなと思いながら、俺は受付嬢へ礼を言って隣接されている酒場へと向かい、ドリンクを一つ注文して席に座る。
「さてさて、どこの誰が婿に選ばれたのかねぇ?」
うちの次男だろうか?
それとも、村はずれのとこに住んでる、防人一家の誰かだろうか。
三男以下で成人してる奴らは全員外に出ているだろうし。
あ、お祝いのお金っていくら包めばいいんだろう?
下手に親に相談してもいいけど、ごちゃごちゃ五月蠅そうだし。
うち兄弟多いから、下手すると横取りされかねない。
好きだった人が幸せになるために使ってほしいものだ。
手紙を開ける。
学のない貧乏農家の三男坊なんかの自分と違って、村長の娘だからというのもあるのだろう。
そこには綺麗な文字がつづられていた。
貴族様のそれと比べるとやや見劣りするものの、それでも読む分には支障がない。
手紙の差出人であるアストラにこっそり文字を教わっていたことを思い出す。
懐かしいな。
おかげで、こうしてやっていけてるのだ。
お金もそうだけど、あの村では咲いていなかった花で花束を作って送るのもいいかもしれない。
あ、でも相手に勘違いされても嫌だな。
でも、アストラの花嫁姿は綺麗だろうなぁ。
なんて考えながら、手紙を読んでいくうちに俺は自分でもわかるほど、真顔になってしまった。
そんなときだった。
たまに一緒に組んで仕事をしている冒険者仲間が声をかけてきたのだ。
振り向いて、社交辞令的に挨拶をしようとしたら、
「ヒェッ! ご、ごごごごめんさい!!」
なんて言って、どっかに行ってしまった。
そんなに怖い顔をしていたようだ。
いけない、いけない。
まずは深呼吸だ。
落ち着け、俺。
手紙には、差出人で幼なじみであるアストラの現況がつづられていた。
そして、涙の痕も。
落ち着け。これはアストラの主観で書かれている。
俺もそうだが、アストラも田舎から出てきたんだ。
もしかしたら、なにかしらアストラが世間知らずがゆえに相手に粗相をしてしまって、その意趣返しをされている可能性だってあるのだ。
俺は注文したホットココアを飲んで気分を落ち着ける。
手紙には、アストラが神託によって現代の勇者、その一人に選ばれたことと、そのため王都から迎えが来たこと。
今は、シモンズも活動の拠点としているこの王都内のとある宿にいることなどが書かれていた。
それ以外のことも、もちろん書かれている。
女性だから、そして能力値が低かったことを理由にかなり不当な扱いをされているらしい。
故郷の村のそれとはまた異質な差別を、王宮で働いてる奴らや、同じ勇者たちから受けているらしかった。
そして、手紙には、仲間を集めなければいけないが他に頼れる人がいない。
都合がいいのはわかってる、でも、助けてほしいと書かれていた。
アストラが勇者に選ばれたのはとてもうれしい。
なんなら、すぐにでもあいつが好きそうな甘いケーキでも買って、お祝いにいきたいくらいだ。
だけど、何も考えず、準備せず動いていいのだろうか?
たしかに、自分なりに頑張ってきたおかげで冒険者としての俺のランクは最上位のSSSランクだ。
だけど、勇者とはいえド新人の面倒を見られるのか、というと自信が無かった。
なんでもかんでも助けと称して、あいつの代わりに魔族退治をするわけにはいかない。
俺は、考えた末、多くの知恵に泣きつくことにした。
情けない話だけど、仕方がない。
多くの知恵。
それは、とある錬金術ギルドと魔法使いが悪ふざけが作り出した、インターネット。
その世界にある、掲示板だ。
冒険者専用板もある。
なにかしら相談に乗ってくれるはずだ。
新人の時に、罵りながらも助言してくれた人がそれなりにいたのだ。
だから、本当に久しぶりにあそこを利用しようと思ったのだ。
結果は、危機一髪だったけど大正解だった。