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第5話 腕までかっこいい人って存在するんですね


今日、結ちゃんは私に気を遣ってお休みを取ってくれた。


「キヨさん達とは…不便はない?」


カフェでまったりしていたら、聞かれた。

そして私はピンと来る。


(今日、結ちゃんが一番聞きたいのはこれだったんだ)


職場の悩みのほとんどは人間関係。

私は専業主婦。つまり家庭が職場。


それを、この経営者は気にしている…。


私の職場が快適かを。


確かに気は遣う。何と言ってもキッチンは女の城。(結ちゃん家の豪邸はキッチンと言うより厨房だけど)料理するのも、どのお鍋を借りたらいいかなとか…


だけど、


「寧ろキヨさん達の方が私に気を遣ってるよ」

「え?」

「私はあのお屋敷で蝶よ花よという扱いを受けております」


実家での小間使いから、一瞬にしてシンデレラ。どーん。


「〝坊っちゃんが捨てられたら困る〟って。お姫様扱い」

「…そう」

「坊っちゃん、いじけてはいけませんよ」

「…キヨさんの真似?」

「ふふ。結ちゃんが心配するような事は何一つ無いよ」

「それなら、良かった」


嫁姑問題なんて、私には無い。本当にびっくりするほど、良くしてもらっている。



それはきっと…


結ちゃんと関わる人にはいい人しかいないから、だろうな。


「結ちゃんは強運だね」

「そうだよ。なんてったって愛ちゃんを手に入れたんだから」

「……」

「〝わーお〟は?」

「…腹黒大魔王」

「照れ隠ししてもかわいいだけだよ」

「ほぉう…」

「あ、怒らない。じゃあもう一度、かわいい」

「クソガキ」


照れてたら調子に乗りましたよ、スパダリさん。


「お許し下さい、殿下」


そうして謝る結ちゃんは肩の力が抜けたよう。

この責任感の強過ぎる経営者は、問題が片付いて安心したのだろう。




✽✽✽


カフェを出て、買い物。最近慣れてきた腕を握って、歩く。

服を着ていて布越しなんだけど…なんかもう腕までかっこよくて…


やばい。


「何を買うの?」


結ちゃんに質問される。買うものはもう決まっている。


「枕」

「枕?」


そう、枕。


結婚して一ヶ月。私のいるゲストルームにほぼ毎晩やってきては朝まで居座る結ちゃん。


…居座るのはいいのよ、夫婦ですから。その為に私も東京に来たんだし。…恥ずかしい。


そうじゃなくて、


ゲストルームにはベッドが一つ。枕が一つ。


はい、想像してみて下さい。


…分かりました?

つまり、人間一人が寝る事前提なんですね。


じゃあ、私達はどうかと言うと…


私、こちらの男性に抱きかかえられて寝ております。いえ、正確には緊張で寝れておりませんが。


結ちゃんの硬い腕にドキドキして緊張して体を縮こまらせようものなら、今度は硬い胸板が!


(うおっ、思い出しただけで一気に熱が顔に集中して…!)


男性の腕というのはこんなにも硬いものなの?


結ちゃんは細いのかと思っていたけど、実はどうも着痩せで。


本当は男らしくて…逞しくて…人生初の男の人の腕に体に…もう、なすすべがない。


まぁ意識を飛ばして気づいたら朝ということもある。恥ずかしい。


しかしですね、腕枕なんて心臓を止めるために開発されたようなもんですよ、皆様。


…このスパダリさんの腕を枕に寝れますか?皆さん!


「愛ちゃん?」


おっと、結ちゃんに声をかけられ現実世界に舞い戻る。


「枕があった方がいい」


私は、冷静に主張。


「ああ、愛ちゃんの部屋に?」

「そう」


そしてもう一つ。私の重い頭を仕事で疲れているハイスペックさんの腕に一晩置くというのはいかがなものか。

結ちゃんは絶対我慢してる、無理してる。


だから、元々大きいベッドである。枕を増やして適度な距離を保てば、全てが解決すると考えついた。


(これで私も寝不足による昼寝から卒業よ!)


「俺は今のままでいいと思うけど」

「私の頭重いでしょ」

「全然」


納得してよ、スパダリさん。


「…私は気を遣うよ。腕痺れてないかなって」

「痺れない」

「…」


パっとスパっと言い返された。

なんかスイッチ入りましたよ、私!


このディスカッション、受けて立ちますよ私!


「嘘だ、無理してる」

「してない」

「してる」

「してない」


…埒が明かない。こう言ったらああ言う。結ちゃんのボルテージも上がってきたようだし。


「…無理してるのは愛ちゃんの方じゃないの?」

「は?私?」


無理…、してますとも。

あんな逞しい裸体を前に私は眠る事も腕に体重をかける事も出来ませんよ。


それを…


この目に前のスパダリさんに言えますか!?皆さん!!


「…してない」

「すぐ言い返さない所をみると、してる」

「してない」

「いいよ。枕ね。行こう、買いに。」


そう言って半歩前を歩くスパダリさん。その後ろ姿には殺伐としたオーラを感じる…。


絶対納得してないでしょう!ねえ!スパダリさんよ!


「…何怒ってんのよ」

「怒ってない。落ち込んだだけ」


私は少し後ろを歩いていて、その表情はここからでは分からない。


だけど、少し落ちた声のトーン…


「…何を買うと思ったの?」


分かっている為、話題を変える。


「…服とか」

「服はもう持ってるよ、体は一つしか無いんだから」


エブリデイ同じ服だった私のワードローブは3パターンに増えた。これで充分。服を毎日選ぶのは骨が折れる。


「…俺が知らない服があるだろ」

「は?」

「愛ちゃんが身に着ける物は、全部俺が買った物にして欲しい」



……かーわいい。


何この子。とってもかわいいんですけど。


ちょっと拗ねたように、ちょっと言いにくそうに…


普段全く照れないうちの子が…


「かわいいわねー、うちの子は」

「…話そらした」

「そらしてない。感想を言っただけ」


かっこよさも去ることながら…


最近、結ちゃんがかわいくてかわいくて堪りません!

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