第4話 デートの会話
俺の奥さんは危機感が無い。
…全く無い!!
「今度から24時間一緒にいる」
「出来ない事を言わないの」
あれからなんとか喧嘩にならず、二人で外出した。
やってきたのは愛ちゃんが来てみたかったという、カフェ。
女子率99%である。
「結ちゃんの方が危険だよ。周りに女子がいっぱいいるから」
「ここは不可抗力だよ」
「…今、この場所の話をしてるんじゃないの」
愛ちゃんは目の前に、置かれた皿盛りデザートを一口、口に運ぶ。
「私が会う男の人って貴ちゃんとおじいさんだけだよ。…後は……宅配のお兄さんと、自然食品店の店番の子かな?」
「そんなにっ!?」
前述の二人は理解出来る。それなのに数が倍になってる…
「そんなにって…。四人。四人よ?結ちゃんの方がよっぽど女子に囲まれているでしょう?」
呆れたように返される。
「俺は奥さん一筋だから」
俺の方が好き。だからいつも不安になる。
今のこの幸せな状況は…一瞬で終わるんじゃないかって……
「…じゃあ、24時間結ちゃんについて回ったら安心する?」
「……」
俺の奥さんは、優しい。
俺が、ここでそれを肯定すれば…きっと守ってくれる。
して欲しい。…だけど、それでは駄目だ。
幸せにしたい大事な俺の奥さんを拘束するのは真逆の行為だ。
「宅配はキヨさんにお願いして、買い物は…」
「いいよ……」
こうして、俺の気持ちが満たされる提案をしてくれる。
幸せにしたいのに、俺ばかりが自分の主義主張を言っている。
「…ゆーい、ちゃん!ほら、お口開けて」
明るい声に導かれるように口を開ける。
「……甘い」
「美味しいよねー。東京はこんなにキラキラしたスイーツが沢山あるんだもん」
愛ちゃんが食べていたスイーツを一口、口に入れられた。
口いっぱいに甘みが広がる。
「…俺と一緒で楽しい?」
つい、思っていた事を口にしてしまった。
「…私には結ちゃんしかいないよ」
俺の機嫌ばかり取らせてしまっているのに。
「…本当は…愛ちゃんの方が環境の変化で大変だろうからって思って…」
「お休み取ってくれたんだよね?」
続く俺の言葉を先回りしてくれる。
「愛ちゃんは結ちゃんの願いを叶えてあげたいから、ここに来たんだよ」
「…」
「私は結ちゃんを置いてどこにも行かないよ」
意志を持った言葉。わかってる、わかってるのに…不安になる。
俺の器が小さくて…
「…困った事ない?」
話を変える。本来の目的を忘れてはいけない。
俺の奥さんに嫁姑問題が降り掛かっていないか。それが今日の一番の目的なんだから。
「…うちの子の赤ちゃん返りかしら?」
ニッとおどけるように言われ、俺の気持ちがフッと緩んだ。
愛ちゃんにしか出来ない、魔法。
「お母さんが受け止めてくれるからね」
俺もおどけて返す。
一緒にいると、楽しくなる。
「ほら、これまでと環境が違うからさ…」
キヨさんと大西さん家族との関係、聞きたいのはここだ。
「そうだね、都会は毎日がお祭りのようだね」
「そう?」
「出た、都会人!」
「生活しにくい?」
俺も養子に貰われた時や留学した時、環境や文化の違いに苦しんだ。
あの時の俺の気持ちを…俺は愛ちゃんにさせるわけにはいかない。
「まあ…ね…」
言いにくそうに、口を開いた。
「両親がいないのも、寂しいし、姉さんとも話したいし…」
やっぱり…
「でも、それを言ったら結ちゃんが気にするでしょ?結ちゃんのせいじゃないからさ」
「それでも言って欲しいよ」
もっと俺を頼りにして欲しいのに。俺がいつも我儘ばかり言ってたから、言えなかったんだ。
「…うちの子は責任感が強過ぎるから、自分のせい…とか考えそうだなーって思ってね」
愛ちゃんはなるべく、暗くならないように笑いながら…言葉を選んでる。
ここで俺がいじけては駄目だ。打開策を考えないと。
「定期的に実家に帰るようにしようか?」
「え?」
「ほら、一週間に一度とか…」
そうなると俺は寂しいけど…それは言ってはいけない。
愛ちゃんが笑顔になるなら…それくらい…。
「一週間に一度って、飛行機代がもったいない!」
「航空会社の利益に貢献出来るし、経済も回るよ」
「…考え方が経営者だね」
「本当は…俺がそっちに住む予定なんだから」
貴ちゃんを置いてどこにもいかない。愛ちゃんは俺の主張に譲歩して貰った形だ。
「…じゃあ、結ちゃん今度海外出張って言ってたよね?その時に実家に行こうかな」
ニッと笑う。俺に迷惑をかけないように…
「結ちゃん…私は今、結ちゃんにようやくテイクを始めた所だと思ってるの」
今度は神妙な面持ちで話し始めた。
「それは結ちゃんがいっぱい私にギブしてくれたからだからね?」
そうだった、愛ちゃんは…
「ギブアンドテイクの人だね」
「まだまだ返し終わる予定は無いよ。毎日貰ってばかりだもん」
「俺の方が貰ってるよ」
「違う、私」
「俺」
「私」
「「…お互い意地が強いね」」
言い合ったかと思えば、見事にハモる。
「ふっ…はは!またハモった!」
愛ちゃんが面白そうに笑った。
…心からの…笑顔。
「めちゃくちゃかわいい」
「…バカにしたな」
褒めたのに、どす黒い声で睨まれた。
「間違えました。綺麗です」
「分かりやすくご機嫌を取るな」
「夫婦喧嘩を避けたいだけだよ」
あまりのかわいさにさっきまでの気持ちもどこかに行ってしまった。俺はまたしても、最愛の奥さんのパワーに救われる。