第3話 朝から目の前にイケメンが!皆さん呼吸出来ますか!?
結婚して一ヶ月、私は随分この状況に慣れた。
隣に男性がいるのが恥ずかしくて仕方なかったのに、今では結ちゃんと一緒にいる方が自然と思える…。
「おはよう」
「!!!」
(嘘です!全ッ然、慣れない!!)
目を開けたら目の前にイケメンが!朝から破壊力抜群です…
「あーかわいい。幸せ〜」
「早く自分の部屋に戻りなさい!」
「貴ちゃんが〝あと五分〜〟って言ってた意味がよく分かったよ」
私に抱きついて、胸に顔を寄せてまた目を閉じる結ちゃん。
「だめ、だめ!もうキヨさん達がこっちに来る!」
時刻は5時を回った所。
5時半にはキヨさん始め、大西さん達が母屋にやって来る。
「〝あと五分〜〟」
「そんな事言ってるから貴ちゃんと同じ扱いになるの!」
あれからなし崩し的に私のいるゲストルームに居座り続けた結ちゃんはそのまま…
そして、朝。
「俺、もうこのまま死んでもいい…」
甘えん坊から一転、そう言ってさらにきつく私を抱き締める。
「…困るよ」
「朝起きて愛ちゃんがいなかったら…って思うと今が一番幸せ」
「いなくならないよ」
そう…言われると…つい、私の母性に火がついて、結ちゃんを抱き締め返す。
「……いつどこで何が起こるか分からないから…このまま閉じ込めておきたい」
それは監禁という。
だけど…
「いいよ。ずっとこの部屋の中にいようか?」
それで結ちゃんの気持ちが落ち着くなら、そうしてあげたい。
「…………起きる」
「うん」
落ち着いたのか、ようやく我にかえる結ちゃん。
私から体を離し、起き上がる。
彼はこれから何事も無かったかのように、自分の部屋に戻って、着替えて、いつも通りの日常を過ごす。
「また後でね」
部屋から出て行く彼を見送った。
(私も仕度して、結ちゃんが楽しみにしてる糠漬けを…)
顔を洗い、タオルで拭く。
朝からイケメン具合が半端ない!
「あぁ!呼吸困難!」
一人になり、叫ぶ。
あんな完成された人っているの!?
✽✽✽
「貴ちゃん、忘れ物ない?」
私の前と打って変わって、お兄ちゃんモードの結仁さんは弟の貴将くんのお見送り。
いつもは貴ちゃんより早く家を出るけど、彼は今日休みを取っている。
そして私も結婚してからずっと、貴ちゃんを見送っている。
「いいなー。お兄ちゃんは愛ちゃんとデートかよー!」
「そうだね、お兄ちゃんは幸せ者だね」
「俺も愛ちゃんとデートしてー!」
「貴ちゃんは今度、お兄ちゃんと買い物に行こう」
「約束のゲームにスニーカーも付けてね!」
「うん、いいよ」
彼はここではお子ちゃまを一切見せない。
「じゃあ愛ちゃん!行ってきますのチュー!」
靴を履いてたたきにいる貴ちゃんが私に向かって唇を突き出す。
もう見慣れた光景。
「貴ちゃん、愛ちゃんはお兄ちゃんの」
…いつものように、軽く流そうかと思っていたら結仁兄ちゃんが間に入る。
「貴ちゃんにもあげないよ」
そう言ってにっこりと微笑む…兄ちゃん。
…キュンッ。
「えー!ケチー!」
「貴ちゃんにはお兄ちゃんがいるだろ?」
「若いお姉ちゃんがいい!」
「はいはい、遅刻するから早く行きなさい」
私はここでようやく仲裁に入る。
「愛ちゃん!次は俺だからね!ねっ!?」
「はいはい、デートね」
「絶対約束だからね!行ってきまーす」
「気をつけてねー」
ようやく台風を送り出した。…さて、今度はこちらの子供のフォローをせねば。
(…私はいつの間に二人の子持ちになったのやら)
「……デートって何…?」
案の定、驚きを隠せないと言った声色で聞かれる。
「約束しないと大学行かないって座りこんだの。実現はしないよ。貴ちゃんはラグビーで忙しいんだから」
おもちゃ屋で駄々をこねる子供に向かって、また今度ね、と言ったのと同じ意味合いよ。
「実現したらどうするんだよ」
(あー、もう、始まった)
兄弟間の小競り合いに挟まれた母親。今の私は正しくそれ。
「じゃあ、しないように父ちゃんがなんとかして」
結ちゃんが貴ちゃんと同等になって張り合うからこんな事になってんのに。
「……俺、愛ちゃんの事、皆に見せびらかしたいって思っていたけど撤回する」
「は?」
「俺以外の男と会うのも喋るのも禁止!」
クソガキが駄々をこね始めた。その剣幕に私のボルテージも上がる。
「〜出来るか、アホ!」
「何でもしてくれるって言ったじゃん!」
「まだそれを言うか!しつこいぞ!」
「約束出来ないなら最初っから言うなよ!俺も貴将も約束は信じるんだから!」
段々とお互いの口調が強くなる。これはこのまま行くとまた喧嘩だ。
…喧嘩はだめ。
だめ…。
「このまま喧嘩する?」
「…しない」
結ちゃんのボルテージが急降下した。
今日はせっかく休みを取っているのに喧嘩したなら休みの意味がなくなる。
私もすぐ感情的になるのは改めよう。
高ギャップカップル(笑)