第1話 甘い結婚生活?
第三章スタートしました♡
夫婦となり二人の近づいた距離も感じて頂けると嬉しいです(*^^*)
「結ちゃんの側にいて、おかえりなさいって言ってあげたい」
そう伝えてくれた、あの日…
―――全てが満たされた
✽✽✽
「忘れ物無い?」
最愛の彼女と結婚し…今、俺の住む三井の家で暮らしている。
毎朝、愛しい妻が見送ってくれる。俺の色ボケは継続中。
「ある、キス」
「…早く行きなさい」
新婚生活を謳歌するつもりが、俺の奥さんは冷たい…。
「明日、休みを取ってるからデートしようね。行ってきます」
にっこりと微笑み俺は家を後にして会社に向かう。
仕事が一段落して、久しぶりに平日に休む。そして久しぶりの二人切りだ。
息抜きも兼ねて俺は奥さんとデートをする。
…ここに移り住んで1ヶ月、奥さんの不満もさぞ溜まっていることだろう。
事の発端は結婚の連絡をお兄さんにしたときに遡る…
「それはおめでとう」
「ありがとう存じます」
それはそれは天にも登る気持ちで、晴れやかなひと時だった。
…が、
「…嫁姑問題には…気をつけてや」
「…え…」
先程までのお兄さんの穏やかな口調から一変、含みを持った話し方に変わる。
「一方立てれば一方立たずや。お互いの言い分も分かる。しかし、中立的立場に立とうものなら両方を敵に回す」
「…」
つい…大奥様と正妻のやり取りを思い出す…
(恐っ!!)
一気に全身の毛が逆立つ。
「まあ、結仁くんの所はお姑さんがおらんから…」
そう言って電話は終わった。
以来、その言葉が俺を悩ます事となる。
お姑。ここで言うならキヨさんと大西さんが該当するのだろうか…
大西さんはまあいい。もし俺の奥さんが大西さんに何か思う所があるなら、俺は100%奥さん派。何も不安に思う事は無い。
問題は…
キヨさんか…。
そして問題はそれだけでは無い。
✽✽
「おかえりなさい」
「ただいま」
明日の休みの為に、夜遅くなってしまった。貴ちゃんはもう自分の部屋にいるのだろう。
愛ちゃんが出迎えてくれた。
「もう皆さん自分のお部屋に戻ったよ」
愛ちゃんから報告を受ける。
皆さんというのは大西さん家族とキヨさんの事だ。
俺と貴ちゃんが住む家は本宅でキヨさん達が住むのは別棟の使用人さん専用の建物だ。
かつての名残が残っている。
因みに今だにゲストルームに住む愛ちゃんは俺と同じ本宅内。
「ご飯食べる?」
「うん」
新婚の甘い雰囲気は中々出してくれない奥さんだけど、近くにいてくれるだけで俺の気持ちは満たされている…
の、だが…
「……愛ちゃんが作ったのは?」
ダイニングテーブルに本日の夜ご飯の残りが並ぶ。
今、メイン料理はキヨさん、副菜を愛ちゃんが作っているのだが…
テーブルの上に、無い。
「あ、貴ちゃんが全部食べてくれたの」
「またっ!?」
肉好きの貴ちゃんがまたしてもキヨさんの作った肉料理では無く、愛ちゃんが作った植物性の料理を平らげるとは…
「ひじき5袋使ったんだよ。ストックも含めて買って来たんだけど、キヨさんが全部使った方が良いって言われて…」
「愛ちゃんは貴ちゃんの食欲を見くびってる」
「人参3本、油揚げ2枚も使って…。こってりが好きな貴ちゃんがまさかそんなにひじきを喜んでくれるなんて思わなくて」
(それは絶対、愛ちゃんが作った料理だからだ!)
貴ちゃんが愛ちゃんの料理を全て平らげるから、俺の口に一口も入らない。
それが無性に最近やるせない。
「……俺だって愛ちゃんの作ったひじき食べたかった」
ぶすっと不貞腐れて、駄々をこねる。
「明日買って作ろうね」
そう言って俺を包み込むように微笑む。
この構図は完全にグズる子供とあやす母親。
「いいよ、面倒になるから」
俺は夫なんだから、幸せにしたい奥さんに迷惑をかけてはならない。
「結ちゃんの分取っておけばよかったね。ごめんね」
俺の夕食の準備を終えた愛ちゃんが側に来て俺の頭を撫でた。
愛ちゃんの手になんだか妙に心が緩む。すると、せき止めていた感情が押し出されて、目に涙が溜まる。
「…いっつも貴ちゃんばっかり……」
愛ちゃんがここに移り住んで、毎日料理を作ってくれてるのに、俺の口には中々入らない。
これまでなら、全然気にならなかった。
寧ろ、貴将がお腹いっぱい食べてくれた事が嬉しかった。
その気持ちが無くなったわけではない。
だけど……
…つい、羨ましい、という気持ちと色んな感情が混ざって
言葉にしてしまった。
「…そうだよね」
「いいよ。俺、お兄ちゃんだから」
俺と貴ちゃんは14歳差。変な事を言って、愛ちゃんに愛想尽かされたら困る。
一口、出されたご飯を口に入れる。
「…………俺の奥さんなのに…」
気持ちを切り替えたつもりがご飯を噛み締める度に押し込めていた気持ちがまたしても口に出た。
環境が変わって、きっとストレスがたまっているのは愛ちゃんの方。それなのに、俺の不満ばかりを口にしてしまう。
「…結ちゃん!お手手見せて」
「…?」
母親モードの愛ちゃんに言われ、俺は箸を置いて掌を見せる。
「〝甘えん坊線〟!あるかと思ったら無いね」
「甘えん坊線?」
「手相だよ。最近お昼のワイドショー見るのが楽しくて…そこでやってたの」
「うん」
「人差し指の付け根に縦線がちょこちょこある人は甘えん坊なんだって」
「へー」
お昼のワイドショーで得た知識を披露してくれる。
「…結ちゃんは線が無いから、甘えん坊じゃ無いんだよ」
「…」
そんな事は無い。俺は愛ちゃんと知り合って、どんどん幼児退行している。
「結ちゃんは頑張り屋さんなだけ」
俺は愛ちゃんの前になるとどうしようもない幼児へと変貌する。
それをなんとかしたいと思っていたのに…
「だから、もっと甘えてもいいし、言いたい事を言っていいんだよ」
明日の休みの為に、ここ最近ずっと帰りが遅くなった。
愛ちゃんの料理を楽しみに帰って来てるのに、いつも俺の口には入らなかった。
そんなやるせなさを言うなんて、、
「貴ちゃんばっかりずるいよ…」
35歳にもなって、14歳も年の離れた弟にヤキモチを焼く。
こんな感情が初めてで、情けなくて隠したかった。
「そうだよね」
「絶対、愛ちゃんの作った料理だから食べてるんだ。俺と張り合って…」
「うん」
愛ちゃんはしっかりと俺の手を握って、聞いてくれている。
「俺のなら、食べて良いって思ってる。…いいけど、愛ちゃんのは、だめ」
「うん…」
「……悔しい…」
多分、最後に出た言葉が俺の本音だ。このやるせなさの正体。
俺の、奥さんの物が奪われて悔しい。
「…初めて貴ちゃんに悔しいって思った…」
吐き出すと少し冷静になって、自分の感情の正体に驚く。