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第10話 サラッとフワッとサクッとお願いします。ドキドキが収まらない

「お兄ちゃん! おかえりなさい!!」

「貴ちゃん、ただいま」

「愛ちゃんもおかえり〜!」

「ありがとう。お邪魔します」


 三井さんと他愛もない話をしながら三井さんの家に帰り着いた。

 ……途中からタクシー使わせて貰いました。

(三井さんいつも本当にこの距離歩いてるの? ……キツいでしょ)


「貴ちゃん、お土産にケーキを買って帰ったから後で皆で食べようね」

「ケーキ!? やったー!! ありがとうー! お兄ちゃん大好きー!!」


 貴ちゃんは三井さんからケーキを受け取り小踊りしながらダイニングにかけて行った。こういう所が可愛いんだろうな。

(私も貴ちゃんの様にオーバーアクションしないと)

 三井さんはお兄ちゃんモード。


「俺達も中に入りましょうか」

「はい。あ、三井さんはちょっと待って下さい」


 玄関のたたきから私は靴を脱いで上に上がり、振り返る。

 段差があり、私が三井さんを見下ろす形となる。


「……凄い優越感」

「その為に待たされたんですか?」


 三井さんが楽しそうにクスクスと笑う。いつもと違う角度にドキドキとしながら、本題に入る。


「おかえりなさい」


 〝俺の帰りを待ってて下さい〟ミッション成功。

 私に出来ること。これを私は積み重ねていきたい。


「――ぁ、た、ただいま戻りました……」

「照れてる三井さんは最高に可愛いですよ」

「……見下されて、そうバカにしたように言われると、何だか反撃したくなります」

「じゃんけんはしませんよ」

「……先手を取りましたね」


 ハグが嫌な訳じゃない。来ると思うから身構えてしまうの。

 だから……


「じゃんけんではなく、もっとサラッとフワッとサクッと気づかないうちに事を済ませて下さい。そうでないと恥ずかしいです」

「え? ……え? それは……今度からいつでもしていいと言う事ですか?」


 聞き返さないでよ腹黒さん。恥ずかしいから。


「無言は肯定となりますよ?」


 驚きと歓喜が混じった三井さんの声と同時に、手が伸びて来るのが見えた。


「い、今はダメです!!」

「えっ!?」

「サラッとフワッとサクッと! 今はどれ一つ満たしていません!」


 やっぱり恥ずかしくなって下を向いてしまった。すると私の方が一段上にいるから寧ろ三井さんに赤くなった顔を晒す醜態を犯してしまった。慌てて体を回転させ、皆の待つダイニングルームに向かう。


 ――ギュ……


「――っふぁ!」

「これはフワッとです。」


 靴を脱いで上がって来た三井さんにハグされた。これが噂のバックハグ……!


「ありがとうございます」


 後ろから聞こえる声が直接脳に届くように頭が痺れる。


 ――チュッ


「!! ッな、な!?」


 首の後ろに何か感触が!! 驚いて慌てて体を離して後ろを振り返りる。


「なんですか?」

「しれっとしないで下さい!! 今キスしましたよね!?」

「なんの事です?」

「いや、だから!! なんか……チュウって! 吸われました!!」

「赤くなってそんな事言われると……逆にそうして欲しいのかと勘違いしてしまいます」


 な、な! 絶対確信犯!! ありえない!!


「〜!!」

「お兄ちゃーん!! 愛ちゃーん!! まだー!?」


 言い返そうとしたところでダイニングから貴ちゃんの叫び声が聞こえて来た。


「ああ、貴将を待たせる訳にはいきません。また今度ですね」

「だから!! 違います! した事を責めてるんです! して欲しいなんて言ってません!!」

「はいはい。夕飯ですよ、殿下」


 弁明虚しく、三井さんの掌で転がされてしまった。私を手玉に取って〜! 悔しいぃ!




 ✽


「え? 今なんと?」


 昨日と同じく、三井さんの家で夕飯を頂いている最中、キヨさんがとんでもない事を言い出した。


「明日、日帰りバスツアーに行く事になっているんです」

「いいなー。俺も行きてー!」


 バスツアー……明日キヨさんは朝食を食べてから夕方まで家を開けるそう。貴将くんは大学。


「もちろん、大西さんご家族も一緒です」

「え゛……」

「バスって二人席でございましょう? ちょうど4人で二人づつ分かれる事が出来ますから」


 と、言う事は……


「明日はこの家に誰もいなくなりますが、宜しくお願い致します」


 そういう事ですよね。三井さんも私の上京に合わせて休みを取ってくれてる。よし、明日は三井さんと二人で外出しよう。三井さんの家で三井さんと二人きりは危険な気がする。


「坊っちゃん、チケットありがとうございました」


 ん?


「いいえ。いつも皆様には大変お世話になっておりますから、日頃の感謝の気持ちでございます」

「えー!? お兄ちゃん俺には?俺も行きたい!!」

「貴ちゃんは進級が確定したら、お祝いしようね。それまではお勉強頑張ろう」


 ……って事はつまり、三井さんの差し金?


「愛子さん、明日も坊っちゃんを宜しくお願い致しますね」

「え……。ああ……まぁ……はい」

「「「くれぐれも宜しくお願い致します!!」」」


 キヨさんと見事にハモった大西さんご一家に頭を下げられてしまった。


「こちらこそ……」


 顔が引きつりながらついつい私の中の外面良子(そとづらよしこ)が顔を出す。


「良かったですね、坊っちゃん」

「はい。安心しました」

「いいなー。俺も愛ちゃんとデートしてー! お兄ちゃんばっかりずるいー!」

「そうだよね貴ちゃん。お兄ちゃんは運がいいね」


 これは絶対三井さん確信犯決定。私の明日は危険に晒されている……。


「お詫びに服買ってー!」

「いいよ。一緒に買いに行こうね」


 ……貴ちゃんと三井さんを見て、学習。

 こんな風に私も三井さんに我儘言って甘えたらいいのね? 昨日の服ももっとラッキー、大喜び! みたいな感じがいいのね?

 堂々と甘えて、たっぷり喜ぶ。これが三井さんへの愛情表現……。学習しました。……頑張ろう。




 ✽


「で、なんの用です?」


 夕食も終え、ケーキも食べ終えて私は貸して頂いているゲストルームへ。ゆっくりしてお風呂に入って寝るつもりが、ついてきたよ、スパダリさん。


「もちろん一緒にお風呂に入ろうと」

「今日は貴将くんはいませんよ」


 真顔で言う三井さんにニッコリと外面で切り返す。

 昨日は貴将くんを納得させる為の特別措置でしょう。


「当たり前です。いくら貴将が我が子と言えど、20歳ですから。一緒にお風呂なんて駄目に決まってます」

「〝子〟ではないですよ」

「……俺は桑野さんの大きな子供と言うことで」

「はい?」

「桑野さんは俺の母親と思って一緒に入ってくれたらいいだけです」


 ……絶対に純真な子供心で言って無いくせに。

 なんかメラメラとやる気が出てきた。このディスカッションに受けて立ちますよ、私!


「じゃあ、本当のお母様にご登場頂きましょうか」

「俺が一緒にお風呂に入りたいのは桑野さんだけです」

「……お、おぅ」


 出鼻をくじかれた。なんて恥ずかしい。真顔で言わないで。


「……冗談ですよ。入籍前ですからね。離れがたくて部屋までお送りしただけですから。……ゆっくり休んで下さい。」


 え? あれ? また急にジェントルマンに戻った?


「おやすみなさい」


 なんか急に大人の男性になっちゃったよ。さっきのお子ちゃまはどこに行ったの?


「――っわぁ!」

「サラッとです」


 頭でぐるぐる考えていて油断していた……。サラッと前から抱きしめられてしまった。


「ふっ……」


 三井さんの腕に力がこもり、思わず息が漏れる。なんて恥ずかしいの。


「……好きだよ」


 私の髪をかきあげて、耳の真横で妖艶な声を出す三井さんに脳天が痺れる。


「愛してる……」


 私は硬直。それどころか足から崩れ落ちそう。このままじゃ駄目だ。


「――……愛子……」


 ももも……もう駄目でございます―――





 ✽✽✽


「あ、大丈夫ですか?」

「?」


 ここは……ゲストルーム。周りを見渡して想定すると……ここはソファの上。


「桑野さん?」


 三井さんの声が上から聞こえて来て、その声がした方向へと顔を向ける。


「!!」


 真上に……覗き込むような三井さん。……おかしい。この距離はおかしい。しかも頭が硬い。


 ――ギギギギ……

 私は音が鳴りそうな硬直具合で頭を動かし、下を見る……。

 この状況は……ソファで三井さんに膝枕されていた……!

 なんてこと!!


「危なっ!」


 動揺とこんがらがった頭のまま転がり落ちようと体を横へ向けようとした矢先、三井さんから抱き止められる。

 どうしたらいいか分かりません! 先生教えて下さい!


「――めちゃくちゃ可愛いです……」


 三井さんが体を屈めて近づく――チュっとおでこに……キスされた――。


「――!!」

「ああ……残念」


 バッとガバっと起き上がって立ち上がり、ソファの前にあるベッドを挟んで三井さんと距離を取る。


「な、な、な……何したんですか!?」

「何って」

「エロ魔人!!」

「心外です。ソファまで連れてきたのは俺ですよ」

「それは申し訳ありません!」

「いいえ全然。寧ろ役得です」

「なんですかその含み笑いは!? 変な事してないですよね!?」

「変な事とは?」

「〜! 過度なスキンシップはご法度です!」

「過度な、の基準が分かりません。どのくらいが過度か実際にしてみて下さい、俺に」

「〜ペテン師ー!!」

「新婚さんごっこです」


 そんなに嬉しそうに喋らないでよ! 私は恥ずかしさでしばらく顔見れない! それなのに……悠然と……。


「醜態を晒して失礼しました。ご丁寧に介抱して下さりありがとうございました。後日改めてお礼を。それではおやすみなさい!!」


 早口で終わらせ、三井さんの腕を取り立たせ、背中を押して部屋から追い出す。

 三井さんはおかしくてたまらないといった様子で私にされるがまま。悔しい。


「おやすみなさい。俺の奥さん」

「!!」


 部屋から追い出して、扉を閉めようとしたら勝ち誇ったように言われた。そして言い返す間も無く扉が閉まる。


 ………悔しいー!!! 恥ずかしいー!!!


 私はベッドにダイブして悶絶。

 くぅぅ〜!



 ……冷静になると……悪いことしちゃったな。


 ハグ位スマート出来てよ、私。うふふ、とか言いながら三井さんの背中に手を回してあげてよ、私。


 それをまた意識飛ばして、三井さんにソファまで運ばせて。さぞ重かった事でしょう。


 ……どうやって運んだのかな?

 ……もしかして憧れのお姫様抱っこ? いやいや、それは無理だと思う……。分からない、聞けない!



 それ以上に……膝枕……。


 私がしてあげる側だったのに。三井さんからして欲しいって言われてたのに。先来されちゃった。いつもしてもらってばかり。三井さん、ごめんなさい。


 今日は疲れたけど、眠れそうに無い。まだドキドキしてる。


 〝愛してる〟


 ……きゅうぅ。駄目だ、ドキドキが収まらない。

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