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第66 話 桑野さんがやってきた。ようやく愛の告白を、と思ったら…

 

 平日、水木金曜日と仕事を頑張って、週末はラグビーへ。いつもの日常だけど、沢山の事が変わった。


 大西さん親子は今の仕事とアパートを引き払うまではできる範囲でうちで働いて貰っている。

(断ってもらおうと思って言っただけで、おじいさん、おばあさんが目の前で働かれると、俺は何だか悪いことをした気分になるのだが……)


 会社では、百子さんが総務課の給湯室で〝ココだけの話〟として俺に彼女が出来た事を言ったらしい。

 ココだけの話は瞬く間に広がったみたいだが、直くんも百子さんも喜んでくれ、社員に囲まれても困っていないそうだ。(直くんが四苦八苦してなくて良かった。百子さんありがとう)




 そして今日は月曜日。待ちに待った桑野さんがやってきた。約一週間ぶりだ。


「会いたかったです」

「どひゃ〜!」

「リアクションのパターンが増えてますね」


 相変わらず、顔を真っ赤にして古めかしいリアクションを取る桑野さんに愛しさがこみ上げる。


 荷物を受け取り、駐車場まで歩く。


 ああ、もう抱き締めたい。

 プラトニックは、卒業したい。


「……桑野さんに伝えたい事があるんです」

「え……」


 桑野さんが驚いて俺に顔を向ける。

 てっきり、「お、愛の告白ですか?」みたいな事を言われると想像していたが……。


 とにかく、早く俺の気持ちを伝えたくてウズウズする。


「わ! 私も! 三井さんに伝えたい事があります!」

「……愛の告白ですか?」

「それに近いです」

「……お先にどうぞ」


 なんだろ?冗談で返したのに真面目に返されてしまった。

 愛の告白に近いって。出来れば男の俺から言いたい。……男尊女卑かもしれないから、先に譲る。



「三井さんは一人ではありません」

「……」

「三井さんは一人にはならないですよ。三井さんは人に好かれる人です。だから、いつも三井さんの周りには人が沢山いて、毎日が賑やかです」

「……ありがとうございます」


 俺はまだ、これから先に続く愛の告白に近い内容が分からない。


「三井さん! ご褒美です!!」


 桑野さんが外面の笑顔を浮かべて俺に言う。

 俺には分かる。……この笑顔は外面だ。なぜ?


「三井さん、お別れしましょう!」


 は……?


「私は……三井さんに頂いてばかりです。だから……何か私にできる事、それを考えた時に……三井さんを開放してあげる事だとずっと……考えていました」

「えっと……」

「三井さんに言ってばかりじゃ……。だから、三井さんを手放そうと、決心して今日、来ました」

「あの……」


 今日は桑野さんと未来の話をして、プラトニックを卒業して、楽しく過ごして、夜は家にきてもらって、皆に桑野さんを紹介して……


 公然と桑野さんとずっと一緒にいられると……



 そんな事をイメージしてワクワクしながら、この数日を過ごしていた。




「三井さん、これが私のお返しとご褒美です」


 そう言って桑野さんは笑う。泣きそうな顔をして。


「一生一人という三井さんの言葉を聞いて、私は三井さんを一人にしたくないと思っていました。私だけは、みたいな事を考えてしまって……もう本当に凄い自意識過剰で…今考えると恥ずかしいですけど。……だけど、三井さんは結婚をしたくないだけで、周りには沢山のお友達やお仲間、ご家族がいて…三井さんは一人じゃない事を知りました!」

「……」

「三井さんは私と違って、男女関係なく、お友達も多くて慕われています。だから、老人ホームに行っても三井さんの所には毎日来客が絶えません!」


 ……分かった。桑野さんの伝えたい事が。


「ですので、振って下さいという三井さんの願いを叶えてあげます!」


 俺の気持ちが変わった事を……伝えてなかったから。


 〝俺は今、答えが出ました〟そう伝えただけだった。それが何を指すのかは……伝えていない。会ってから、そう思って……。


「三井さんを好きになって……好きになれて本当に幸せでした。産まれて初めて男性とお付き合いして、私は〝誰からも選ばれない女〟という劣等感を拭い去る事が出来ました。……だから三井さんに……私が出来る事を何でもしてあげたい。それなら……振る事もしないと……」



 一目見て、好きになった。

 俺は一生一人だと言い聞かせ、その気持ちに蓋をしてきた。

 半年間なら……と思って付き合い始めた。

 どんどん好きになって、手放せなくなって、一生俺だけのものにしたいと思った。

 それなのに、俺は自分の直感を無視した。信じなかった。


 桑野さんは俺を包み込んでくれて、俺に安心感を与えてくれたのに。



 俺がワガママを言えるのも、甘える事が出来るのも……桑野さんしかいない。



 それが分かった時に過去のこれまでが全て水に流せた。足枷がなくなった。

 そうしたら、桑野さんとの未来を創造出来て……。


 桑野さんが俺に望んでいる事を、やっと叶えてあげられる。

 ……そう思って浮かれていた。


「夢の時間をありがとうございました。私も頑張ります」

「……頑張るって」


 それは、次に。他の男の所に……行く、という事。


 桑野さんはいつから、俺を諦めたんだろう。俺はここ最近ずっと浮かれていたのに。


 なんで、気付いてあげられなかったんだろう。


 引き止めないと。

 今度は俺が、動かないと…。

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