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第64話 皆の誤解を解く。そして色ボケの説明を。

 

「直、ももちゃん。その話は触れちゃダメ」

「え?」


 なぜか貴ちゃんが牽制する。


「逃げられたの。そっとしてあげて」


 え? 逃げられた? 俺が? 桑野さんに?

 どうして貴ちゃんの中ではそんな事になってるんだ?


「いや……」

「す! すすすすすすみません! お兄さん!」


 誤解を解こうと声を出すと、顔面蒼白の百子さんに物凄い勢いで謝られた。


 ……さっきの大西さん親子より申し訳なさそうな感じが伝わって来るんですけど。


「ももちゃん。触れないであげて。お兄ちゃん、傷心なの。今」

「あ、兄貴……前に言ってた好きな人って……あ、振られ……た?」


 直くんまで俺に気を遣い出したじゃないか!


「あ、結仁坊っちゃん……。こちら召し上がって。……えーっと、そうそう。もう一つ奥様からのご遺言が!」


 キヨさんからも気を遣われ、弁解の余地もなく話を変えられてしまった。


 遺言と言われると、俺と桑野さんの色ボケ話は先に言えそうにない。


「遺言とは、なんですか?」

「〝結ちゃんがもし、本当の両親と暮らしたいって言ったら、それは止められないから、その時はご両親にこのお屋敷に住んでもらいましょう!〟ですって」


 ……


「は?」


 俺は状況がよく理解できない。

 確かに、ある種閃き天才型なお母さんが思いつきそうな事だけど……。


「あ、いいじゃん! 部屋は山ほどあるし!」

「確かに……」


 貴ちゃんと直くんが賛同する。


 いやいや。


「それは……」

「是非お願い致します!」


 やんわりとお断りしようと思ったら、おじいさんが大きな声を出す。


「これまでの事は、なくなりません。一生かけても償えません。ですが、これからは……一生かけて孫の……孫の事を全てしてあげたいんです!!」


 ……おじいさん。


「逆ですよ。私はまだ介護は必要としていません」


 俺はまだまだ30代。80歳のおじいさんに何かしてもらおうなど……


「身を粉にして、孫の為に全力を尽くしますので……」


 おばあさん……。


「だ、だめよ! 今の生活があるんだから!! 邪魔してはダメ!!」


 ……俺を産んだ人。



「いいじゃん。お兄ちゃんがいつも言ってるでしょ?」

「え?」

「〝人に優しくしようね〟家訓でしょ?」

「確かに。兄貴いっつも言ってた」

「なんと! お兄さんは直くんに似て素晴らしい!」



 貴ちゃん、直くん、百子さん……。


「坊っちゃん、決まりですね」


 キヨさん……。


 我が家には一票の格差が明確にある。俺とキヨさんはそれぞれ一票。直くんは二票といった所か。


 そして勿論、この末っ子の貴将くんの票数は、一人で十票。


 つまりこの件は13対1……。


 勝ち目が無い。



 ……外堀を埋められてしまった!!




「……そうですね。では、ここに住む以上、貴将の勉強を見てもらいましょう」

「はあ!!? お兄ちゃん何言ってんの!?」


 ふと閃いた。俺を産んだ人は中退したと言えど、国立大学にいた人だ。貴将の勉強を家賃代わりに見てもらおう。


「おじいさんはエクステリアの管理。おばあさんは屋敷内の掃除や管理をキヨさんに習ってしてもらいます。いいですね」


 外堀を埋められようとも、この家の家長は今現在、あくまで俺だ。

 ここに住むなら、どうするかは俺が決める。


「「「いいんですか……?」」」


 このそっくりな三人家族が見事にハモる。意地悪も兼ねて言ったつもりが逆に感謝されてしまった。


 ……もう、流れは止められない。


「結仁坊っちゃん、何はともあれめでたしめでたしで、良かったですね!」


 すごいまとめ方だな。


 だけどもういい。それ以上に俺は伝えたい事がある。


 俺はおつきあいしている彼女がいる。逃げられてはいない。

 それを伝えないと!


「貴ちゃん、しっかりお勉強しようね。学生の本分はお勉強だよ。お兄ちゃんだって、貴ちゃんがしっかりと独り立ちしたのを見届けてから結婚したいからね」

「……俺の留年を見越して、逃げられたんじゃなかったの?」


 やっぱりそういう事か。俺が後4〜5年は結婚しないと桑野さんに伝え、逃げられたと貴ちゃんは思っているんだ。


「逃げられてないよ。お兄ちゃんは絶賛色ボケ中だからね」


 にっこり。あー、清々しい。

 恋とはこんなにも心を満たすものだったのか。なんて幸せなんだ。


 実際、桑野さんにはまだ伝えていないけど、今の俺の気持ちだ。未来予測という事にしよう。


「えー!!!??」

「!!」


 今日一番の百子さんの声が部屋中に響き渡った。ちょっとびっくりした。


「おおおお兄さん!! 本当ですか!? トップシークレットですか!? 明日全社員に社内メール良いですか!!?」

「百子、落ち着いて。まさか……本当に……?」

「まあ。坊っちゃんにそんな方がいらしたとは……。ようやく…! 待ちに待った甲斐がありました!」

「うちの孫は独身だったのか」

「こんなにかっこいいのに」

「お父さん! お母さん! それは触れちゃダメ!」


 キヨさんはまだいいとして、大西さん達まで……。


「遠距離、なんで。隠していたわけではないですよ。今度紹介しますね」


 遠距離を強調。早く桑野さんに電話をしたい。

 ここにいる桑野さんが簡単にイメージ出来る。


 皆を前にして、外面を貼り付けて、穏やかな微笑みを浮かべ挨拶する、桑野さんが。


 桑野さんの本性を知る男はこれから先も現れない。

 俺だけだ。


 ああ……最高に満たされる。



 ああ……最高に幸せだ。

直くんが言ってる『前に言ってた好きな人』は

『直くんとももちゃん〜』の129話『気の利くおせっかい』にて出てきます。

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