第62話 過去の周知と俺の家族。キヨさんの気持ち。
「……大西さんの娘さんが、俺を産んだ人です」
直くんと百子さん、貴ちゃんと、キヨさんに伝わるように伝える。
「なんとっ!!」
「百子……」
百子さんが心底驚いた声を上げ、直くんが窘める。
「墓場まで持っていこうと……黙っていました。申し訳ございません。……直くん、貴ちゃん。黙っててごめんね」
……誰も何も言わない。
貴ちゃん辺りが明るい事を言うかと思っていたけど、黙ったままだ。
俺が空気を凍らせてしまった。
「……元はと言えば、全て私の責任です。私が、自分の正体を知りたいと……探偵を使いました。調べが無ければ、知り合いの人として、今も過ごせていたかもしれません」
皆を見て、告げる。娘さんはよく見れば口が切れてる。……よっぽど力強く叩かれたのだろう。
「皆様を巻き込む形となりました事、心よりお詫び申し上げます。……申し訳ございませんでした」
最敬礼。俺は頭を下げる。
(俺の人生、人に頭を下げてばかりだな)
そんな事を、ぼんやりと思った……。
「申し訳ございませんでした!!」
大西さんのお父さんが大声でそう言い……土下座された。
「も、申し訳ございませんでした……」
大西さんのお母さんが続けて俺に土下座する。
「ほ、本当に……知らなかったでは許される事ではありません。私の娘が……まさか……申し訳ございません」
大西さんのお父さん…。
「坊っちゃん……いつから知っていたのですか?」
キヨさんが俺に尋ねる。
キヨさんは大西さんのお母さんとお友達だ。
「キヨさんが入院した時はまだ知りませんでした。ただ、こちらで雇う話が出た時は……知っていました。だから、拒否したのです。申し訳ありません。キヨさんに嘘をつきました」
身から出た錆だ。俺の。
「お二人共頭を上げて下さい。私は誰も恨んではおりません。寧ろ……感謝しております」
直くんと貴ちゃんの腕を取り、引き寄せる。
「おかげで、こんなにかわいい弟の兄となる事ができましたので」
ブラコンだろうが、兄バカであろうが、何でもいい。直くんと貴ちゃんが、俺を兄にしてくれた。家族にしてくれた。
産まれて初めて出来た……俺の家族だ。
「お兄ちゃん。この人達は、お兄ちゃんのお母さんとおじいちゃんとおばあちゃんなの……?」
「……」
貴ちゃんが尋ねる。直くんは黙ったままだ。
「お兄ちゃんのお母さんは直くんと貴ちゃんと同じお母さん。お父さんもね。おじいちゃんとおばあちゃんはお兄ちゃんにはいないよ」
お父さんとお母さんがご存命の時に、言ってあげたかった。
「お二人が僕の両親です」と。
「坊っちゃん……私は奥様のご遺言を果たしても良いでしょうか?」
「遺言?」
「失礼致します」
キヨさんはそう俺に言い、大西さん親子に近づく。
「失礼致します」
顔をあげた大西さん親子にそう言い……
――パーンッ
「!! キ、キヨさんっ!?」
キヨさんが俺を産んだ人を叩いた。あり得ない光景に俺は直くんと貴ちゃんの目を片手でそれぞれ隠す。……と、思ったら直くんは百子さんの所に行き百子さんの目を隠す。
(か、空の巣症候群……!)
行き場を失った片手を動かして、両手で貴ちゃんの目を隠す。
――パーンッパーンッ
「キヨさん!」
キヨさんは大西さんのお父さん、お母さんもそれぞれ叩いた。大西さん親子はされるがまま、受け入れていた。
「はーっはーっ! 我が屋敷の……ご当主、女主人からのご命令ですっ……!」
キヨさん自体も人を叩くのは初めてだったのか、肩を震わせ息を上げていた。
「ゆ、結仁坊っちゃんが……どのようなお子様であったか……!」
振り絞るようなキヨさんの声……。
「大旦那様から〝これが次だ〟とのお言葉で、結仁坊っちゃんはここに来ました……!」
……あぁ、そんな感じだったなーと俺も他人事のように当時を思い返した。
「わかりますか? 坊っちゃんは物同然のように、ここに投げ入れられたんです!」
投げ入れられてはないけど。自分の足で中に入ったし。
「恐ろしく痩せていて、虚ろな目をして! そうかと思えば子供とは思えない恐ろしい目を向けて来られました!!」
「あー。キヨさん、それは申し訳ありません」
「坊っちゃんは黙ってなさい!!」
当時の俺を咎められているのかと思って謝ったら、逆に怒られてしまった。
「あんな小さな子供が、これまでどのような生活を送られて来たのか……察するにあまりあります!!」
俺は当時、色んな人に迷惑をかけた……。
「どんな時も……ご自分を責め、自分が悪いと責め……。常に何かに怯え……そのお心はどれほどのものであったか……」
キヨさんの目から涙が溢れている。
「この屋敷の主人が亡くなって、坊っちゃんは当時19歳でありながら一人でこのお屋敷を守り抜きました。逃げることなく!」
……。
「お食事も弟様に譲り、ご過労で倒れられ、それでも坊っちゃんは逃げませんでしたよ!!」
キヨさんは……俺の為に、怒ってくれているんだ……。
「〝弟達に帰る家を残してやりたいんです〟と! 坊っちゃんは逃げませんでした! その身を削り、それでも気高く……坊っちゃんは……」
「キヨさん、ありがとうございます。当時はキヨさんの方が大変でしたのに。私が好きでしたことですから。暗い話はやめましょう。過去は過去です」
直くんと貴ちゃんにこれ以上は聞かせられない。今度は直くんと貴ちゃんが当時を気にする事になる。
「何がなんでも、子供を守り抜いた坊っちゃんと比べ、貴方方のこのざまはなんですか!!?」
「……す……みませ……ん……」
俺を産んだ人が泣きながら謝罪する。
「ご両親もですよ! 知らなかった、なんて……。子供と向き合っていない証拠です!! 知らない事も罪です!!」
「仰る通りです……。本当に……」
膝まずいたままの大西さん達。
「産んだのであれば、どんな事があれど、育てなさい!!」
俺は、キヨさんに一生かけても返せない恩がある。
また、今回も……