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第56話 直感の磨き方

 

 〝我が家の決まり事はな隠し事はしない、や〟


 やはり、兄の教えは正しい。俺も隠し事はやめよう。後に自分の首を絞める。


『え? あ、あー! あの時のイケメン!!?』

「俺はイケメンでしたか?」

『やー。都会の人はオーラが違うなぁと思いましたけど、緊張してパッと見て目を反らしてしまったので』

「俺はあれ以来ずっと桑野さんを探していました」

『……わーお』

「言うと思いました」


 直くんにも貴ちゃんにもキヨさんにも聞いた人が負担にならないような事なら、ちゃんと伝えよう。


「俺は自分を産んだ人の話も聞いてみようと思います」

『……はい』

「打ちひしがれて戻って来るかも知れないので、その時は慰めて下さい」

『はい。もちろん』

「逆にいい風に変わるかも知れないので、その時は受け止めて下さい」

『もちろん。どんな三井さんでも受け止めますよ』


 電話の向こうで桑野さんが笑顔なのが伝わってくる。


『私の直感が初めてYESを出した人ですからね。三井さんは』



 俺はもう孤軍奮闘しなくていい。俺は一人じゃない。



 その事に今気づいた。これまでも、一人じゃなかった。

 俺の周りには、いい人しかいない。



「桑野さんも、俺に自信を与えてくれる人です」

『……おやまぁ』

「言うと思いました」

『お互いさらけ出すようになりましたね』

「そうですね。それでも気持ちは変わりませんでした。やっぱり最後は直感が勝ちました」


 直感で思った。そこから考えに考えた。そして確信を得る。やっぱり直感が正しい。


 直感にしたがって進む、行動する。違ったらやり直す、引き返す。そうして、俺は自分の直感を磨いてきた。



 それは、自分を大切にして信頼して感謝するという作業だ。





 大丈夫。もう、過去に縋って自分を憐れむことはない。


 大丈夫。皆がついている。


 大丈夫。……桑野さんがついている。






 ✽✽✽


「こんにちは」

「!!」


 またしても病院に出向く。


「あ、あの! 昨日はすみませんでした。まさか父が……」

「いえ、おかげで大事な事を気づかせて頂きました。寧ろ、感謝しております。ありがとうございました」

「……すみません」

「これまでの非礼を改めてお詫び申し上げます。しかしながら、私もまぁそこそこ(ひねく)れざるを得ない人生を送って来たものですから」


 ちゃんと、対等な会話をしよう。


「……貴方の話を一切聞いていなかったので、もし良ければ、というか言いたければ……聞きますけど」

「……はあ」

「どうします?ここで終わるか、俺と話すか。選択肢は二つです」

「! は、話します!!」


 なんだ。ちゃんと自分の意見を言える人じゃないか。




 明日が仕事が休みというので、明日会うことにした。

 今日は日曜日。後少ししたら貴ちゃんが遠征先から帰って来るから大学まで迎えに行って、明日は午前中だけ会社に行こう。


 そして貴ちゃんに聞いておこう。




 ✽✽


「貴ちゃん、おかえり」

「ただいまー!」


 遠征先から大学まで届けてくれた保護者の方にお礼を言い、荷物の搬入と片付けを終わらせて、貴ちゃんと車に乗る。


「貴ちゃん、遠征どうだった?」

「疲れたけど、楽しかった!」

「そっか。良かった。貴ちゃん……貴ちゃんが大学卒業した時さ、お兄ちゃんが結婚して地方に行ったら嫌?」

「え?」


 なんだかんだ言っても、俺の最優先事項は弟だ。俺は保護者なんだから。


「お兄ちゃん結婚するの?」

「いや、まだ決まった訳じゃないから。貴ちゃんがどう思っているのか聞いておこうと思ってね」

「別に今すぐしてもいいよ。だけど、俺が家にいる間はお兄ちゃんも家にいて」

「貴ちゃんを置いてどこかに行く事はしないよ」


 俺は親代わり。子供が最優先。

 子供を置いて出ていく親の気持ちは分かりたくもない。


「結婚して、俺が卒業するまでうちに住んだらいいじゃん」

「いや、それはしないよ。お兄ちゃんは貴ちゃんが最優先だからね」


 桑野さんには悪いけど、直くんが結婚した今、貴ちゃんの願いが我が家の最優先事項だ。


「お兄ちゃん俺の事ほんと好きね」

「そうだよ。お兄ちゃんは貴ちゃんを目に入れても痛くないくらい愛してるからね」

「よし、入れてみよう! ほら〜!」

「気持ちだよ! 本当に入れたら痛いよ!」


 運転中の俺の目の前に指を差し出す貴ちゃんを咎める。


「良かったね、お兄ちゃん。お母さんの形見あげられるね! お母さん喜ぶよ!!」

「……」


 忘れていた。俺は本当に抜けている。


「そうだね。ありがとう」


 直くんと貴ちゃんにと思っていたけど、やっぱりありがたく貰おう。


 〝お前は、うちの長男だからな〟

 〝結ちゃんのお母さんになりたい〟


 お父さんとお母さんの子供なんだから。俺も。

 そう。申し訳無いとか卑下するんじゃなくて、自信を持とう。


 俺はお父さんとお母さんの子供として堂々と生きよう。




「早いとこ結婚はしていた方がいいよ、お兄ちゃん。逃げられる前に」

「え?」


 ふざけていた貴ちゃんが急に真面目な顔付きになる。


「俺、あと二年半で卒業じゃないかも知れないよ?」

「……進学したいの?」


 まさか貴ちゃんに進級の夢があったとは。……それはそれで応援したい。貴ちゃんの夢は俺の夢でもある。


「そんなわけないじゃん! 俺、勉強嫌いだもん!」

「そうだよね。お兄ちゃんは貴ちゃんの勉強をずっと見てきたし」

「え? お兄ちゃんは俺の宿題がしたかったんじゃないの?」

「……お兄ちゃんは何回貴ちゃんの担任の先生から呼び出しを頂いたことか……」

「え? お兄ちゃんは俺の先生に会うのが楽しみだったからなんじゃないの?」

「……」


 貴ちゃんは色々と自分の良いように解釈を変えることが出来る。見習いたい。


「俺、単位足りないから留年するかも!」


 ……


 …………。


「えーー!!!??」

「ま、お兄ちゃんのことだから俺があと四、五年大学行っても問題無いでしょ?」

「そ、そういう問題じゃないよ!! ちゃんと宿題するってお兄ちゃんと約束したよね!?」

「それは小学校限定でしょ?」

「いやいや! 駄目だよ貴ちゃん! 提出物はちゃんと出そう!」

「えー? もし留年して仕事なかったらお兄ちゃんに雇ってもらうから大丈夫!」

「お兄ちゃんは会社の私物化はしないよ!」

「じゃあ、ニートで! お兄ちゃんから一生お小遣いもらって生活する!」



 ……


 …………貴将くーん!!

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