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第48話 今の俺達の関係性

 

 翌朝……。


(やってしまった)


 朝になって冷静に考えたら、猛烈に恥ずかしさに襲われる。

 人前で泣いてしまった。しかも……結構。



 昨日はあれから、何事も無かったようにお互い体を離して、冷めてしまった料理を感想を言いながらも食べて、桑野さんをホテルまで送って家に帰った。



 俺は、人前では絶対泣かない。小さな時に固く決意した。

 泣き虫と思われないように。血筋卑しい子と思われないように。生意気な目をしていると思われないように……。




 それを何にも無いときに桑野さんの前で…好きな人の前で泣いてしまった。




 ……冷静になって今、合わせる顔がない。



「……」


 顔を洗って鏡を見る。自分の顔はあまり見たくないけど、目が腫れていないか確認する。


 うん、大丈夫。いつもと変わりなし。


 プラスの事を考えよう。昨日の良かったこと。楽しかったこと。


 桑野さんと久しぶりに会って、楽しく会話した。


 そして……。



 …………。



「あ」


 忘れてた。じっくり考えないといけなかった。今後を。

 この関係をどうするのか。



「坊っちゃん、お出かけですか?」

「はい。キヨさん一人にさせてしまい申し訳ありません」


 今日も桑野さんと会う。貴ちゃんは大学の友達と晩御飯を食べて帰るため、キヨさんは晩御飯も一人だ。


「坊っちゃん、私は久しぶりにこの家で一人、羽を伸ばせるとワクワクしております」

「え?」

「一人はかわいそうとでも思っているようでしたら、と思って。独り言です」

「……確実に私に向かって言っていますよね?」

「うふふ」

「……」




 ✽


「それは三井さんが寂しがり屋だからですよ」

「……」


 桑野さんの宿泊先のホテルラウンジでお茶。先程の話を伝えると、そう言われた。


「私も、家族に対してそう思うんです。今日お昼ご飯一人でいい?って。そしたら一人がいい、と言われて傷つきました」

「そうでしたか」

「まぁ、でも私は三井さんと同じ考えです」

「そうですか」


 合わせる顔がないと思っていたが、平静を装い何事も無かったようにすると、桑野さんも何事も無かったようにしてくれている。


「一人って寂しいですよね?」

「今の俺には、難しい質問です」


 両親が亡くなった当時は弟達が幼かったから食事くらいは必ず一緒にしようと決めていた。それは三井の家がそうだったからだけではない。


 京都の屋敷でも御当主であらせられる旦那様がお帰りの時は皆で膳を囲んだ。もちろん俺は一番下座で旦那様から一番遠くの末席だったが。あの時が唯一まともに食べられる物を出してくれる日だった。


 だから、食事は皆で。と思っているのかも知れない。寂しいが理由かは分からない。


「……三井さん。ホテルすっごくゴージャスでした!ありがとうございます!」

「喜んで頂けたなら幸いです」

「夜景もすっごく綺麗で、もう最高に幸せでした!!」

「夜景が綺麗な所が初めて食事をした時もリクエストして貰ったので」

「お心遣いありがとうございます!」

「桑野さんの好みが段々と分かってきました。高級、ゴージャス、格式」

「素晴らしい! 正解です!!」


 昨日から一変、桑野さんは楽しそうに笑っている。




「あれ? 三井CEO?」

「あ」


 知り合いに声をかけられた。


「え? 三井CEOの彼女? いたっけ?」

「こんにちは。ご無沙汰しております。お元気でしたか?」


 俺と桑野さんは昨日、微妙な関係になった事を思い出した。話の主導権を握って、触れさせないようにしよう。


「ああ。ちょっとバカンスに行っててさ。先週帰国したばかりで」

「どちらに行かれたんです?」

「ニースにね! おっと、邪魔してごめんね。そろそろ行くわ」

「今度またゆっくりお話を聞かせて下さい」

「もちろん! また会いましょう」


 彼はそう言い、俺と桑野さんに会釈して去って行った。

 そうだ。取り敢えず今の関係性をはっきりしておかないと。

 取り敢えず付き合ってるままでいいのか……


「三井さん、危なかったですね」

「え?」

「人目につく所は危険です」

「何でですか?」

「……三井さん、私の事を上手く誤魔化さなかったので」

「え? あ。すみません。一旦交際は白紙でしたか?」

「え? いや、三井さんがそれを言うと困るはずです」


 困る? 俺が?


「半年付き合ってるって言うのも良くないですし、かと言って彼女なんて言ったら後に引けなくなりますし」

「……言ってはダメですか?」

「三井さんが困るんですよ?」


 え……だから何で……。



「三井さんはきっと、周囲の信頼が厚い方です。すぐに彼女と別れたなんて三井さんに傷をつけます」



 ……。


「それは……私の台詞ではないでしょうか?」

「え?」

「桑野さんの方こそ、すぐに別れたって……」


 今、〝別れた〟の言葉を言った途端、胸が引きつる感覚がした。

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