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第45話 交際終了3秒前

 

「三井さん、振って下さい。私を」


 俺が?そんなことは出来ない。したくない。


「三井さんが一人でいるなら振って下さい」

「……」


 俺は振れない。振ってほしい。


「私も、不倫は嫌です。浮気も許せません」

「はい」

「でも、結婚したいし、子供も欲しいです」

「はい」

「私は、三井さんからしたら、重い女です」

「……」

「だから……振るのは簡単でしょう?」

「……」


 俺は結婚しない。桑野さんは結婚したい。

 俺は一人。桑野さんは結婚相手を探す。


 交渉決裂だ。これ以上一緒にいてもどうしようも無い。


 停車していた車を帰路に向けて走らせる。





「……」

「……」


 桑野さんも話さない。俺も話さない。

 空気は重い。どうにかしないとな。せっかく東京まで来てもらったのに。


「……私が一生独身なら、三井さんは幸せですか?」


 先に桑野さんが沈黙を破る。

 桑野さんも一生一人。


「……分かりません」


 出来ればそうあってほしいと思った事もあった。

 でもそれが俺の真意なのかももはや分からない。


 何か、別の話題を……。


「私は自分を産んだ人と会う事が出来ました」


 これは誰にも言わない。こんな事を言おうと思った訳じゃない。それなのに…テつい、ポロッと無意識に口から溢れでた。


「え? あ! そうなんですね!! 良かったですね!」


 桑野さんの声色が華やぐ。


「私は日本人でした」

「疑っていませんよ」

「私は疑っていました」

「……外国の要素がどこかにあったんですか?」


 またこれまでの電話のように会話が続く。

 桑野さんとの会話はやっぱり楽しい。呼吸が合うというか、テンポよく会話が続く。


「お母様はお会い出来てどんな様子でしたか?」

「え? ああ。どうでしたかね?」

「え? これまでの話がいっぱいあったのでは無いですか?」

「特には」

「えっ!? あ、じゃあ三井さんからは?」

「特には」

「えっ!?」


 桑野さんが心底驚いている。感動の再会でも予想されてたのか?


「すみません。桑野さんの想像するような再会ではなくて」

「いえ……。三井さんはそれで良かったんですか?」

「え? はい。もう今さら特に話すことも無いですし」

「え? あるでしょう?色々と」


 なんか……段々とモヤモヤしてきた。


「桑野さんの言うこれまでの話とは?」


 人に深入りされるのは嫌いだ。昔から。特にこの件は。

 ……自分から言い出したことだけど。


「三井さんの大変だった事とか」

「言ってどうするんです?何も変わりませんよ」

「でも三井さんは傷ついておられるじゃないですか」

「俺の事を知ったように言うのはやめて下さい」


 俺という人間を決めつけないでほしい。結構、口調が強くなってしまった。


「当人同士でもう既に話はついています。桑野さんには関係ありません」

「……はい。三井さん、この流れです」

「何がです?」


 またしても空気が悪くなった。


「今なら、私を振るのはなんてこと無いですよ!」


 桑野さんが吹っ切れたように、明るく、笑顔で俺に言う。


「……」

「ほら! 早く!! 3秒前〜! 2……」

「振るのは桑野さんです」


 こんなに不誠実とは思わなかった。こんなに冷たい人間とは思わなかった。

 ……俺を振る要素はいくらでもある。



「お互い意地が強いですね」

「……俺も今同じ事を思いました」


 ふ、と顔を見合わせて笑った。俺達は似ている。


「すみません。先程は口調が強くなりました」

「三井さんって怒ったら怖いんですね」

「それはすみません。私からしたら桑野さんの方が怒ったら怖いです」

「よく言われます」

「……よく怒るんですか?」

「よし、暗くなっても仕方ありません。これからを考えましょう!」

「桑野さんのリーダーシップが発揮されましたね」


 この暗い空気の中で俺と桑野さんはなぜか笑いあえた。



 そうしたら……



 一気に空気が軽くなって、




 これから、を良いものに出来る。



 そう予感した。

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