第43話 ずっと、俺だけのものにしたいと思っていました。
びっくりし過ぎてハンドル操作を誤りかけた。危ない。
確かに男性恐怖症は聞いた。だけどそれは成人してある程度時間が経ってからの話しで……
「こ、これまでの人生何をしてたんですか?」
周りの男は何をしてたんだ!?
「真面目に生きてました!」
「いや、そうではなくて……」
「だから言ったんです!私はモテないって!!」
……第一印象は穏やかで優しそうな人。あ、そうか。
「桑野さんは高嶺の花なんですよ」
「はあ!?」
「スッとしていて颯爽と歩くし、スキが無いんです」
「……」
「パーティーでお話をさせてもらったとき、俺も思いました。〝もう相手がいるだろうな〟と」
「口が上手いですね」
「そういうところです。〝スキが無い〟」
「……バカにされないように一生懸命取り繕っているんです」
「そんなにバカにされてると感じますか?」
何かトラウマでもあるのだろうか。
「そんなスキが無い人から微笑まれたら、そりゃあ勘違いして浮かれる男もいるでしょう」
「……私が悪いんですか?」
あ、怒らせたかな。ついびっくりしてズケズケと言ってしまった。
「……俺は良かったです」
「は?」
「もうパートナーがいると思っていたので、桑野さんから付き合ってる人はいないと聞いた時、内心ガッツポーズをしましたよ」
「……人を持ち上げるのがお上手ですね」
……信じない。
「どうしたら……信用してもらえますか?」
「……信じていない訳じゃないです。だけど……」
「はい」
「ここで味を占めたら……お別れが出来ません……」
あ……。
「最初は浮かれていて……初めて好きな人に好きになってもらって、千載一遇のチャンスだとか……そう思って……」
「……」
「半年間で人を好きになる感覚が身についたら、その流れで次に行けるかなって……」
「……」
「私が無理やり提案した事で、三井さんは成り行きで半年間お付き合いして下さっているに過ぎないのに……」
「そんなことは……」
確かに、押し切られた形だった。そして確かに半年間なら。と思った。
「だから、聞いたんです。今日、会いに来てもいいか。」
〝用事は三井さんに会うだけです。それでもいいですか?〟
「私が来なかったら、迷惑かけずに半年が過ぎるから……」
そういう意味だったのか……。
車を結構走らせた。目の前は海。俺は車を停める。
「……俺は今幸せです」
「?」
「桑野さんと、お付き合いして、こうして会う事が出来て」
俺は、一生一人。それは変わらない。
桑野さんに結婚願望が無かったら良かったのに…。
付き合うだけ。それなら俺のハードルもきっと随分下がった。
「ずっと……好きだったので……」
桑野さんはパーティーからの縁だと思っている。
だけど、違う。本当はもっと前から出会っている。
〝あ、ミルフィーユ、買って大丈夫ですか?〟
あの時から、俺の恋はきっと始まっていた。
……そうだ。行き着く所まで行こうと決心したんだった。
「ずっと、桑野さんを俺だけのものにしたいと思っていました」
俺だけに、微笑んで欲しい。
「……次に行かないで下さい」
だけど、俺は一生一人。
つくづく……
俺は自分勝手だ。