第42話 ご褒美がやってきた②
「あれ前に雑誌か何かで見た気がします」
「そうですか」
「凄い。実在したんですね」
ドライブ中の車内。桑野さんにとっては見たことの無い風景のようで、楽しんでくれているようだ。良かった。
「そういえば、私と会ったパーティーで男性陣に囲まれてましたよね」
ふと、気になっていた事を聞いてみる。
「え?」
「私と話した後のことです」
「よく見てましたね。そしてよく覚えていましたね」
「どなたかと連絡とか…取っているんですか?」
「……どうしてそんな事を聞くんですか?」
痛い所を突くな……。
「……腹黒いので」
「答えになっていません」
「……質問に質問で返さないで下さい」
「……連絡は頂きますよ。はい。次は三井さんの番です」
……本当にギブアンドテイクの人だな。
「ふと、気になったので」
「……」
桑野さんからジーッと見つめられる。
「……腎臓弱ってます?」
「あはは! 嬉しい! 覚えてて下さったんですね!」
「ちゃんと食べましたよ。小豆とかぼちゃ」
「素晴らしい!」
「朝と夜」
「真面目! ……私、自分から連絡するのは三井さんだけですから」
……。
「さっきの話の続きですか?」
「三井さんが、気にしてらっしゃるかな?と思ったので」
「そうですね。モテないというのは撤回して頂こうと思っています」
「ああ、私が自分をそんなにモテないって言ったことですか?」
「はい。桑野さんはモテますよ。自覚して下さい」
「……わーお」
「……今の会話に照れる要素がありましたか?」
「なんか……付き合ってる人達の会話みたいですね」
そう言って彼女はまた顔を赤くして、両手で自分の頬を包む。
「……付き合ってるんですよね?」
半年間。プラトニックな。
「なんか実感してしまって」
「今さら?」
「なんか……なんか……恥ずかしいです」
照れ屋だなー。今度はモジモジとしてる。……かわいいな。
「……〝かわいい〟は褒め言葉になりますか?」
「え?」
「桑野さんを褒める形容詞です」
お父さんとお母さんのケンカは基本的に〝かわいい〟が発端だった事を思い出す。
旦那様は学習しないな。と、いつもうっかり口を滑らすお父さんを見て思っていた。
「時と場合と場所によります」
「……また難しい人ですね」
やっぱり桑野さんはお母さんに似てたのか。
「人にもよると思いますけど……」
「俺は?」
「……な、なんか嫌です!!」
また照れてる。俺はダメなのか。
「じゃあ〝かわいい〟は言わないようにします」
「わ、私にかわいい要素がありますか!?」
「え? 無いと思ってます?」
「からかってる訳ではないんですよね!?」
……今気づいた。彼女は自分を全く理解していない。
だから解釈がネガティブなんだ。
「……新たな桑野さんを今知りました」
「えっ!? 何か地雷踏みました!?」
「電話の時の威勢はどこに行ったんですか?」
もっとズバズバ言っていたのに。
「顔を見ると……顔色をうかがいます」
「……腎臓弱ってます?」
「そ、そうじゃなくて……」
今は困った様にオロオロとしている。
「きっ、嫌われたくないじゃないですか……」
……。
「腎臓弱ってますよ」
今度は俺がそう桑野さんに伝える。
「分かっています。けれどもこればっかしはどうしようも無いです」
小豆とかぼちゃは?
「だって……産まれて初めてのお付き合いなので……」
……
…………。
「……はあっ!?」
「バカにしないで下さい〜!」
「いや……びっくりしただけで、バカにした訳では……」
「もうその態度がバカにしてます〜!!」
桑野さんはオロオロと真っ赤になって泣きそうな顔で俺を責める。
確かに少しの時間しか並んで歩けないとか、言われれば納得行くけど……
……やっぱりいつも突然爆弾を落とす人だ!