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第41話 ご褒美がやってきた

 

「ご無沙汰してます」

「久しぶりですね」


 ご褒美がやってきた。飛行機に乗って。


「荷物貸して下さい。お持ちします」

「あ、ありがとうございます」


 荷物を受け取り、空港から駐車場まで進む。

 電話と違ってなんか少し雰囲気が違う。


 大人しい。


「……何かありました?」

「え? いっ、いいえ!」


 動揺してる。やっぱり明らかにおかしい。

 下を向いて、俺から少し離れて歩く。……なぜ?


「……具合でも悪いんですか?」

「え? いっ、いいえ!」

「……」


 原因を探るべく俺はジーッと彼女を見る。

 ん? あれ?


 ……真っ赤。顔が。耳まで真っ赤。


「……照れてます?」

「! 照、照れてなんかいません!!」


 そう言ってようやく顔を上げた桑野さんの顔は恐ろしいほど真っ赤。


「隠さなくてもいいじゃ無いですか。テレ屋なのは知っていますよ」

「〜!!!」


 あれ?言い返されると思ったのに。またうつむいてしまった。


「どうぞ。乗って下さい」


 ちゃんと洗車もしたし、掃除もした。大丈夫。

 後部座席に荷物を置いて、俺も車に乗り込む。


「ありがとうございます。お邪魔します」

「そんなに意識されると手を出したくなります」

「!! ばっ!!」

「いつもの調子になりました?」

「車の中は大丈夫です……」


 なんだその基準は。


「はー。緊張したー」

「真っ赤でしたね」

「バカにしましたね?」

「いつもの調子ですね」


 さっきのは何なんだ。


「男性と長時間並んで歩く、というのは私にはハードルが高いです。しかも太陽の下で」

「よく基準が分かりません」

「いや、よく考えて下さい。異性と並んで歩くんですよ?」


 並んで歩いた事無いのかな?


「私が初めてですか?」

「流石にそうではありませんけど」

「なんだ。残念」

「バ、バカにして〜!!」

「してませんよ。ちょっと浮かれただけです」

「……」

「わーお。は言わないんですか?」

「! 腹黒大魔王!!」

「顔を赤くして言われても嬉しいだけですよ」

「〜!!」


 桑野さんは益々赤くなり、手で顔を覆い尽くして足を小刻みに動かしてる。


 ……穏やかで美人でキレイな人。スッとしていて神々しい人。

 まさかこんなにテレ屋でかわいい人だったとは。


「座っていると距離があるじゃ無いですか……」

「? はい。まぁ」

「並んで歩くはそれよりも距離が近いんですよ……」

「……」


 それで距離を取って歩いていたのか。


「距離なく座るというのもありますけど?」

「その時は私は相手が観察の対象になるので、寧ろジーッと見て、「あ、肝臓!」とか思うんですよ」

「…基準が全く分かりません」


 変わり者だ。


「……三井さんは私が意識してるから、尚更緊張するんです」

「……わーお」

「真似するの禁止です」


 今度は俺が意識してしまった。いつも急に爆弾を落とす人だ。


「じゃあ、今日はドライブにしませんか?」

「?」

「この距離で座っていたら大丈夫なんですよね?」

「あ、はい。あれ? 今日お仕事は? 平日ですよ?」

「私は休日の方が時間が取れません。会議と来客の予定がなければ平日の方が自由に過ごせます」


 休日は貴ちゃんのラグビーが最優先だ。俺は保護者なのだから。


「……なんかかっこいいですね」

「そんな要素がありましたか?」


 彼女の本性を新しく知った。変わり者だ。


「……なんか夢みたい」


 ボソッと彼女が呟く。小さな声で。よく分からない人だ。


「夢って?」

「独り言です。耳がいいですね」

「地獄耳ですかね」


 先日、叔父さんに「耳が悪いのか」と言われた。なぜかいつも桑野さんはそういった所をピンポイントで当てて褒めてくれる。知らないはずなのに。




 ✽


 ランチをしてドライブを続ける。車内の中は会話が絶えない。

 桑野さんとの途切れない会話がずっと続いている。




 楽しくて、穏やかで、満たされた気持ちでいっぱいだ。


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