第40話 結果報告②
「子供達寝かしつけるから、先に部屋に戻ります」
食事も終わり、ゆっくりとしていたら奥様がそう言い、子供達を連れて店を出て行った。
お兄さんと俺の二人。
「お兄さんの小さい頃によう似てましたね」
「私は親バカになってるわ」
「お幸せな家庭を見る事が出来て、私は嬉しいです」
奥様とも仲良さそうにしていて安心した。
「次は結仁くんの番やね。楽しみやわぁ」
「私は結婚しませんよ」
俺の気持ちはやっぱり変わらない。
「お兄さん、この度は本当にありがとうございました」
俺は心を込めてお兄さんにお礼を言う。
「お兄さんのおかげで、私を産んだ人とコンタクトが取れました。DNA鑑定の結果、血の繋がりが確定致しました」
「……」
「私は、血筋卑しい方の子ですけど、日本人のようです」
「結仁くん……」
「お兄さんのように高潔なお方やありませんけど、今は未来に目を向けております」
過去は変えられない。だけど未来は自分で作れる。
「産んだ人とも、お互い人生の汚点はなかった事にしようと、一筆頂きました。これからの人生、私にはもう足枷はありません」
「結仁くん」
「私の父と母は今の…養子先の両親です。私は両親の、三井の子として生きて行きます。これからも……これまでも」
「そうか……」
「その中でも、またこうしてお兄さんと再会出来る機会を頂けました事を、私は忘れません」
お兄さんがいたから、俺は5歳まで生き抜いた。
だから、今の幸せを貰っている。
「本当に、ありがとうございました」
もう、お兄さんに迷惑はかけない。
「なんや…今生の別れみたいやないか」
「そのようなことはありません。……お兄さんが嫌でなければ」
だけど…
「私は、お兄さんの事を弟に伝えることはしません」
俺はお兄さんのように、隠し事をしない家庭は作れない。
「弟達には血が繋がって無いことは伝えています。しかし、それ以外の事は何も伝えていません」
それは両親も同じだ。あの家で俺の生家を知っているのは亡き会長ただ一人。
「私は産まれも、出身も隠したいのです」
俺がどれほどおぞましい人間かは誰にも知られたくない。
「……分かった」
お兄さんは力なく呟いた。
「申し訳ありません。……お兄さん」
両親も直くんも貴ちゃんもキヨさんも、俺がこの家に来るまでの事は知らない。
養子。というだけで、きっと考えが広がる事はあるだろう。
だけど、俺の周りにいる人は皆良い人で俺に過去の追求をする人はいない。
出来る事なら、墓場まで持っていく。……墓は作らないけど。
「結仁くんの人生や。結仁くんが幸せになれる方を選んだらええ」
「……」
「ただ……お節介な兄の気持ちとしては、無条件で結仁くんを甘やかしてくれる人が、いるとええなぁと思います」
「……甘やかすて」
「結仁くんがうんとワガママを言えて、信頼出来る人が一人でもおってくれたらな……」
「私は充分幸せです」
ふと、一瞬。お兄さんから言われて、ほんの僅か
パッと思い浮かんだ。
……桑野さんが。
「結仁くんは甘えるのも弱音を吐くのも出来そうに無いからな」
「そんなことはないですよ」
夜な夜な仏壇の前で、お父さんとお母さんに言っている。
「……それを受け止めて結仁くんを支えてくれる人がおるなら、私は何も言うことない」
「……」
俺のお節介はお兄さん譲りか。
「お兄さん、心配して下さりありがとうございます」
これで一連の出来事は終わった。今、俺は晴れやかだ。
心も軽い。
色々とジェットコースターのような日々と感情を過ごしたけど、これで良かった。
これで、良かった。
あとはご褒美だけだ。