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第35話 提案という名の取引です。

 

「先日はどうも」

「!!!」


 サッと、スパッと終わらせるために、病院に出向いた。

 弁護士を通そうかとも思ったが、それではまた時間がかかる。


 休憩中か、ベンチに座っていた。


「DNA、ご協力頂きありがとうございました。つきましてはお礼を」


 そう言って俺は封筒を渡す。しっかりとその人が持ったのを確認して、俺は話し出す。


「中に300万入っています。手切れ金と言うことで、今後私や私の身の回りに関わらないことをお約束願いたい」


 キヨさんに関わるなとは言えない。あくまで俺とキヨさんは別人格なのだから。

 そして現金。小切手は使い方を知らなかった場合、ややこしくなるからだ。


「い、頂けません!!」

「お金に困ってらっしゃるのですよね?働く場所を探しているとか。うちの使用人から伺いました」


 封筒を返されるが、俺は手を出さない。


「うちで働くというのを断って下さい」


 キヨさんを説得するのは難しい。だからこちらに手を回す。


「金額が足りませんか?」

「……頂けません」


 強情な女だな。


「お互いにメリットが大きいと思います。貴方は実の両親に私という存在がバレたら困るはずです」


 この人の母親がうちで住み込みで働く事になった場合、この人は俺の存在が恐怖になるはずだ。知られてはいけないんだから。


「これは提案という名の取引です」


 大学休学と中退の理由がバレたら困るのはそっちのはずだ。


「こちらの書類にサインを願います」


 二度と関わらずに秘密を保持すること。それが主な内容になっている。


 そして俺の記憶からも抹消して、何事も無かったようにいつもの通りの日常を過ごす。


 直くんと貴ちゃんの前では兄として。

 会社ではCEOとして。

 ――そして……


 ……俺を支える二大巨塔はそれだ。それ以外は俺の人生に必要ない。


 〝足枷になるものはとっぱらわなな〟


「……お金は受け取れません。両親に知られても構いません。けれども、お望みであればサインをします」


 震えた小さな声。


「受け取って頂け無いとなると困ります。後々付きまとわれては困りますから。今、足りない金額をおっしゃって頂ければ、纏めてお支払い致します」


 下を向いたままで、その表情は分からない。


「うちの使用人と繋がっている以上、後からお金を請求されかねませんから」


 俺にとってこれは商談だ。


「きゅ、休憩時間が終わりますので」

「分かっています。ですからこちらにサインを」


 この人が時間に押されていようが俺には関係ない。

 俺は本来、とても冷酷な人間だ。



 俺はお人好しでも、いい人でも何でも無い。



 皆、俺を買いかぶり過ぎだ……!



「署名するだけで、全てが終わります」


 急いでくれ。


 俺はもう一度、冷酷な目で見下ろす。



 ――ブーブー


 突如、俺の携帯が震えた。

 彼女かと思って慌てて画面を見たが、知らない番号。

 ……つまり仕事絡みか。タイムリミットだな。


「また明日取りに来ます。それまでにご署名をお願い致します。」

「あっ」


 ベンチに書類を置いてその場を去る。勿論お金は渡したまま。



 携帯はずっと震えている。


「はい?」

『あ! 三井さぁん! ルナ、でーす!!』


 この前のパーティーで知り合った人だった。確か……モデル?


「……ご無沙汰しております。お元気ですか?」

『はい!三井さんの事考えてたら、私ずっと元気です!!』

「そうですか。よく番号知っていましたね」

『教えて貰ったんでーす!!』


 彼か。出処は。


『ねぇ。今度食事でも行きませんか?』

「あいにく今は仕事が立て込んでおりまして」


 株主総会前。俺はピリついている。


『だったら尚更! 息抜きしないと!』

「せっかくの話ですが、残念ですね」


 切り上げるように話す。


『付き合ってる人いるんでしたっけ?』

「……まぁ」


 一応、桑野さんと付き合ってる事になるのだろう。

 会ってもないし、ここ最近は連絡も無いけど。


『えー!! 先に言って下さい!!』

「そのような話の流れにはならなかったので」


 もしかしたらもう、この前の俺の戯言で終わったかも知れないし。


『どんな人ですか?』

「猟奇的な人です。……だけど、物凄くテレ屋で律儀な人で……」


 時にいたずらっ子のように笑って、穏やかに微笑んで、説明になると理論的で、あとは……。



 あ、やばい。全部好きだ。数える位しか会ってないのに。

 知れば知るほど、彼女に溺れていく。



『猟奇的って。三井さん、騙されていません?』

「かもしれませんね」


 本性とやらはまだ全てでは無いらしいし。


『私だったら、三井さんに釣り合うと思うな』

「そうですか」

『ねぇ、今日会いません? 彼女に内緒で』

「いや、仕事が……」


 あ。そうか。ここで行けばいいのか。そしたら勝負は俺の勝ちで、振ってもらえる。


 俺は一生一人だし、これ以上味を占めたら駄目だ。



 桑野さんから抜け出せなくなる。


「どこで……会いますか?」

『うふ。ルナ、高級ホテルがいいなー。夜景のキレイな。部屋から夜景が一望できる所』


 〝東京は夜景が綺麗ですね。〟


「……予約しますね」

『ルナが癒やしてあげるね』


 〝子守唄でも歌いましょうか?〟



 あぁ……もう。


 〝(ゴクリッ)す! ……き、です〟


 もう!



「すみません。やはり今は彼女を裏切れないので、撤回させて下さい」

『はぁ!? 何それ!?』

「ルナさんのおかげで、行き着くところまで行こうと決意が出来ました。ありがとうございます」


 俺の正体も分かったし。


 全てを伝えて……



 それから先はまた、どうなるか分からないけど。


 俺は未来に目を向けないと。




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