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第34話 キヨさんとの会話②

 

 とにかく、あの母娘は駄目だ。


「貴将が納得するか分かりません」


 貴ちゃんは両親が亡くなってから随分と塞ぎ込んでいた。

 それは直くんも同じだが、ちょっと意味合いが違う。


 貴ちゃんは一過性の人が我が家に来るのを嫌う。

 直くんが結婚した今は貴将の願いが我が家の最優先事項だ。


「貴将坊っちゃんは良いそうですよ」

「は?」

「坊っちゃん、貴将坊っちゃんだってちゃんと成長なさっているのですから」

「……」

「空の巣症候群ですか?」

「痛いとこつきますね」


 この家で、俺だけが成長していない。それを突きつけられた。


「少し、考えさせて下さい」


 俺は普段この言葉は使わない。ビジネスで訪れるチャンスは一瞬。考えている間に、チャンスは他の企業に移る。


 すぐさま行動に移ること。これが不可欠だ。


 だけど、今この状態ではそう言うしか無かった。

 答えは決まっているが……。




 ✽✽✽


「今年度の我社についてですが――」


 重役会議。新年度が始まり、新入社員も入社した。

 時間は止まらない。




「この経営企画、中々面白いね。この資料、誰が作ったのか分かる?」


 会議が終わって黒崎くんに尋ねる。


「そちらの部分は直くんらしいですよ」

「あ……そうなんだ」


 直くんは今、経営企画部にいる。


「守秘義務ですから、持ち帰りは厳禁ですよ」

「……分かってるよ」


 弟が初めて作った重役会議に出す資料だからと言っても、そこまではしない。


「写真撮影も同じですよ」

「分かってるよ!」


 黒崎くんは俺が浮かれていると思ってる。


「そんなに資料を愛おしそうに見られると、つい」

「……そんな目してた?」

「〝えー!直くんが作ったんだ!記念に保管しよう!〟」

「黒崎くんは結構人を弄るよね」


 なんかバカにされてる気がする。


 ……「バカにされてる」で、ふと桑野さんを思い出した。あの電話以来、連絡をとっていない。


 〝俺以外のものにならないで下さい〟


 ……あれはマズかったな。つい、気が動転していたとしても。

 桑野さんに好きだと伝えて、桑野さんも俺を好きだと言ってくれた。それなのに俺は結婚しないから交際しないと伝え、(半年間の関係を持つことにはなったけど)


 そんな中で、あの言葉はないだろう。


 俺はつくづく、自分勝手だ。



「CEO。こちらの世界に戻って来て下さい」

「……また自分の世界に入ってたね」


 このクセはやめられそうにない。


「そんなに直くんが作った資料が嬉しいですか」

「そりゃあ嬉しいよ。どの子が作った資料でも嬉しいし」

「CEOはもう視点が孫を見るおじいちゃんなんですよ」

「……そんなに歳はとってないよ」


 資料には、その人の人間性と情熱が入る。だから、見ていて嬉しいんだ。


「あの直くんが、もう立派な社会人なんだからなー」


 ついこの前まで小学生だったのに。


「その視点がもうおじいちゃんなんですよ」

「……仕事しよう」

「お願い致します」




 ――ブーブー


 仕事をしていたら携帯が震えた。


 もしかしたら、と思い慌てて確認すると、相手は桑野さんでは無かった。


 メール。相手は……。


 DNA鑑定の検査結果だった。


(あの人はあれから送ったのか)


 これで、赤の他人と分かれば、キヨさんの願いも叶えられる。


 あれから女将から連絡があった。

 あの人は帰り際女将に何度も頭を下げていたらしい。代金を支払いたいと申し出たそうだが、俺がもう支払っているから受け取れないと説得するのが大変だったそうだ。


 ……女将に迷惑かけるなよ。




 結果は、親子の確率99%


 はい。確定。


 残り1%なんて鑑定機関の保険だろう。


 ……呆気ない。過去は変えられない。未来に目を向けよう。


 キヨさんの願いは却下。お兄さんには連絡して。あとは……。

 あぁもう。する事が多い。ただでさえ株主総会前で忙しいのに。


 ……あぁ、もう!



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