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第31話 もう一度言ってもらってもいいですか?

 

『はい?』

「私です。今お時間宜しいですか?」


 無意識に桑野さんに電話をしてしまった。


『大丈夫ですよ。何かありました?』

「声が聞きたくなった、というのは理由になりませんか?」

『……わーお』

「照れ隠しが相変わらずですね」


 かけてよかった。笑みが溢れる。


『そんな事を言ってどうしてほしいんですか?』

「常にギブアンドテイクの姿勢ですね。桑野さんは」


 ただ声が聞きたくなった。それだけなのに。


『どうしたらいいか分からないじゃないですか……』


 困ったように彼女が言う。

 そうだよな。話題が無いと。


「子守唄でも歌って下さい。約束しましたよね?」


 俺は社交辞令は言わない。


『あれは冗談です!』

「なんだ。楽しみにしてたのに」

『まだ夕方です』

「夜ならいいんですか?」


 意地悪だったかな。


『……三井さんが勝ったら歌ってあげます』

「上から目線ですね」


 照れ隠しなのは分かってる。あぁ、なんか愛しい。


「俺は負けませんよ」

『すごい自信!』

「幻滅しませんから」


 半年後か……。


「俺以外のものに……ならないで下さい……」


 メンタル弱。絶対言ってはいけない言葉をいとも簡単に言ってしまった。


「俺は……一生一人です」


 俺は、絶対に俺を産んだ人のようになりたくない。

 だから、誰とも付き合う事も無い予定だった。


「だけど……俺以外のものにならないで下さい……」


 あーあ。言ってしまった。自分勝手な戯言を。


『……三井さん泣いてます?』

「……泣いてませんよ」


 俺は絶対に泣かない。自暴自棄になっただけだ。


『私が三井さんの好きな所は、敬語で喋って下さる所です』

「また急ですね」


 話を変えたかったのだろう。


『私のこの、穏やかーな見た目で、男性を立てて柔らかーく喋ると男性は掌を返します』

「なんでそう落差が激しいんですか?」


 最近、少しづつ彼女の本性とやらを聞いてると、見た目とのギャップが激しい。


『すぐに〝俺が付き合ってやってもいいぜー〟みたいなノリになります』

「最悪ですね」


 婚活パーティー、行くなら選んで行ってくれ。


『私の本性を少し知ってる三井さんは、この時の私の気持ちをどう推察しますか?』


 ……。


「バカにされたと心の中で怒ってますよね?」


 正解するかな?


『ご名答! よく分かりましたね!』

「プライド高いですもんね」

『そこから私の反撃が始まります』

「恐いですって」


 何をするんだ。


『……だから、私。三井さんがずっと敬語で私を立てて喋って下さる事が嬉しかったです』


 そうだったのか。


『私は心の中でずっと警戒してましたけど、三井さんは警戒しなくてもいいんだろうなと思いました』

「……いや、私も男なので警戒はして下さい」


 そんな信頼を寄せられても。相手は俺の好きな人なのだから。……複雑な心境だ。



『軽々しさを感じなかったから、好きなんです』




「……もう一度言ってもらってもいいですか?」

『何をです?』

「好きって」

『――はぁっ!!?』


 そんなにびっくりしなくても。


「今、サラリと言ってくれましたよね」

『意識をしたら言えません』

「そうですか。それは残念です」


 最近、桑野さんの本性とやらを少し知って、気づいた。

 まずはお願いすること。拒否されたら素早く引くこと。


「無理は言えませんから、諦めます」


 そうすると……


『……なんか私が悪い事をした気分になるじゃないですか』


 優しい彼女は俺の願いを叶えてくれる。


『……す、……す』


 この時間が最高に幸せだ。電話越しに俺はもうずっと笑みを浮かべている。


『……ゴクリ。す! ……き、です』


 もう最高だ。ゾクゾクするほど、俺が満たされる。


「ありがとうございます。とても嬉しいです」


 すかさず、お礼と喜びを言う事を忘れてはいけない。


『……それなら、よかったです』


 照れてボソボソと話す彼女の声が聞けるから。


「桑野さんはとても優しいですね」


 褒めて次に繋げよう。


『……バカにしましたね?』

「解釈がひねくれてますよ」


 ……中々彼女は認めてくれない。


「桑野さん」

『はい?』


 ギブアンドテイクは忘れずに。


「好きです」




 ああ



 半年後が、永遠に来なければいい。


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