第28話 プレゼント作戦。のはずが…
「黒崎くんってさ、これまで女性に何をプレゼントしてきた?」
「……プライベートですので」
「それは失礼しました」
昨日の彼の言っていたクルーズディナー。桑野さんは船酔いをするらしく却下。ブランドバッグは……彼女は何か買うとき、吟味に吟味を重ねて買うらしい。これは以前の食事の時に聞いた。
長く使うつもりで買うから、妥協はしないらしい。生地からブランドスピリットまで考慮するらしい。
桑野さんに選ばれる物はいいな。きっと大事にしてもらえる。羨ましい。……だから、きっと俺は桑野さんが好きなんだ。
「プレゼントなどCEOはいつも誰にでもプレゼントをしてるではないですか」
「まぁ、そうなんだけど」
こう……なんか意味が違うというか……。
「あの人は前にこれが好きだって言ってたからこれ贈ろうーとか、あの人にはあれだ! ですとか」
「……それ俺のモノマネ?」
「バカにしてはいませんよ」
「その言い方がもうバカにしてるよ」
そんなにいつもウキウキした話し方はしていないはずだ。
まあ、人に物をあげるのは好きだ。喜ばれると嬉しいし。お節介心に火が付くこともある。
(あ。あのキヨさんと同室だったお婆さんと娘さんはちゃんと食べてるのかな)
「女には花ですね」
「花?」
急に黒崎くんが話し始めた。
「女はとりあえず花あげてりゃ喜びますよ」
「……なんか言い方にトゲがない?」
花、ね。却下だな。家まで持って帰れないだろうし。
「私に聞くのが間違っています」
「おっしゃる通りです」
黒崎くんに聞いても参考にならなかった。
プレゼント……ねぇ。
あ、そういえば確かお父さんが……
「熱海の別荘の物件を今度見に行きましょう」
「は?」
「誕生日プレゼントに熱海の別荘と言ってたではないですか」
「そんなこと言いました?私が?」
「え゛…」
なんか養子に貰われてすぐの頃にこんな話をしていた気がする……。
別荘……。あ、そうだ! 付き合ってるんだし、遠距離なんだし。俺が所有するマンションの一室とか? ホテルに泊まる必要もなくなるし!
〝プラトニックで!〟
……マンションなんかプレゼントしたら変に勘ぐられそうだな。
うーん。
「CEO! こっちの世界に戻って来て下さい!」
「! びっくりしたー」
またしてもあっちの世界に。全然改められてない。
「お疲れのようですし、もう帰ったらどうですか?」
「……いない方がいい?」
「はい」
「帰りまーす……」
黒崎くんは本当にズケズケと物を言う。傷つくじゃないか。
✽✽✽
家に帰り、着替えてから出かけた。
「三井くん! いらっしゃーい!!」
「本日はお招き頂きありがとうございます」
先日誘われたパーティーへと伺った。
「俺の彼女!!」
「初めまして!」
「初めまして。お噂は伺っております。こちら細やかですがもし宜しければ……」
「わっ! 嬉しい! ありがとうございます!」
二人で晩酌をすると聞いていたので、希少なワインをセレクトした。
「三井くんはテレビ見ないからな! 有名な女優だぞ!」
「無知で恐れ入ります」
「三井さんも有名な企業のCEOなんですよね〜。すごぉい!」
「ありがとうございます」
一通り挨拶をして彼の自宅のパーティーホールへと通される。
「三井くん! 俺の彼女の友達! モデル!!」
「初めましてぇ〜。ルナでぇす!」
「初めまして。三井と申します。」
「三井くんはな! あの会社のCEO! ちなみに独身!!」
「え〜!! すごぉい!!」
「……ありがとうございます」
バルコニーに出て一息。とりあえず挨拶はしたし、お祝いの品も渡せた。折を見て帰ろう。
「み・つ・い・さん! 見ぃつけた!!」
「……見つかりました」
先程紹介して貰ったモデルのルナさん。
「三井さんって一般人とは思えない位、キレイな顔されてますねぇー」
「そうですか?」
「そうですよぅ。肌とかもすっごいキレイ。思わず触りたくなっちゃう」
そう言って彼女の手が伸びてくる。
「何かドリンクを貰ってきましょうか?」
スッと身体をカクテルカウンターの方に向ける。彼女の手は宙を舞う。
「……いいえ。ねぇ、二人で抜けませんか? 私……酔っちゃったみたいで……支えて欲しいです。」
「……失礼、携帯が鳴っておりますので。」
本当に見計らった様に携帯が震える。
「はい?」
『――あ、私です。今お時間宜しいですか?』
「あ、」
相手はまさかの桑野さん。これまで電話がかかってくることなんかなかったのに。
「今、出先にいるんです。後で良ければかけ直しますが、急ぎですか?」
何か急用だろうか?
『あ、それは失礼しました! 特に用はないので……』
「三井さぁん! 早くぅ!! まだぁ!?」
「えっ……」
『! 失礼します!!』
――ピッ、ツーツー……
ルナさんが叫んだ途端、桑野さんとの電話が切れた。
……。
えーっと、これは勘違い、された?