第26話 振って下さい②
「だから、責任を取って下さい」
「……そう言われましても」
劣勢。彼女優位で話が進んでいる。
「というより、私は誰にも言いたくなかった事を暴露しました。三井さんも結婚したくない理由を教えて下さい。でないとフェアではありません」
自分から言い出したのに?
「私は、養子です。血の繋がった母親はどこの誰ともわかりません」
まぁ、言っておこう。俺は責任を取れないんだから。
「おぞましくないですか?私は日本人かどうかも分かりませんよ」
国立大学の生徒だったとしても、日本人かは分からない。
「だから、結婚はしません」
不倫の結晶とまでは言うまい。
「……三井さんって真面目ですね。やっぱり私の直感は正しかったです。というより、私の五感は間違いない!」
「は?」
「三井さんのご事情は分かりました。三井さんのお気持ちも留意致します」
……なんかまとめに入った?
「半年間、お付き合いしましょう!」
「……はあ!?」
「お互いの主張の妥協案です」
「ど、どの辺りをまとめたらそうなるんですか?」
「終わりが分かってたら、始めるのは気楽ではないですか?」
永遠な事など何もない。それなのに桑野さんに永遠を求める自分がいた。
「……終わりですか」
「三井さんは結婚しない。私は結婚したい。このお互いの不一致がある場合、知らずに交際を始めたらいずれ喧嘩の種になります」
「そうですね」
だから、振って欲しいんだけど。
「けれども、今の私達の気持ちは同じということで相違ないでしょうか?」
「はあ……」
説明になると桑野さんは一気に理論的になる。俺はなす術がない。
「なので、半年間です」
半年経ったら別れて俺は一生一人。桑野さんは別の相手を探すということか。
「それは応じかねます」
そしたら、きっともう抜け出せない。他の男のものになんかさせてあげられない。
「私の本性を知ったら、男性は基本的に引きます。〝こんなに恐い人と思わなかった〟とよく言われますから。」
「……どれだけ恐いんですか」
というより、俺以外の男に素をさらけ出さないで欲しい。
「穏やかな見た目で怒らなそうなのに、厳しいところです。ギャップが激しいようです」
「確かに。納得です」
「何か?」
「何でもありません」
今の〝何か?〟は聞こえなかったからじゃないだろう。
「寧ろ、これは勝負です」
「は?」
なんの?
「私は、三井さんの直感を外す確信があります」
俺が桑野さんを嫌いになると言う事か。
「私の直感は外れませんよ」
「私の直感も外れません」
俺が誠実だと言う事か。
「半年間、交際と言う名の勝負をしましょう!」
彼女が家族の前で見せたリーダーシップをここで垣間見ることになるとは。
「今の話だと半年後にはどちらかの直感が外れていると言う事ですか?」
「おっしゃる通りです。私は三井さんが本当の私を知ったら私を嫌いになると確信しています」
「私は、桑野さんが誠実だと思ってくれている事を裏切ると思います」
「そうなったら、どのみち半年間と思えば気が楽でしょう?」
「……はあ」
それは、俺が桑野さんを嫌いになれればの話の様な……。
「ちなみに、半年間の限りある交際になりますので、そこはプラトニックでお願い致します」
「……は?」
「何か問題ありますか?」
「いえ……」
それって付き合ってるって言うのか?今と変わらないような。
「半年後、負けた方が勝った方の言う事を聞くというのも付け足しましょうか」
「いえ。そこまでは……」
もう断るという選択肢は残されてないらしい。力関係が出来上がってしまった。
この力関係は……ああ、もう。お父さんとお母さんだ。
「では、ここからスタートです。交際開始! よーいドン!」
……お茶目な人だ。